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法律の条文には、「強行規定」と「任意規定」があります。この違いが分からないと、せっかく作った契約書も無効になってしまうことがあります。この2つの区分を理解しておくことは実務を行う上で非常に重要です。今回は、強行規定と任意規定の違いやその判別方法について解説します。
強行規定は、強制的に適用する法律の規定のことを言います。一方、任意規定は、法律について一定の定めはあるものの、それと異なる合意や定めをした場合、その合意や定めが優先されるという法律の規定です。
民法の世界では、「契約自由の原則」の下、当事者が自由に契約の内容を決めることができます。しかし、契約内容を自由に決められると言っても一定の制約があります。民法第90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定めています。当事者の合意があったとしても、第90条に反する契約をした場合には、無効であり、これが強行規定です。
つまり、強行規定に反する契約は締結できないということです。例えば、民法第146条は、「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」と規定していますが、契約書で、「時効の利益をあらかじめ放棄する」と定めた場合、それは無効になります。民法第146条は強行規定と解されているからです。
他方、民法の債権編のほとんどの規定は任意規定です。例えば、売買契約においては物の引渡しと現金の引渡しは同時に行うのが原則(民法第533条)ですが、当事者が法律とは異なり、物の引渡し時ではなく月末に代金を支払うことに合意しているのであれば、任意規定のため、月末に支払ってもよいということです。
一般に、消費者法や労働法などは弱者の保護を目的にした法律なので強行規定が多くなります。それに対して、民法や商法など、私人間のやり取りについて規定している法律は任意規定が多くなっています。具体例をいくつか紹介します。
※私人間(しじんかん)は、憲法の規定について本来は直接適用されない私人の間という意味です。
・利息制限法第1条(利息の制限)
利息制限法第1条は、「金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と規定しています。条文自体に利息制限法に定めた利率を超えた場合には契約は無効とすると明確に規定しており、強行法規とわかります。
・労働基準法第3条(均等待遇)
労働基準法第3条は、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」と規定しています。例えば、労働契約において、「外国籍の者については、日本国籍の者の給与の半額とする」と定めた場合には、強行規定に違反することになるため無効になります。
・消費者契約法第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
消費者契約法第8条は、「次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする」と規定し、4つの無効となる条項を規定しています。そのひとつを紹介すると、同条1項1号は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項」と規定しています。つまり、例えば事業者が、損害賠償請求をされないように契約書の中に、「消費者に生じた損害賠償については全部を免除する」という条項を入れたとしても、その条項は無効になるということです。
・民法第404条(法定利率)
民法第404条は、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。」と規定しています。「別段の意思表示がないときは」とあるように、これは任意規定なので、当事者が利息について別段の合意をしている場合には、合意された利息が優先されます。
・商法第526条(買い主による目的物の検査及び通知)
商法第526条は、「商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。」と規定しています。しかし、この条文は任意規定なので、例えば「売買の目的物に瑕疵が発見された場合には、売主は速やかに対処しなければならない。」と契約で定めれば商法第526条は適用されなくなります。
強行規定なのか任意規定なのかを見分ける明確な基準は、残念ながらありません。まずは、対象となる法律が、任意規定が多いと考えられるのか、それとも強行規定が多いと考えらえるのかを見極める必要があります。一般的に公共性が高いものや弱者救済のための法律は強行規定が多くなります。一方、私人間についての法律は任意規定が多くなります。
強行規定が多い法律の内容の特徴として、公共性が高いものや弱者救済を目的としたものなどが挙げられます。公共性が高いものとしては、「会社法」が挙げられます。勝手な形式の会社を作ることは公共性の観点から許されないからです。弱者救済のための法律としては、既述の通り「利息制限法」や「労働法」などが挙げられます。
私人間についての法律は「民法」がありますが、民法では内容により任意規定の多いものと、強行規定が目立つものに分かれます。
例として、債権編のほとんどは任意規定で、物権編、親族編、相続編の多くの部分は強行規定と考えられています。
強行規定の条文の特徴として、「無効とする」、「〜してはならない」、「〜しなければならない」という文言が使われます。これらの文言がある場合、強行規定の可能性が高くなります。任意規定の条文の特徴としては、「〜できる」、「別段の意思表示がないときは」という文言が多く使われます。
判別方法をいくつか紹介してきましたが、決定的なものはなく、1つの条文について学説上も「強行規定とする見解」と「任意規定とする見解」が分かれる場合があります。それだけ、強行規定と任意規定を判別することは難しいということです。最終的な判断は裁判所になるので、判例を調べて判断するのが確実でしょう。判断が難しい場合は、判例を調べるのも大変だと思うので、専門家に相談するという方法もあります。
契約書の内容で強行規定に反する状況が見つかった場合、削除・修正などの対応が必要となります。また、契約締結後での対処についても事前に確認しておくといいでしょう。
契約書を作成している段階で、強行規定に反する条項が見つかった場合には、その条項を削除するなどすみやかに対処する必要があります。
強行規定に反する条項は無効になるので、残しておいても効力はありませんが、契約書の内容が争われた場合に、強行規定に反する条項があると、悪い印象になります。効力がある条項と効力がない条項が混在すると契約を履行する上で混乱が生じるだけでなく、強行規定の中には行政処分や罰則があるものもあるため、必ず削除してください。
契約が締結されている場合でも、強行規定に反する条項は削除あるいは書き換えすべきなのは同じです。ただし、行政処分や罰則の適用が無い軽微なものである場合、当該条項を無効とする覚書を書いて済ませるという方法もあります。
今回は、強行規定と任意規定の違いや強行規定と任意規定を判別する方法などについて解説しました。契約自由の原則から、契約の中身は基本的に当事者が自由に決めることができます。その基準となるのが「任意規定」です。
ただ、当事者が契約の内容を自由に決めてよいとなると、公共性に反したり、弱者に不利な内容にされてしまったりする危険性があります。それを防止しているのが民法第90条の定める「強行規定」です。強行規定に反する内容は無効とされます。
強行規定と任意規定の違いを判別することは容易ではなく、法律の内容、条文の文言、判例・学説などから判断するしかありません。自分で判断ができない場合には専門家に相談するなどして、契約書の内容をチェックしてもらいましょう。
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