新型コロナウイルスの影響もあって、多くの企業でテレワークを導入するようになっています。また、事業拠点を分散したり縮小したりするケースも多く見られます。こうした流れで、今まで対面で行っていた取締役会についてもリモート開催ができないかと検討することもあるでしょう。そこで、法的かつ実務的な面でリモート開催は可能なのか、可能であればどのような形で行うのかを解説していきます。
目次
取締役会をリモートで開催することは可能
取締役が同じ場所に集まることなく、リモートで取締役会を開催することは可能です。法的にも問題ありません。会社法第369条では、取締役会を有効とするためには、取締役の過半数の出席が必要としています。しかし、特定の場所に一同が会することまでは求められていません。
取締役会では毎回議事録の作成が求められています。その作成については、取締役の出席方法についての記載が含まれています。つまり、必ずしも同じ場所に集まる必要はない前提でルール作りがされているわけです。
取締役会は法律上、必ずしも特定の場所で集まることは必要とはされておらず、リモート開催が可能です。実際にコロナ渦においては、対面接触を避けるために多くの企業でリモート開催が行われてきました。これらの取締役会が無効だと主張されたことはなく、問題のない形式であると確認されています。
リモートで取締役会を行う方法
では、具体的にどのような形でリモート開催をすれば良いのでしょうか。法務省がその条件について見解を示していますので、確認する必要があります。
法務省の説明によると、「取締役間の協議と意見交換が自由にでき、相手方の反応が良く分かる場合、すなわち、各取締役の音声と画像が即時にほかの取締役に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組み 」 (注)である必要があります。(注)法務省民事局参事官室「規制緩和等に関する意見・要望のうち、現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について 」(平成8年4月19日 )
【出典】Q&A テレビ会議による取締役会と議事録
このように、リモートではまず、意見交換が自由にできることを条件としています。これには、通信が双方向である必要があります。たとえば、本社で出席している人だけでなく、支社や自宅などにいる取締役も、マイクを通じて音声を他の出席者に伝えられるようにすることが必要です。また、相手方の反応が良く分かるようにすることも求められています。そのため、常に音声がつながった状態であることが望ましいといえます。
また、即時に音声と画像が伝わることも条件としています。たとえば、事前に自分の意見について録画したものを流すだけでは、条件に反していることになります。そのため、リアルタイムにそれぞれの会場を映し出すシステムを使うことが必要です。
こうした双方向かつリアルタイムの通信環境が整えば、リモート開催が可能となります。条件を満たすものとしては、まずテレビ会議システムを挙げることができるでしょう。もう一つは、ZOOMなどのWeb会議システムです。どちらを利用しても構いませんが、ネット回線とアプリだけで利用できるWeb会議システムを使う企業が多いです。
映像を流さない電話会議システムでもリモート開催の条件を満たすため、開催は可能とされています。ただし、すぐに誰もが意思表示ができる形での開催が求められていますので、電話をスピーカーフォンにして、リアルタイムで進行可能な形にする必要があります。通常の通話機能で話をしながら進めるのは、リモート開催の条件を満たさない可能性が高いので避けた方が良いでしょう。
リモート開催をする際の注意点
このように、法的にも実務的にもリモートで取締役会を開くことは問題ありません。しかし、対面での開催に比べて条件が厳しい点や、事前に考慮すべき点があるため注意が必要です。開催してみたものの、うまくいかずに納得する結果が得られなかったとならないように、しっかりと事前検討しておきましょう。
法的条件を満たすツールの選定と準備
これまで解説してきたように、リモート開催にあたってはリアルタイムであることや、すべての出席者からの音声を共有できることが条件となります。そのため、こうした条件を満たす機能を持っているツールを選ぶ必要が出てきます。しかも、メイン会場だけでなく、それぞれの取締役がいる場所での設置が可能で、全員が利用できるツールでなければいけません。
その点、Web会議システムであれば、パソコンとインターネット環境があれば問題なく開催可能です。しかし、パソコンにWebカメラやマイクがなければ、リモート出席側の意見表明ができず、条件を満たせなくなってしまいます。そのため、ツールを選定すると同時に、すべての取締役がツールを確実に使えるかを確認する必要があるでしょう。実際に取締役会を開催する前にテストをして、問題なく利用できるかを確かめることで当日のトラブルを避けられるはずです。
通信環境を良好に保つ
どのようなツールを使うにしても、回線状況などの通信環境が良好な状態であることを確認すべきです。回線が不安定な状態では、通信が途中で切れてしまったり、音声や映像がうまく伝わらなかったりする恐れがあります。会議中にこうした通信トラブルが生じると、進行に支障を来しますので気を付けなければなりません。
自宅から参加する取締役については、より通信環境に注意が求められます。自宅回線はオフィス回線よりも速度が遅い傾向にあるからです。通常のメール送信などは問題がないかも知れません。しかし、映像と音声をリアルタイムで通信するWeb会議システムは大容量の通信が必要となるので、障害が出るリスクも高くなります。万が一、通信トラブルで参加できないことになれば、その取締役は欠席とみなされます。
こうしたトラブルを事前に想定して、障害が起きた場合にどう対応すべきかルール作りをしておくと良いでしょう。また、途中で障害が起きた時の代替手段や、出席者との別の連絡手段を確認することも大事です。
招集通知について
原則として取締役会の開催には、1週間前までの通知が必要です。招集通知で日時や場所、議題などを知らせることになります。リモートの場合は特定の場所を指定することができませんので、Web会議システムで使うIDやパスワード、URLなどを記載することが必要です。
リモート開催の招集通知はメールを使用する企業が多くなっています。相手が確実にチェックしたことが分かるように、開封確認通知機能を利用すると良いでしょう。確認したことを返信するよう本文に記載することも効果的です。
情報漏えいのリスクを考慮
リモート開催をする場合、出席者が自宅やホテル、支社などで参加することが想定されます。こうした場所で行う際には、会議の内容について情報漏えいが起きないように配慮しなくてはなりません。取締役会では機密事項について話し合うこともあるため、情報漏えいのリスクを考慮して十分な対策を講じましょう。
そのため、音声が漏れることがないよう、イヤホンやヘッドホンをして参加することが推奨されます。また、会議中は同じ部屋に誰も入らないようにすべきです。同時に、使用するインターネット環境についてもセキュリティーが確保されている回線だけを使うようにしなくてはなりません。
リモート取締役会における議事録
取締役会では毎回議事録を作成することが求められています。リモートであっても法に則った形で作成しなければならないことに違いはありません。しかし、対面と違ってリモートで行う場合は、いくつか注意したい点があるため、議事録作成者には事前に伝えておきましょう。
開催場所の記載
取締役会議事録では、開催日時と場所を記載することが求められています。リモート会議では場所が一つではなく、すべての出席者の場所を記載するのも現実的ではありません。そのため、議長の所在地を開催場所として記載するのが一般的です。
条件を満たしている旨の記載
今回の取締役会が、リモート開催であるとの注記をした方が良いでしょう。そのうえで、法的要件である、リアルタイムかつ双方向の通信環境という条件を満たした開催である旨の記載を加えます。こうすることで、後に取締役会の有効性を疑われることがなくなります。
署名について
作成した取締役会議事録には、出席した取締役と監査役が確認をして、署名又は記名押印をすることが求められています。この議事録への署名などは、実際に押印するほか、電子署名によることも可能です。
もちろん、取締役会後に出席者が本社に行く場合であればすべてを印鑑で済ますことも可能です。しかし、遠隔地であれば、法的に有効な電子署名を利用しなければなりません。電子契約サービスにも要件を満たすものがあります。Web会議システムと同時に導入することも検討してください。
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取締役会をリモート開催した場合の登記
リモート開催した場合の取締役会議事録には注意点があります。それは、登記手続きで添付する取締役会議事録の電子署名には形式の定めがあるということです。
通常の議事録であれば、幅広いタイプの電子署名サービスを利用できます。しかし、登記手続きの場合には、より厳格な条件を満たすことが必要です。そのため、もし登記手続きを予定しているのであれば、最初から登記にも使える電子署名サービスを選んでおきましょう。
リモート開催は事前確認と準備が重要
取締役会は条件を満たせば、リモートでも開催できます。しかし、開催には、いくつかの制限や注意点も存在します。そのため、事前の準備とともに、トラブルへの対応策を用意しておくことが大事です。
リモート開催は物理的な場所の制約を受けない利便性の高い方法です。利点を生かして柔軟に取締役会を開催し、効率化を図りましょう。