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一般的に、私たちが扶養と聞いて思い浮かべるのは、一定の生活費を提供することで家族を支える状況です。「妻(夫)が夫(妻)の扶養に入る」といったケースはもちろん、大学生の子どもがアルバイトをする際に扶養の範囲で行う、また高齢の両親を扶養に入れるケースなどもあります。
日常会話においては、単に「養う」という意味で扶養という言葉が利用されることも多いのですが、税制法および社会保険制度においては、明確な定義が存在します。
そこで本記事では、扶養から外れる所得ライン(年収の壁)や扶養から外れることによる税金や社会保険料の支払いへの影響について、わかりやすく解説します。
本記事掲載内容は【2024年3月】時点の情報を基に作成したものです。
扶養とは一般的に、ある人が生活費を提供し家族を養うこととされています。扶養は、日本の税制や社会保険制度でも重要な位置を占めています。
それでは、税制や社会保険制度において、「扶養に入る」「扶養から外れる」とは具体的に何を意味し、どのような影響があるのでしょうか。実は扶養には「税制法上(所得税)のもの」と「社会保険制度上のもの」の2種類があります。
税制法上の扶養とは、所得税法に基づいて扶養控除を受けられる扶養のことを指します。扶養控除を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
参考:国税庁「扶養控除」
上記要件をすべて満たすのであれば、扶養控除を受けられ、納税者の所得税の負担を軽減できます。
なお、令和6年度の税制改正では扶養控除の見直し(縮小)を行う方針が示されています。
参考:NHK「扶養控除と子育て支援 税制改正 令和6年度(2024年度)」
一方、社会保険制度上の扶養とは、健康保険や年金の被扶養者として認定される扶養のことを指します。被扶養者となるためには、「被保険者との関係」と「収入の基準」の2つの要件を満たす必要があります。
1.被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人
※これらの方は、必ずしも同居している必要はありません。出典:全国健康保険協会「被扶養者とは?」2.被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
※「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態をいいます。
- 被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く)
- 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
- ②の配偶者が亡くなった後における父母および子
※ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は、除きます。
認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。
なお、上記に該当しない場合であっても、認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上回らない場合には、その世帯の生計の状況を果たしていると認められるときは、被扶養者となる場合があります。
出典:全国健康保険協会「被扶養者とは?」認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、被扶養者となります。
近年、法改正によって、社会保険加入の範囲は拡大しています。勤務先の規模や雇用期間、週当たりの労働時間によっては、ここまで紹介した要件を満たさなくとも社会保険の加入をしなければいけないケースがあります。
2016年10月から | 2022年10月から | 2024年10月から | |
---|---|---|---|
①社員数 | 500人超 | 100人超 | 50人超 |
②所定労働時間(1週間) | 20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
③雇用期間 | 1年以上の見込み | 2カ月超の見込み | 変更なし |
④毎月の賃金 | 8.8万円以上 | 変更なし | 変更なし |
⑤適用除外 | 学生でない | 変更なし | 変更なし |
その他 | 1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数が 正社員の4分の3未満のアルバイト・パートでも ①~⑤を満たす場合は加入 | 変更なし | 変更なし |
この社会保険加入範囲の拡大によって扶養から外れることを、一般的に「106万円の壁」と呼びます。
社会保険加入範囲の拡大にともない、企業が取るべき行動などについては、次の記事で詳しく解説しています。
日本の社会保険制度は、国民が一定の保険料を支払うことで、医療費や老後の生活を保障する仕組みです。そのなかでも、健康保険と厚生年金は働いている人(被保険者)が加入する義務があります。ただし、ある程度の生活費を自分で稼げない者、たとえば子どもや一定の配偶者などは、被保険者の扶養家族として扱われ、自身で保険料を支払う必要がありません。
扶養に入るための条件は前章で紹介した通りです。ここからは一般的に「年収の壁」とも呼ばれる「扶養から外れるライン」について詳しく解説します。
103万円の壁とは、労働者の年収が103万円を超えると、その人自身に所得税が課税される境界線を指す言葉です。この金額は基礎控除(48万円)と給与所得控除の最低額(55万円)を合わせたもので、年収が103万円以下であれば、これらの控除により課税所得が0となり、所得税は発生しません。裏を返せば、この壁を超えると所得税が課税されることを意味します。
106万円の壁とは、従業員数51人以上の企業で週20時間以上働くパート・アルバイト労働者(学生を除く)が、年収106万円を超えると、健康保険と厚生年金保険への加入義務が発生することを指します。
130万円の壁とは、労働者の年収が130万円を超えると、会社員の健康保険と厚生年金の扶養から外れ、自身で国民健康保険と国民年金に加入しなければならなくなるラインを指します。この金額を超えると、保険料の自己負担が増えるだけでなく、社会保険料控除の対象となる会社員の収入が減少するため、その分税負担が増えるのです。
勤務先の従業員数などの条件によっては、106万円の壁によって、扶養から外れるケースもあります。
150万円の壁とは、配偶者特別控除の対象となる配偶者の所得上限を示した言葉です。配偶者の年収が150万円以下であれば、配偶者特別控除を満額受けることができます。しかし、配偶者の年収が150万円を超えると、配偶者特別控除の額が段階的に減少します。また、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えている場合は、配偶者控除および配偶者特別控除の適用を受けられません。
現在、パート・アルバイト労働者が「年収の壁」を気にせず働ける環境整備を目的とした対策が取られています。その一つが、年収106万円を超えて働くなどして新たに社会保険適用となった労働者の収入を増加する取組を行った事業主に、キャリアアップ助成金を支給するものです。
また、繁忙期に労働時間を延長したことなどにより、一時的に収入が上がったとしても、事業主がそのことを証明することで、引き続き被保険者の扶養に入ることが可能になる仕組みも導入されています。
参考:「年収の壁」対策 | 首相官邸ホームページ
参考:年収の壁・支援強化パッケージ | 厚生労働省
社会保険制度上における扶養のボーダーラインである106万円または130万円の壁を突破し、扶養から外れることになった際の手続きについて、解説します。
現在、扶養している者の勤務先の人事や労務担当者に扶養を外れる旨を申し出る。
勤務先の指示に従い扶養者(異動)届を記入し、必要な書類(たとえば、結婚証明書や入学証明書などの理由に応じた書類)を添えて提出する。
勤務先を通して必要書類が社会保険事務所に提出され、承認される。
社会保険制度上の扶養から外れる場合は、新たに自身で社会保険に加入しなければなりません。勤務先の社会保険に加入する、また自営業やフリーランスの方であれば国民健康保険と国民年金などに加入することになります。
なお、雇用主が行うべき手続きについては、次の記事で詳しく解説しています。「年収の壁」に関する最新情報についても紹介していますので、ぜひご覧ください。
社会保険制度の扶養から外れると、次のようなメリットがあります。
自分自身が社会保険の被保険者となるため、医療費や給付金を直接受け取れるようになります。
扶養家族から外れると、具体的には病気やケガで働けなくなった際に、傷病手当金として約3分の2の給与が支給されます。これは健康保険法に基づくもので、自分自身が被保険者となることで受けられる権利です。
社会保険料の支払いにより、自分個人の厚生年金が積み立てられます。これにより、将来的に受け取る年金額が増加するのです。厚生年金は納付年数と納付額により受取額が決まるため、自身で納付を始めることで将来の年金生活の安定に寄与します。
扶養から外れるということは、一般的にはその人の収入が増加したことを意味します。これにより生活水準を向上させる機会が得られます。
配偶者や親からの扶養から外れることで、経済的な自立を達成しやすくなるでしょう。経済的な自立は自己実現に寄与し、精神的な充実感をもたらします。
扶養から外れることは、メリットばかりではありません。デメリットについても解説します。
社会保険に加入すると、保険料を自分で負担する必要があります。これは給与から自動的に引かれるため、手取り額の減少にもつながるでしょう。
収入が増える一方で、保険料の負担も増えるため、そのバランスが保てるかどうかが問題となることもデメリットです。とくに所得が低い場合は保険料負担が重くなります。
社会保険の被保険者となるための手続きや、その後の手続き(退職時など)は手間となります。これらの手続きは法的な義務となるため、避けることはできません。
日本の税制や社会保険制度は複雑で、配偶者や扶養家族の所得によっては突然の税負担や保険料の上昇に直面する可能性があります。本記事を参考に、扶養に対する理解を深め、ベストな働き方を模索していただけばと思います。
本記事掲載内容は【2024年3月】時点の情報を基に作成したものです。
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