領収書というと、発行した取引先や店舗による押印がされている、企業の担当者が押印して初めて有効となるものだと考えている人は少なくありません。しかし近年では、押印がない領収書が増えています。
これは企業の経理業務や税務を遂行する上では、どのような影響があるのでしょうか?また、従来のような押印がある領収書と比較して、処理方法や法律的な位置づけが異なるということはあるのでしょうか?
今後ますます進むと考えられている電子処理を進める上では、押印のない領収書の適切な取り扱い方を知っておきたいものです。
目次
企業の業務上、印鑑は絶対必要不可欠な存在か?
企業が経費や税務の処理を行う場合には、領収書に押印があってもなくても、取り扱い方法や位置づけは同じです。2020年6月には、政府が「請求書や領収書、また見積書への押印は不要」だという見解を出しています。これは、各企業がそれまでの押印を見直すきっかけとなりました。
またコロナ禍における感染拡大対策も配慮して行われた2021年4月施行の労働基準法改正においては、届け出への押印が廃止となりました。今後の押印廃止はさらに進むと予想されています。
領収書に押印がなくても受理される理由とは?
領収書は、いつ・誰が・どこで・どんな理由で・いくらの経費を使ったかという必要項目が記入されていることが必要です。各項目に関しては下記で説明しますが、領収書に記載されていなければいけない項目には、押印はありません。つまり、領収書として認められるためには、押印がなくても必要な情報が明記されていればOKなのです。
領収書として認められるために記載されているべき項目
押印の有無に関係なく、領収書として認められるためには、以下の項目が明記されていなければいけません。必要な項目が記載されていないものは、実質的には経費計上できる場合でも、書類不備という扱いで領収書として認められない可能性があるので注意したほうが良いでしょう。
記載が必要な項目1:領収書と明記
大半の領収書には、上の方に大きく目立つ漢字で領収書と明記されています。これは、その書類がどんな目的で発行されたのかを示すもので、領収書という記載があることが、領収書として認められる条件となります。
記載が必要な項目2:日付
日付も必要不可欠な項目の一つです。令和X年X月X日という表記方法でも良いですし、XXXX年X月X日という西暦表記でも問題ありません。どちらかに統一しなければいけないというルールはありませんが、年月日が記入されていることが領収書として認められる条件となります。
ちなにみに、その領収書が発行された時間については、記載する必要はありません。
記載が必要な項目3:金額
領収書には、1円単位で支払った金額が明記されていなければいけません。特に、軽減税率の対象となる品目に関しては、その点も明記していることが必要です。
もしも複数の品目に対して領収書を発行する際には、軽減税率の対象となる品目、それ以外の品目ごとに別途の税率で計算し、合計した金額を領収書として記載すればOKです。
記載が必要な項目4:内容
具体的な商品名や製品名を記入する必要はありませんが、その領収書がどんな品目に対して発行されたのかを記載する必要はあります。例えば、コピー用紙やペンなどの文房具に対しては、事務用品代とざっくりまとめればOKです。飲食店や居酒屋などを利用したときの領収書なら、飲食代とすれば良いでしょう。
また、出張に出かけた時に発行してもらった宿泊費やタクシーの移動費などは、旅費交通費という品目にまとめることができます。
記載が必要な項目5:宛名
企業の経費として計上する場合には、領収書のあて名は個人ではなく社名を記載します。社名と個人名を記載しても問題はありませんし、個人名だけの領収書でも企業の領収書として認められます。
社名で領収書を発行してもらう際には、「(株)佐藤建設」なのか、それとも「佐藤建設(株)」なのかの区別を明確にするために、前株か後株かは正確に発行主へ伝えるのが賢明です。同じ企業名でも(株)が前についているか後についているかによって、異なる企業となってしまうリスクがあるからです。
記載が必要な項目6:金額によっては収入印紙も必要
領収書の金額が5万円以上の場合には、収入印紙を領収書に貼ることが義務付けられています。これは、どの品目に対しても適用されるルールで、領収書を発行するタイミングで発行する側が収入印紙を貼らなければいけません。
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記載が必要な項目7:発行主
誰がその領収書を発行したかという責任の所在を明らかにするために、領収書には発行主が明記されていなければいけません。多くの場合、ショップ名や社名が多いですが、中には販売者の個人名が記載されることもあります。
領収書の押印廃止のタイミングで理解しておきたいポイントとは?
領収書の押印が廃止になったことによって、これまでは自身が領収書とは認識していなかったものでも領収書として認められるかもしれない、という疑問も生まれるでしょう。領収書に記載されていなければいけない上記の項目を踏まえて、領収書の認識を深めるとともに、領収書として使える他の形態についても知っておきたいものです。
レシートは領収書の代わりになるのか?
ショップで買い物や飲食をすれば、レシートを発行してもらうことができます。領収書はこちらからリクエストしなければ発行してもらえない場合でも、レシートは購入しましたという証拠となるため、自動的に発行してもらえるケースがほとんどです。
このレシートは、改竄しづらいという特徴があります。また多くのレシートには、具体的な金額に加えていつ支払ったのかと言った点、また品目についても商品コードなどが記載されています。こうしたデータは、実際に経費として使ったことを証明する書類となるため、領収書の代わりとして使える可能性は高いです。
ただし、領収書に記載されていなければいけない上記の項目とレシートを比較すると、レシートには必要項目がいくつか抜けていることに気づくでしょう。例えば、レシートには領収書というタイトル表記はありません。また、誰に対して発行したのかという宛名表記もありません。
そのため、もしもレシートを領収書代わりとして使うのなら、もれている項目を細かく記載した上で、領収書の代用とすることをおすすめします。
電子印鑑を使ってもOK?
経理業務の電子化を導入した企業では、これまでの押印の代替策として電子印鑑を採用している所が多くあります。印鑑廃止の流れとなっていても、社内規定で各種申請書類には押印が必要だというルールを維持している企業は多く、領収書の場合にも押印がなければ経理部が受理してくれない可能性は大いにあるでしょう。
電子印鑑の取り扱いがOKかNGかについては、企業ごとに対応は異なります。すでに押印廃止の方向で対応するため、官公庁に提出する該当書類なら、電子印鑑が押されていても、押されていなくても、問題なく受理されます。しかし社内規定で電子印鑑が受理されない場合には、従来のように紙面の領収書に対して押印する作業が必要となるので注意してください。
領収書のあて名がブランク、どうする?
領収書は、誰に対して発行された領収書なのかを明確にするため、会社名もしくは個人名での宛名表記が必要です。これは、押印が廃止になっても変わることがないルールなので、すべての領収書で守らなければいけません。
もしも領収書を発行する側が宛名をあえてブランクにしている場合には、税務処理を行う前にきちんと必要な情報を記入しておく必要があります。
押印廃止でも収入印紙は必要
領収書への押印が廃止になったとはいえ、上記のように一定金額以上の領収書に対しては、収入印紙を貼る必要があります。収入印紙というのは、印紙税法に基づいて貼ることが義務付けられています。5万円未満の場合に貼らなくて良いというのは、非課税の扱いとなっているからです。押印廃止と収入印紙を貼る作業とは関係がないため、押印の有無にかかわらず収入印紙が必要な時にはしっかり貼った領収書を発行しなければいけません。
収入印紙を貼った場合、そこに消印を押すことが必要です。消印というのは、収入印紙と領収書の両方にかかるように押印するもので、押印の代わりに署名でも代用できます。押印は不要でも、この消印は不要となるわけではありません。
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領収書の形式は受け取る側のニーズに合わせるのが理想的
領収書の押印廃止は、法律改正によって始まった新しい傾向です。しかし企業の中には社則で領収書の押印を義務付けている所もまだ多く、その際には発行する側が押印不要だと言っても、受け取る側は押印が欲しいと希望することはあるでしょう。
領収書は、発行する側のニーズよりも、受け取る側のニーズを優先するのが理にかなっています。そのため、普段は押印なしの領収書を発行している所でも、受け取る側が押印を希望した場合には、さっと押印できるような体制や準備をしておくのは、企業マナーとして求められるかもしれません。