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製造業からサービス業まで広範な分野で委託業務が行われています。その中でも、委託側(親事業者)から受託側(下請事業者)に発注する下請取引では、親事業者が優越的地位を利用し、下請事業者が不当な不利益を被るケースもあります。
本稿では、親事業者の優越的地位の濫用行為を規制する下請法の概要、適用される取引のほか、違反した際の罰則などについてもわかりやすく解説していきます。
一般にはあまり知られていない下請法ですが、正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」です。
下請取引では、仕事を委託する側の親事業者が、その優位な立場を利用し一方的な都合で下請代金の支払いを遅延したり、不当に代金を引き下げたりするなど、下請事業者に不利益を与える場合があります。
下請法は、こうした親事業者の優越的地位の濫用行為を取り締まるとともに、下請事業者の利益を保護するための法律です。
もともと、日本の製造業には部品などを自ら製造(内製)するのではなく、中小の部品メーカーに委託するという構造的な特徴がありました。
そして、高度経済成長期に突入すると、完成品メーカーによる代金の支払遅延のほか、長期手形による支払い、単価の引き下げなどが社会問題化しました。
不公正な取引方法を規制する法律としては1947年に制定された独占禁止法がありましたが、下請事業者からの申告が期待できないだけでなく、手続が煩雑で時間がかかるなどの事情もありました。
このような背景をもとに、1956年 に独占禁止法の特別法として下請法が制定されました。
その後、何回かにわたって改正が行われ、現在では製造業からサービス業まで幅広い分野に適用されるものとなりました。
下請法は、適用対象となる取引の範囲を①取引内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託)と②資本金区分の両面から定めています。
下請法の規制対象となる取引の内容は、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つに大別され、適用対象となる取引は多岐にわたっています。
イ.製造委託
製造業者が規格、品質、形状などを指定して他の事業者に製造・加工を委託するものが該当します。
ロ.修理委託
修理業者が他の事業者に修理を委託したり、修理の一部を委託したりするものが該当します。
ハ.情報成果物作成委託
下請法ではプログラムやデザイン、コンテンツなどを「情報成果物」と呼び、これらの提供・作成を行う事業者が、他の事業者に作成作業を委託するものが該当します。さらに情報成果物の作成委託については「TVゲームソフトや会計ソフトなどのプログラム」の作成委託とそれ以外の「映像コンテンツ、商品デザインや設計図面など」の作成委託に分けてルールが定められています。
ニ.役務提供委託
各種サービスの提供を行う事業者が、役務の提供を他の事業者に委託するものが該当します。さらに役務提供委託については、「運送・物品の倉庫保管と情報処理」と、それ以外の「ビル・機械メンテナンス、コールセンター業務など」の役務提供委託に分けてルールが定められています。
下請法は、取引を委託する事業者の資本金、受注する事業者の資本金によって、「親事業者」「下請事業者」に該当するかを定義します。委託する取引内容によって資本金区分が異なることに注意が必要です。
イ.製造委託・修理委託・情報成果物委託(プログラム作成のみ)・役務提供委託(運送・物品の倉庫保管と情報処理のみ)
資本金が3億円を超える場合と、1,000万円を超えて3億円以下の場合に分けられています。
・自社の資本金が3億円を超える事業者
資本金3億円以下の事業者に委託する場合、発注者は親事業者、受注者は下請事業者に該当します。
・自社の資本金が1,000万円を超え、3億円以下の事業者
資本金1,000万円以下の事業者に委託する場合、発注者は親事業者、受注者は下請事業者に該当します。
ロ.情報成果物委託(プログラム以外)・役務提供委託(運送・物品の倉庫保管と情報処理以外)
資本金が5,000万円を超える場合と、1,000万円を超えて5,000万円以下の場合に分けられています。
・自社の資本金が5,000万円を超える事業者
資本金5,000万円以下の事業者に委託する場合、発注者は親事業者、受注者は下請事業者に該当します。
・自社の資本金が1,000万円を超え、5,000万円以下の事業者
資本金1,000万円以下の事業者に委託する場合、発注者は親事業者、受注者は下請事業者に該当します。
下請法は、親事業者に4つの遵守義務を定めています。
親事業者は、口頭発注によるトラブルを回避するため、発注に際して具体的な内容を記載した発注書面を下請事業者に交付しなければなりません。
発注書面に記載が必要な事項は次の12項目です。
下請法は、発注書面の様式の定めはないため、上記の全てが記載されていれば任意の様式で問題ありません。なお、発注書面については下請法の条文番号から「3条書面」と呼ばれることがあります。
支払期日が曖昧な場合、支払遅延につながるおそれ、ひいては下請事業者の経営が不安定になる可能性があります。そこで、親事業者は、下請事業者と合意の上、下請代金の支払期日を事前に定めるよう義務づけられています。
なお、支払期日には「60日ルール」がありますが、詳しくは後述します。
親事業者の法令違反行為に対する注意喚起と、公正取引委員会などによる迅速・正確な調査・検査のために、親事業者は下請取引が完了した場合、取引記録に以下の17項目を記載し、2年間保存するよう義務づけられています。
親事業者が支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、下請事業者に遅延利息を支払うよう義務づけられています。
遅延利息は、発注した物品などを受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払いが行われる日までの期間、その日数に応じて年率14.6%で計算します。
当事者間でこれよりも低い約定利率を定めていた場合でも、こちらの利率が適用されることになります。
下請法では、親事業者に対し、11の行為について禁止規定を置いています。
下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注時に定められた金額から一定額を減じて支払うことは全面的に禁止されています。値引き、協賛金など、名目や方法、金額の多寡を問わず認められません。
下請事業者に責任がないにもかかわらず発注した物品などを受け取らないことは禁止されています。例えば、親事業者の都合による仕様変更などを理由とする受領拒否などが該当しますが、これに加え、正当な理由のない発注取消や納期の延期も受領拒否にあたります。
下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注した物品等を受領後に返品することは不当返品として禁止されています。なお、不良品があった場合の返品については、受領後6カ月以内に限り認められます。 直ちに発見できない瑕疵について、下請事業者に責任がある場合は受領後6カ月以内であれば返品することができます。
ただし、一般消費者に対して品質保証期間を定めている場合は、保証期間に応じて最長1年以内の返品が認められます。
下請事業者への代金の支払いは、発注した物品などの受領日から60日以内に行わなければなりません。 受領した物品などの社内検査が済んでいないことは支払遅延の理由にはならないとされています。 なお、下請代金の支払期日が金融機関の休業日にあたる場合、支払日が土曜日または日曜日など支払いを順延する期間が2日以内である場合であり、なおかつ、親事業者と下請事業者との間で支払日を金融機関の翌営業日に順延することについて、あらかじめ書面で合意している場合は、結果的に受領日から60日を超えて下請代金が支払われることは認められています。
なお、年末年始やGWのような連休が続く場合であっても、順延できるのは2日以内です。カレンダーによっては連休前に振込手続きを終えておく必要があるでしょう。
なお、下請事業者からの請求書の提出が遅れていることを理由に支払いを遅延させることも禁止行為に該当します。この場合には、速やかに請求書を提出するよう督促するなどの対応が望まれます。
買いたたきとは、発注する物品などに通常支払われる対価よりも著しく低い下請代金を親事業者が不当に定めることです。
「通常支払われる対価」とは、同様の取引内容について、その下請事業者の属する取引地域において一般に支払われている対価を意味しています。
下請代金は、事前に下請事業者と協議の上で定める必要があります。
正当な理由なく、強制的に親事業者が指定する製品・原材料などを購入させたり、保険やリース等の役務を利用させたりすることは禁止されています。
正当な理由とは、「下請事業者に発注する物品等の品質を維持するため」などの理由のことです。例えば、自社工場に乗り入れられる車両を限定し、自社製車両の購入を強制することなどは禁止行為となります。
下請事業者が、親事業者が有償で支給する原材料を使用して物品の製造などを行っている場合、発注している物品に対する下請代金の支払期日よりも前に、原材料の代金を支払わせることはできません。下請代金の額から控除することも禁止行為となります。
下請代金を手形で支払う場合、銀行や信用金庫など一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付して、下請事業者の利益を害することは禁止されています。
割引困難な手形とは、繊維業は90日、その他の業種は120日を超える長期の手形のことです。
下請事業者に責任がないにもかかわらず、費用を負担せずに発注の取り消し、内容変更、やり直し、追加作業をさせて下請事業者の利益を不当に害することはできません。給付内容を変更した場合、その内容を記載して保存する必要があります。
親事業者が、自社のために下請事業者に金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させることは禁止事項となっています。具体的には、下請代金の支払いとは無関係の協賛金や従業員の派遣要請などが該当します。
以上の禁止行為を親事業者が行った場合に、下請事業者はその事実を公正取引委員会や中小企業庁に通告することができます。こうした場合、親事業者が下請事業者に取引停止などの報復措置を取ることは禁止されています。
前述の親事業者の遵守義務のうち、「②支払期日を定める義務」では、定める支払期日は、検査の有無を問わず、発注した物品などを受領した日から起算し、60日以内のできるだけ短い期間内とされています。「60日ルール」ともいわれています。
支払期日を定めなかった場合、法定の支払期日が適用されます。つまり、当事者間で支払期日を定めなかった場合は物品などを実際に受領した日が支払期日とされ、当事者間で支払期日を合意していても、それが物品などを受領した日から起算して60日を超えた日である場合は、受領日から起算して60日を経過した日の前日とされます。 この場合も、下請代金の支払遅延のところで述べたように、支払日が金融機関の休業日、年末年始、GWなどにあたる場合、順延期間が2日以内であり、かつ、下請業者とあらかじめ書面で合意されていることが必要です。
下請法では、違反行為に対し、厳しい取り締まりを行っています。取り締まりには、①書面調査・立入検査、②勧告の公表、③罰金の3つがあります。
公正取引委員会、中小企業庁では、毎年、下請取引が公正に行われているか否かを把握するために、親事業者と下請事業者に対する書面調査を実施しています。加えて、必要に応じて親事業者が保存している取引記録の調査や立入検査も実施しています。
公正取引委員会は、親事業者が下請法に違反した場合、その取りやめだけでなく、原状回復や再発防止などの措置を実施するよう勧告します。勧告がなされた場合、原則として会社名とともに違反事実の概要、勧告の概要が公表されます。
親事業者が、発注書面を交付する義務、取引記録に関する書類の作成・保存義務に違反した場合、違反行為をした従業員など本人だけでなく、親事業者(会社)も50万円以下の罰金に処せられます。
親事業者に対する定期的な書面調査などにおける報告の拒否、虚偽の報告、また、立入検査の拒否、妨害なども同様に罰金に処せられます。
下請法について、概要や適用される取引のほか、違反した際の罰則などについても解説してきました。
下請法は、下請取引における、親事業者の優越的地位の濫用行為を取り締まるとともに、下請事業者の利益を保護するための法律として重要な役割を担っています。
下請契約の際には、親事業者はもちろん、下請事業者も自社を守るために下請法への理解を深めておくことが大切です。
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