2020年4月、新民法が施行されました。民法は市民社会を取り仕切る原理・原則のルールを定めた法律です。約120年ぶりに大改正された新民法では、多くの制度が改変・新設されました。
今回は、新設された第522条(契約の成立と方式)の要点を確認し、今後の契約について考えてみましょう。
目次
約120年ぶりに行われた民法改正のポイント
2020年に行われた民法改正は、約120年ぶりに抜本的な見直しがなされたため、大改正とも呼ばれています。これまでの民法は個別の条文に対して小規模な改正がなされることはたびたびありましたが、今回の改正では大きな見直しがされています。
すでに判例で確立されている決まりごとや、現代社会において当たり前となっているような商習慣を条文に盛り込み、明文化されたのです。ただし、大きな改正が行われたといっても、その背後にある基礎・基本の重要性が揺らぐことはありません。
改正民法で規定された「契約の考え方」
契約の成立に必要な要素は何か というのは、民法の根本にもかかわる奥の深い問題です。こうした点についても、今回の民法改正では見直しが行われました。
契約の考え方は、第522条(契約の成立と方式)で規定されています。この条文は新民法で新設された条文で、契約の成立プロセスを定めるものです。
第522条(契約の成立と方式)の条文とポイント
新設された第522条の条文を実際に見ていきましょう。
民法第522条(契約の成立と方式)
- 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。) に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
- 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
ポイントは、以下の3点です。
- 契約は両当事者の申込みとその承諾という2つの要素で成り立つものである
- 契約を成立させる申込みでは、契約の内容を示す必要があり、漠然とした提案のようなものとは異なる
- 書面の有無といった手続きや形式ではなく、申込みとその承諾の有無が優先される
民法522条に示されるような内容は、現代社会における取引の常識と比べてみても、特に違和感なく受け入れることのできるものでしょう。
契約の本質を踏まえ、実務をどう考えるか
民法上、契約は口約束でも成立するとされています。今回の民法改正においても、口約束によって契約が成立するという点は変わっていません(法令上、書面による契約が必要な場合を除く)。しかしながら、民法第522条で、契約の形式や手続きよりも申込みと承諾の有無を優先すると明記されたことで、今後の契約業務にどのような影響を与えるのでしょうか。
日本では従来、契約成立の証拠を残すために契約書の作成や捺印が用いられて来ました。これは万一の争いに備え、申込みや承諾の事実を裏付けるための慣習でしたが、この考え方は今後も継続するべきです。
また、契約の証拠を残すことができれば、形式や手続き方法は自由とも考えられます。つまりこれからのビジネスシーンでは、従来からの書面契約に変わって電子契約への移行が受け入れられやすい社会になりつつあるのではないでしょうか。
将来にわたって争いの余地を残さないリスクマネージメントをいかに継続するか。その方法を実務に導入することが求められます。
まとめ|契約内容と締結の証拠を残す重要性に変わりはない
今回は民法の大改正によって、ビジネスの基礎となる契約の考え方の変化について整理しました。大改正といってもその内容は、120年の間に積み重なってきた商習慣などを取り入れたものです。特に契約に関する規定の理解では、大改正という言葉に焦る必要はありません。深く正確な理解をもとに、改正された民法に合わせて実務のあるべき姿を考えることが大切です。