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不動産の売買契約では、購入後に発生したトラブルに関して買主からクレームが来ることがあります。「雨漏りがするがこんな説明は受けていなかった」とか「隣に迷惑行為をする人物がいるが、知らされていれば購入しなかった」などといったクレームです。
クレームの内容によっては、売主の契約不適合責任が問われ、損害賠償が必要となる場合もあります。そのため、契約不適合責任の内容や、関係する法律、条文などを知っておくことが大切です。また、損害賠償請求を防ぐためには事前の対策も欠かせません。トラブルなく不動産売買をするためのポイントをわかりやすく解説します。
契約不適合責任とは、売主が販売した対象物が契約書に記載された種類や数量、品質と異なっていた場合に、問われる責任のことです。契約不適合責任は、民法第562条で規定されています。不動産取引における種類の例をあげると、契約書によればシューズクロークが設置されているべきなのに普通のシューズボックスが置かれていたような場合が該当します。また、数量であれば、収納棚が2つ並べて設置されてあるはずなのに、1つしか設置されていなかったといった場合です。ただ、不動産取引においては数量や種類よりも品質が問題となるケースのほうが多いでしょう。
買主が契約不適合責任を追及するためには、売主に対する買主側の通知が必要となります。買主は契約不適合があることを知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければなりません。また、通知したとしても5年あるいは10年以内に損害賠償請求などの手続きをしなければ、法的な請求権を失うことになります。これらは民法第566条と第166条で規定されています。
契約不適合責任の対象となり、契約不適合性が適用されるものには、物理的なもの、環境的なもの、心理的なものがあります。
不動産の物理的な契約不適合には次のようなものがあげられます。
・雨漏り
・シロアリ被害
・土地の汚染
・建物の傾斜
・耐震基準不適合
上記のような問題が契約書に明記されておらず後に買主が知った場合、買主が売主の契約不適合責任を追及する可能性があります。
環境的な契約不適合は、近隣での騒音や振動、悪臭の問題などがあります。そのほかにも、日照や眺望障害、近くにゴミ焼却所や遊戯施設などが存在するような場合です。近隣に暴力団員が住んでいる場合や暴力団事務所があるといったケースも該当するでしょう。不動産そのものに問題がなくても、周囲の環境から問題になり得ると判断されれば、環境的な契約不適合性の対象となります。契約書に環境的な問題に関する記載がなかった場合、買主から契約不適合責任を問われる可能性があります。
心理的な契約不適合性とは、目的物に嫌悪すべき歴史があった場合です。殺人事件が起きていたり自殺、事故死があったりする場合などが含まれます。こうしたことが契約書に明記されておらず、後から買主が知った場合、買主によって契約不適合責任を追及されることがあります。
売主が契約不適合責任を負っていると買主が判断した場合に請求できる権利には、追完請求権と代金減額請求権、損害賠償請求権、契約解除権があります。
追完請求は、目的物の修補や代替物の引き渡しなどを求めることができる権利です。追完請求権に関しては民法562条第1項で次のように定められています。
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
出典:民法 | e-Gov法令検索
追完の方法は買主が決めることができます。しかし、条文のただし書きにあるように買主に大きな負担をかけることがなければ、買主の請求とは違う方法で追完も可能です。
買主が追完を求めたにもかかわらず、売主が応じなかった場合には、代金の減額を請求できます。この権利については民法第563条1項で以下のように定められています。
(買主の代金減額請求権)
第五百六十三条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
出典:民法 | e-Gov法令検索
買主が相当の期間を定めて追完を求めたにもかかわらず、期間内に売主によって追完されなければ、代金減額請求が可能です。ただし、2項においては、売主が追完を行わない明確な意思表示をした場合などは、一定期間待つことなくすぐに代金減額請求が可能であると定められています。
損害賠償請求権は民法第415条に規定された契約不適合が売主の責任である場合に買主が行使できる権利です。
契約解除権は、民法第564条と541条、542条に定められている権利で、催告解除と無催告解除の2つがあります。催告解除とは、買主が一定の期間を定めて追完を求めたにもかかわらず、その期間内に売主が追完に応じない場合に契約を解除できる権利です。無催告解除は、一定の期間を定めて催告することなく、すぐに契約を解除できる権利です。無催告解除ができるケースについては民法第542条に以下のように定められています。
(催告によらない解除)
第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
出典:民法 | e-Gov法令検索
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
1号にある債務の全部の履行が不能である状況としては不動産の二重譲渡が行われたケースが考えられます。2号に関しては、売主の履行拒絶意志が明確に示されていなければならないので、数回拒んだという程度では適用されません。3号の一部履行拒絶では、残りの契約で目的を達成できるのであれば契約全部を解除することはできません。4号は、特定の日時や期間に履行されなければ目的が達成できない時、5号は1~4以外の理由であっても目的が達成されない場合です。
売主が物件の不備について認識していなかったとしても、買主が後から不備を発見した場合には、契約不適合責任が追及されます。契約不適合責任を排除するために免責特約が必要です。
契約不適合責任は強行規定ではなく任意規定です。強行規定とは当事者が特約を設けたとしても、内容の変更が許されない規定です。強行規定の例としては、労働基準法第3条があげられます。労働基準法第3条では、労働者の国籍や信条などを理由に待遇面で差別をしてはならないと規定されていますが、これに反する内容を特約としても無効になります。
任意規定では、当事者の意思によってその規定を適用しない選択も可能です。契約不適合責任に関係した規定は任意規定なので、免責の特約をつけることができます。たとえば、購入後に地盤や立地環境などの面で問題が見つかっても、買主は売主に対して一切の法的請求をしないことを契約書に記載可能です。
契約不適合責任の免責特約をつけることは可能ですが、さまざまな法律の規定との関係で無効になるケースもあるので注意が必要です。
契約不適合責任の免責特約が無効になるのは、民法第572条に抵触する場合です。
(担保責任を負わない旨の特約)
第五百七十二条 売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
出典:民法 | e-Gov法令検索
契約不適合があることを知っていながらそのことを伝えずに販売した場合には、特約は無効とされます。
(担保責任についての特約の制限)
第四十条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
出典:宅地建物取引業法 | e-Gov法令検索
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。
民法第566条には、買主が対象物の不適合を知った日から1年以内に売主にその旨を通知しなければ、損害賠償請求などができなくなることが定められています。この期限について宅地建物取引業法では、2年以上でなければならないと規定しており、通知すべき期限を2年未満にした特約は無効になります。なお、買主も宅建業者である場合には民法第566条の規定は適用されません。
宅建業者以外の法人が一般消費者と契約する場合には、契約不適合責任を全部免責する特約は認められていません。根拠となっているのは消費者契約法第8条1項です。
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
出典:消費者契約法 | e-Gov法令検索
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
住宅の品質確保の促進等に関する法律では基本構造部分などに関する契約不適合責任について、新築住宅の引き渡しから10年間の期間が設けられています。
(新築住宅の売主の瑕疵かし担保責任)
第九十五条 新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から十年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵かしについて、民法第四百十五条、第五百四十一条、第五百四十二条、第五百六十二条及び第五百六十三条に規定する担保の責任を負う。
出典:住宅の品質確保の促進等に関する法律 | e-Gov法令検索
2 前項の規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とする。
契約不適合免責期間を、引き渡しから10年未満に設定するとその特約は無効になります。
契約不適合責任を追及されないためには、事前に十分な準備をする必要があります。
物件状況報告書は、告知書とも呼ばれ、中古不動産の売却の際に売主が買主に物件について説明する文書です。雨漏りを例に取ると、雨漏りを発見しているのか、過去にあったのか、現在まで発見していないのかについて正しく告知します。仮に発見しているのであれば、その箇所や状態についても記載します。過去にあった雨漏りに関しては、その箇所と修理の有無、修理がすんでいるならいつごろ修理をしたのかを明記します。
雨漏り以外にもシロアリ被害や給排水管の故障、リフォーム履歴などについての記載も必要です。仮に不具合があることを知っていながら記載しないと、買主から損害賠償などを請求されることになります。なぜなら、契約書で特約を記載していたとしても、故意に知らせなかった場合には特約は無効になるからです。告知書では不具合についても正確に記載するようにしましょう。
インスペクションとは、建物の専門家が行う目視による調査などのことです。柱や基礎、屋根、壁の他、外壁や開口部などに関して調査を行います。インスペクションを行えば、修理箇所を確認し修理を完了した状態で売ることが可能なため、契約不適合責任に問われるリスクを減らすことができます。
契約免責不適合責任の免責特約を契約書に記載することで、契約不適合責任の追及を免れることも可能です。ただし、特約条項は関係する法律の規定に沿っていなければ無効になるので、十分な確認が必要です。特約条項以外に容認事項も記載します。容認事項には、将来必要となる費用や、将来周辺の環境が変化する可能性、自治会との約束事などが含まれます。
将来必要となる費用に関しては、電波の受信状況によるアンテナやブースターの設置費用などがあげられます。また、設置費用は買主が負担する旨の明記も必要です。周辺の環境の変化については、将来中高層ビルの建築が行われる場合があり、日照条件や眺望が変化する可能性があることなどを記載します。自治会との約束事は、買主が自治会の取り決めや費用について売主から継承し、従う必要があることなどがあげられます。
容認条項を記しておくだけでなく、買主が内容を確認した上で購入したため、容認条項に関しては損害賠償などの法的請求をしないことも明記しておきます。容認条項をきちんと書くことで、契約不適合責任を問われるリスクを回避できます。
不動産会社を通して不動産を売却する場合には、契約不適合責任に精通している不動産会社を選ぶことが大切です。責任者やスタッフが民法やその他の関係する法律に精通しているなら安心して不動産の売却を任せることができます
不動産を売却する際には、契約不適合責任に関する正しい知識が欠かせません。売買契約書に免責特約事項や容認事項について丁寧に記載することで、損害賠償請求などのリスクを軽減することが可能です。法的な知識の面で不安な場合は、契約不適合責任について詳しい弁護士に相談するなど、売却後にトラブルが起きないように備えておきましょう。
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