企業は従業員に対して、労働時間などに応じて賃金を支払いますが、その内容を詳細に記録しなければなりません。そこで使われるのが賃金台帳であり、法律で作成や保管が義務付けられている重要な書類なのです。
賃金台帳は作成時の内容だけでなく、保管する上でも注意すべき点がありますので、本記事では賃金台帳の扱い方について詳しく解説します。
目次
賃金台帳とは
賃金台帳とは、労働契約を締結している従業員の労働日数および賃金に関する情報を記載した台帳です。従業員ごとに労働時間や賃金に関する詳細な情報が記載されています。
労働に関する情報
賃金台帳では労働日数や労働時間数だけでなく、残業した場合にはその時間数や深夜残業なども記されます。また休日労働を行った場合には、その情報も記載されます。
賃金に関する情報
従業員との雇用契約では、労働時間だけでなく賃金の条件に関しても契約書に書かれています。そのため、適切に賃金が支払われているかという点も賃金台帳に記載されます。
具体的には、基本給の金額、基本給以外に受け取っている手当、控除に関する項目や金額などが記載されています。
保管期間
賃金台帳は、作成してから3年間以上保管する義務が定められています。保管方法は書類だけでなくデジタルでもOKです。しかし、書類の保管からデジタルの保管へ移行する場合には古くなった書類を破棄してしまうケースがあり、保管期間が3年未満の書類をうっかり破棄しないように気をつけましょう。
なお保管期間は、2020年の法律改正によって3年から5年に延長されましたので、この点にも注意してください。
(賃金台帳)
第百八条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
賃金台帳と給料明細の違い
賃金台帳には、従業員の労働時間や賃金に関する情報がまとめて記載されています。こうした情報は、毎月企業が発行する給料明細にも記載されていますが、賃金台帳と給料明細では、様々な点が異なります。それぞれの相違点について詳しく解説します。
義務付けられている保管期間
賃金台帳は、労働基準法によって一定の保管期間が義務付けられています。しかし、給料明細には保管する義務はなく、通常交付した従業員の裁量に任されます。
交付する義務
賃金台帳は従業員に交付する義務はありませんが、給料明細では所得税法231条にもとづいて従業員への交付が義務付けられています。従業員が自身の給料の内訳を確認するために欠かせない書類ですので、必ず交付しましょう。
(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)
第二百三十一条 居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。
引用元:所得税法 | e-Gov法令検索
記載すべき項目
賃金台帳に記載しなければいけない必須項目には、労働時間数だけでなく残業や休日労働の時間、また深夜労働の時間などが定められています。一方、給料明細にはこれらの項目を記載する義務はありません。
賃金台帳の対象となる従業員
企業では正社員や契約社員、アルバイトなど様々な従業員が勤務しているケースが多いですが、賃金台帳はそれらすべての従業員に対して作成しなければならないのでしょうか。本章では、賃金台帳の対象となる従業員について解説します。
基本的にすべての従業員が対象
賃金台帳は、企業が雇用しているすべての従業員が対象となります。そのため、正社員だけでなく、契約社員やアルバイト・パートなどの従業員の分の賃金台帳も作成・保管しなければなりません。
日雇い労働者は対象外となる可能性あり
日雇い労働者で継続勤務期間が1ヶ月よりも短くなる場合には、賃金台帳への記載は対象外となります。ただし、1ヶ月以上になる場合は賃金台帳の対象となりますので気をつけましょう。
管理職は記載項目が変わる
企業の管理職では、労働基準法41条によって労働時間や休日などの規定は適用外となります。そのため、労働時間数や残業時間数、休日労働数などの時間を賃金台帳に記載する必要はありません。ただし、深夜手当に関しては管理職でも対象となるため、賃金台帳に記載しなければなりません。
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
賃金台帳を作成するポイント
賃金台帳に共通したテンプレートはありませんが、必須項目がトータルで10項目あるため、すべて記載しなければなりません。
そのため必須項目を押さえつつ、確認しやすいテンプレートを作成するポイントをお伝えします。
厚生労働省が提供するテンプレート
厚生労働省のホームページでは賃金台帳のテンプレートが公開されており、無料でダウンロードして利用できます。常時雇用労働者と日雇い労働者の2種類がありますので、ニーズに合わせて使い分けると良いでしょう。
こちらのページからダウンロードできますので、ぜひご利用ください。
基本的な記載情報
まず賃金台帳では、従業員ごとに氏名と性別、賃金計算期間を記載します。賃金計算期間とは、給料の計算時に用いる開始日と締め日です。たとえば毎月末日が締め日の企業なら、「〇月1日~〇月末日」と記載すればOKです。
なお、日雇い労働者の場合には1日ごとの契約と賃金払いであるため、賃金計算期間の記載は必要ありません。
労働日数
労働日数とは、賃金計算期間内における実働日を記載します。ただし、就業規則などで規定している所定日数ではなく、その従業員が実際に働いた勤務日を指しますので注意してください。
なお、年次有給休暇に関しては労働した日と見なされるため、実働日にカウントします。有給休暇の利用数を把握したい場合には、労働日数のスペースに「21(2)」のように記載する方法がおすすめです。
労働時間数の記載は詳細に
残業に該当する時間外労働時間、休日や深夜の労働時間に関してはそれぞれ割増賃金が発生するため、細かく記載しなければいけません。
特に労働時間が法定労働時間を超えている場合には36協定の締結や届け出が義務となっているため、会社が適切な労務管理をしているかどうかの判断材料になります。
基本給や各種手当、割増賃金を記載
賃金台帳には、支給した給料の内訳を細かく記載する必要があります。基本給に加えて、どんな手当がいくら支給されたのかを記し、残業や休日労働などによって発生した割増賃金も記載しなければなりません。
控除額の項目や金額も記載
支給する給料からどれだけ税金や社会保険料が控除されているかなど、控除されている項目や金額についても詳細に記載しなければいけません。
賃金台帳に不備があるとペナルティ
賃金台帳は、作成・保管が企業の義務となっています。そのため、作成・保管を怠ってしまった場合や記載内容に不備があった場合には、労働基準法120条にもとづいてペナルティが科されてしまいます。賃金台帳作成義務違反による処罰は、30万円以下の罰金と定められていますので気をつけましょう。
従業員や企業を守るために賃金台帳を作成・保管しましょう
賃金台帳は労働者の賃金の支払いや労務管理に役立つ重要な書類であるため、法律で記載事項や保管期間などが厳密に定められています。もし不備があるとペナルティが科されてしまうため、企業は従業員を保護するだけでなく、企業自身を守るためにも賃金台帳をきちんと作成していつでも確認できるように保管しておきましょう。