もう間もなく始まるインボイス制度。
「個人事業主だから関係ない」「消費税を支払っていないから関係ない」と思っていませんか?実は大きな影響が出る可能性があり、決して他人事ではありません。
今回はインボイス制度が個人事業主に与える影響についてご説明しますので、ぜひご自身に置き換えて考えてみてください。
目次
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは?
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除の一種です。事業者は商品やサービスを売ったら売り上げの10%もしくは8%を消費税として納めなければなりません。一方で物を仕入れる場合は仕入先に代金と消費税を支払う必要があります。しかし、この状態だと仕入れの際に消費税を支払って、自身の売り上げからも消費税を支払う、二重課税状態となってしまいます。そこで、仕入れなどの経費にかかった消費税を差し引くことができる制度が仕入税額控除です。
ただし、インボイス制度が始まると控除を受けるためには適用税率や消費税額等が明記されているインボイス(適格請求書)が必要となります。事業者がインボイスを発行するためには税務署に登録手続きを行わなければなりません。また、適格請求書発行事業者になるためには消費税を支払う課税事業者である必要があります。
ちなみに、輸出入の際に税関向けに作成する書類もインボイス(invoice)と呼びますが、このインボイスとは別のものです。
インボイス制度はいつから始まる?
インボイス制度が開始されるのは2023年10月1日からです。インボイスを発行するためにはこれまでに所管の税務署で手続きを行い、適格請求書発行事業者として登録されている必要があります。登録までには時間がかかる可能性があるため、原則として2023年3月31日までに申請を行わなければなりません。
インボイス制度が個人事業主に与える影響(売り上げ1,000万円以下の免税事業者の場合)
本来、売上高が1,000万円以下の個人事業主の方は消費税の免税事業者であり、消費税を納める義務はありません。しかし、インボイス制度はこうした免税事業者にとっても大きな影響を及ぼします。
「会社じゃないから関係ない」「副業だから関係ない」というわけではない
インボイス制度が始まると、今まで免除されていた消費税を納めなくてはいけなくなる可能性があります。前述の通り、インボイスを発行するためには適格請求書発行事業者として税務署に登録されていなければいけませんが、そのためには課税事業者になる必要があります。つまり、売上が1,000万円以下であっても消費税を納付する必要があるということです。
また、個人事業主であろうと、副業であろうと関係ありません。クライアントからインボイスの発行を求められた場合は対応する必要があります。
取引先が減るおそれがある
インボイス制度が始まると取引先が減ってしまう可能性があると言われています。なぜなのでしょうか。クライアント側の立場になって考えてみましょう。
例えば、適格請求書発行事業者と免税事業者の両方にそれぞれ100万円、税込で110万円の仕事を依頼していたとします。インボイス制度が導入されると、適格請求書発行事業者に支払っている消費税分の10万円については自分が納める消費税額から控除することができますが、免税事業者に対して消費税分の10万円を払っても控除の対象外となってしまいます。同じ仕事内容、同じ金額でも、免税事業者と取引をするとクライアントの手元に残るお金が10万円減ってしまうのです。
そのため、インボイス制度が始まると、クライアントが免税事業者との取引を避け、仕事が減ってしまうのではないかという懸念が指摘されています。
課税事業者への転換を提案されることがある
以上のような事情からクライアントから課税事業者に転換するか、消費税分を値下げするよう求められる場合も考えられます。断ると、取引が減らされたり停止させられたりする可能性もあります。
インボイス制度への対応は義務ではありません。免税事業者のままでいるという選択肢もありますが、いざ取引先から事実上の課税事業者への転換を打診されるとなかなか断ることができない可能性もあるでしょう。
インボイス制度が個人事業主に与える影響(売り上げ1,000万円超の課税事業者の場合)
売上高が1,000万円以上の方は個人事業主でも課税事業者となります。すでに消費税を納付していますので関係ないと思いたいところですが、納める税金が増えることはありませんが、それ以外にもさまざまな影響があることが予想され、対策と準備が必要です。
適格請求書発行事業者の登録が必要となる
前述の通り、インボイスを発行するためには税務署に登録手続きを行う必要がありますが、制度が開始となる2023年10月1日からの登録を希望する場合は2023年3月31日までに済ませておく必要があります。登録を済ませておかないとインボイスが発行できず、やはり取引先が減ってしまう可能性があります。課税事業者の場合は早めに適格請求書発行事業者の登録を受けることをおすすめします。
経理業務が煩雑化するおそれがある
インボイスを発行するためには、請求書がインボイス制度に合致したものでなければなりません。場合によってが請求書のフォーマットや記載項目を変更する必要があるでしょう。また、仕訳や消費税の計算方法なども変更となることで、経理業務が今よりも複雑になる可能性があります。
免税事業者との仕入れ取引で納付税額が増加するおそれがある
外部の事業者から物を仕入れたり仕事を外注したりしている場合は、その事業者がインボイス制度に対応しているかどうかを確認しておきましょう。仮に仕入先や外注先が免税事業者の場合、仕入税額控除の対象外となり、消費税の納税額がこれまでより多くなる可能性があります。
インボイス制度に対して個人事業主が準備すべきこと
それではインボイス制度が始まるにあたって個人事業主はどのような準備を行わなければならないのでしょうか。免税事業者と課税事業者のケース別に見ていきましょう。
免税事業者の場合
前述の通り、免税事業者が適格請求書発行事業者になるためには、まず課税事業者にならなければなりません。所管税務署に消費税課税事業者選択届出書を提出したうえで適格請求書発行事業者登録申請書を提出し、手続きを行います。
課税事業者の場合
課税事業者の場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。適格請求書発行事業者登録申請書を所管の税務署に提出して登録されれば、インボイスを発行することができるようになります。なお、消費税課税事業者選択届出書、適格請求書発行事業者登録申請書はどちらともe-Taxでの提出が可能です。
インボイス制度で個人事業主が注意すべきこと
インボイス制度は登録して終わりではありません。さまざまな準備が必要となります。ここからはインボイスに移行する際の注意点についてご説明します。
制度開始からインボイスを発行するには、登録申請の期限がある
前述の通り、インボイス制度が始まるのは2023年10月1日からです。だからといってその前日や1週間前に慌てて税務署に行って手続きをしても間に合いません。国税庁では登録までに時間を要することから、2023年3月31日までの手続きを呼びかけています。特に取引先からインボイスの発行を求められている方、制度開始からインボイスに切り替える必要がある方は、早めに手続きを行いましょう。
制度に対応したインボイスや証憑書類の書き方やフォーマットを理解しておく
インボイス制度開始後は適格請求書に切り替える必要があります。これには適格請求書発行事業者の登録番号や適用税率、消費税額等を明記しなければなりません。領収書やレシートなどの証憑書類にもこれらの情報を記載する必要があります。書類のフォーマット変更や記載の仕方を理解し、正しく発行できるようにしておかなければなりません。
制度に対応した会計ソフトなどを導入する
インボイス制度の開始に伴って仕訳の仕方や消費税の計算の仕方なども変更になります。そのため、インボイス制度に対応した会計ソフトを導入し、正しく申告できるような体制を整えておく必要があります。
消費税の確定申告の対象期間に注意する
特にこれまで免税事業者だった方は、消費税および地方消費税の確定申告を新たに行わなければなりません。所得税の確定申告期間は毎年2月16日~3月15日です。これに加えて3月31日までに消費税の確定申告を行う必要があります。
また、消費税の納税額が48万円を超える事業者は中間申告を行わなければなりません。消費税額が48万円超400万円以下の方は1回中間申告が必要となり、8月31日が申告・納付の期限となります。400万円超4,800万円以下の方は年3回、4,800万円超の方は年11回の中間申告が必要です。
消費税を納めなければならず、金銭的な負担が増大する
免税事業者の方は、これまで消費税を支払う必要がなく、クライアントから消費税を受け取っても益税とすることができましたが、課税事業者となれば消費税を納める義務が生じます。そのため、消費税の納税を意識した資金繰りを行わなければならず、納税時期(3月、8月など)は現金を手元に用意しておかなければなりません。一番頭が痛い問題かもしれません。
しかも所得によって決まる所得税や住民税と異なり、消費税は売上額によって決まります。場合によっては、数十万円の支出が増えることは覚悟しておきましょう。
個人事業主の方も今のうちにインボイス制度の準備をしておこう
もうまもなくインボイス制度がスタートします。「個人事業主だから」「免税事業者だから」と何も対策しないのは危険です。むしろ個人事業主や免税事業者の方ほど大きな影響があります。とはいえ必ずしも適格請求書発行事業者にならなければいけないということではありません。事業の内容や顧客・クライアントの属性などによってインボイス制度に対応すべきか、免税事業者のままでもいいのかが変わってきますので、税理士や税務署、青色申告会などに相談してみましょう。
また、インボイス制度に対応するためには書類のフォーマットの変更などの作業も発生します。電子帳簿保存法も改正されたので、特に紙で請求書や契約書をやりとりされていた方は、この機会に電子化されることをおすすめします。
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