企業や個人事業主が仕事を受注する際、見積書を作成することが一般的です。依頼主は、その見積書に記載されている内容を基に発注するかどうかを判断します。
そこで気になるのは、見積書に印鑑を押す必要があるかどうかです。これまで、印鑑を押さずにやり取りしていたケースもあれば、慣習として特に必要性を意識せず押印していた場合もあるでしょう。
最近では、見積書をメールに添付して送付する機会も増えています。その場合、パソコンで作成した見積書を一度印刷し、押印してからスキャンしてPDF化する方法が一般的です。しかし、押印が不要であれば、印刷の手間が省け、見積書作成の効率が向上します。
そこで本記事では、見積書に印鑑が必要かどうかを詳しく解説します。押印が必要な場合のポイントについても説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
見積書の役割
見積書に印鑑を押す必要があるかどうかを解説する前に、見積書の役割についてかんたんに確認しておきましょう。
取引内容を相手に伝える
見積書は、契約前の段階で取引の内容を相手方に伝えるために用いる書類です。仕事を受注する側が作成し、発注者に対して提示します。発注者は見積書に記載されている内容を確認して、発注するかどうかを判断するという流れです。
見積書に記載されている内容のうち、不明点や疑問に思うことなどがあれば、受注者に対して確認を行います。
複数の作業をひとまとめにして発注する際には、見積書には作業ごとに分けて金額を記載する方法が一般的です。そのため、どの作業にいくらかかっているのか明確になります。
相手が合意すれば契約が成立する
見積書を発行した段階では、まだ契約は成立していません。相手方が見積書の内容を見て、発注を見送るという選択をすることもあります。その場合には、契約書として機能することはありません。
相見積もりといって、複数の事業者から見積書を作成してもらう方法もよく行われています。相見積もりの場合には、実際に発注されるのは1社だけです。見積書を発行しても、実際に発注されず契約が成立しないということはよくあります。
一方で相手方が見積書の内容に合意して発注した場合には、契約が成立します。見積書は契約書とは別物です。しかし、契約の成立を証明する目的で見積書が作成された場合には、契約書の代わりとして用いられることもあります。
参考:国税庁「工事注文書等」
見積書に記載する項目
見積書には次のような項目を設けて記載します。
宛先
宛先として、取引相手の会社名や部署名、担当者名などを記載しましょう。個人の顧客に対して発行した場合には、相手の氏名だけで問題ありません。宛先を明記することで、誰に対して発行した見積書なのかが明確になります。
差出人
誰が発行したのか明確にするため、差出人の記載も必要です。自社名と所属部署名、自分の氏名を記載しましょう。個人事業主の場合には、屋号と自分の氏名を記載しますが、屋号がない場合には氏名だけで問題ありません。
通し番号
管理しやすくするために、見積書に通し番号を付けるケースも多々あります。通し番号を特に付けていない場合には、記載しなくても問題ありません。
発行日
見積書を発行した年月日を明記しておきましょう。いつ発行された見積書なのかすぐにわかるため、トラブル防止につながります。
有効期限
見積書には有効期限を設定するのが一般的です。年月日で明記する他に、発行日から◯カ月のような記載もできます。
明細
明細は見積書のメインとなる項目です。商品名や作業内容などを記載しましょう。それぞれ数量や単価なども記載します。備考欄も設けると説明を加えたい時などに便利です。
合計金額
明細に記載した金額の合計は、大きく目立つように記載しましょう。
見積書
No. 2024-1111
発行日:2024年11月1日
株式会社サンプル商事 御中
営業部 山田太郎 様
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社
〒150-8512
東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー10階
TEL:03-6415-6100
登録番号:T7011001037734
担当:佐藤花子
下記の通りお見積り申し上げます。
有効期限: 2024年11月30日まで
スクロールできます
項目 | 数量 | 単価(税抜) | 金額(税抜) | 備考 |
システム開発費 | 1 | 1,000,000円 | 1,000,000円 | 基本設計 |
プログラミング | 100 | 10,000円 | 1,000,000円 | 1日あたり |
サーバー設定 | 2 | 100,000円 | 200,000円 | 2台分 |
検証作業 | 10 | 20,000円 | 200,000円 | 1日あたり |
小計(税抜):2,400,000円
消費税(10%):240,000円
合計(税込):2,640,000円
備考:
・本見積りには、ハードウェア費用は含まれておりません。
・作業期間は約2ヶ月を想定しております。
・詳細な仕様については別途打ち合わせの上、決定いたします。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
※見積書のサンプル
見積書に印鑑は原則として不要
見積書に印鑑が押されているケースは多いですが、実は見積書を発行する際、印鑑を押すことは原則として不要です。その理由について見ていきましょう。
見積書への押印を義務付ける法律の規定はなし
見積書に関する法律上の明確な規定は存在しません。そのため、押印の有無についても法律上の義務はなく、見積書を発行する際に印鑑を押さないことに問題はないと言えます。
また、契約を締結する際には見積書の作成自体が必須ではありません(※)。実際のビジネスシーンでは、見積書を作成せずに商談を進め、契約書を作成して契約を結ぶケースも多々あります。見積書はあくまで必要な時に任意で作成されるものであり、押印の有無は発行者の自由です。
さらに、印鑑が押されているかどうかは契約の成立や効力にも影響しません。
※建設工事の請負契約は例外
なお、見積書の作成において、建設工事の請負契約に関しては例外です。建設業法第20条には見積書に関する規定が設けられており、施主から見積書の発行を求められた場合には、発行が義務付けられています。なお、発行を求められていない場合には、努力義務に留まります。
ただし、この場合でも、見積書に印鑑を押すことは義務付けられていません。
(建設工事の見積り等)
第二十条建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費その他の経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならない。
2建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでの間に、建設工事の見積書を交付しなければならない。
3建設業者は、前項の規定による見積書の交付に代えて、政令で定めるところにより、建設工事の注文者の承諾を得て、当該見積書に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該建設業者は、当該見積書を交付したものとみなす。
4建設工事の注文者は、請負契約の方法が随意契約による場合にあつては契約を締結するまでに、入札の方法により競争に付する場合にあつては入札を行うまでに、第十九条第一項第一号及び第三号から第十六号までに掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までに、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な政令で定める一定の期間を設けなければならない。
出典:建設業法 | e-Gov法令検索
法的義務がなくても見積書に押印する企業は多い
見積書には押印する法的義務がなくても、実際に見積書を発行する際に押印を行う企業は多いです。では、なぜ法的義務がなくても見積書に印鑑を押しているのか、その主な理由や目的について見ていきましょう。
慣例として押印している
見積書に印鑑を押している事業者の中には、古くからの慣例に従っているだけというところも多いです。これまで、ずっと見積書発行の際には印鑑を押していたため、特に深い意味はなく押印しているところもあるでしょう。
信用度を高める目的
見積書に印鑑が押されている場合と押されていない場合では、信用度に差があります。印鑑が押されている見積書の方が、より信用度が高いと感じる人は、実際に多いのではないでしょうか。見積書に限ったことではありませんが、押印のない書類は、企業が正式に発行した書類ではないように見えてしまうこともあるでしょう。
こうした理由から、法的効力に差がなくても、信用度を高める目的で見積書に印鑑を押している企業は数多く存在します。
見積書で使用される印鑑の種類
印鑑にもさまざまな種類のものがあります。見積書に押印する際には、どの印鑑を使用すればいいのかよくわからない人も多いでしょう。見積書への押印が必須ではない以上、押印する印鑑の種類も決まっているわけではありません。
しかし、見積書への押印でよく使われている印鑑というものも、確かにいくつか存在します。では、見積書に押印する際によく使用されている印鑑の種類について見ていきましょう。
社印(角印・社判)
社印とは、一般的に社判の一種とされ、会社で取引先など外部の人や組織に対して発行した書類に押印する際に使用されることの多い印鑑です。四角い形状をしている印鑑が社印として用いられていることが多いことから、角印と呼ばれることもあります。個人事業主に場合にも、屋号がある場合には、四角い形状の印鑑を使用していることが多いです。
見積書も取引相手となる人や会社に対して発行する書類であるため、押印する場合は社印がよく使用されています。
認印(担当社印)
認印とは、主に日常業務で使用されている印鑑のことです。担当者の名前が刻まれていることから、担当社印と呼ばれることもあります。「自分がこの内容で書類を発行したことを確認をしました」と示す目的で使用されることが多いです。
主に社内用として使用されますが、見積書に認印を押すこともあります。社印だけだと担当者がわからないということで、社印とあわせて認印を押すケースも多いです。個人事業主の場合にも認印がよく使用されています。
ゴム印
ゴム印とはゴム製の簡素なハンコのことです。会社名や住所地、電話番号などが刻まれています。印鑑としての用途よりは、会社の住所地や電話番号などを記載する目的で使用されることが多いです。社印ほどの信用度はありませんが、見積書などの書類にゴム印が押されることもあります。
代表者印(丸印・実印)
代表者印とは、会社の実印として印鑑登録されている印鑑のことです。丸い形状をしているものが多いため丸印と呼ばれることもあります。契約書などの重要書類に押印されることが多いです。見積書に使用されることは稀ですが、金額が大きい場合には代表者印を押すこともあります。
見積書に印鑑を押す際のポイント
見積書の様式が決められており、押印欄も設けられているのであれば、それにあわせるようにして押印して問題ありません。
様式が特に決められていなかったり、押印欄がなかったりする場合には、社名を記載した部分の右隣に社印を押す方法が一般的です。
社名の文字と少しだけ重なるようにすると、見栄えが良く偽造防止にもつながります。
担当者の認印を押す場合には、担当者の氏名を記載している箇所の右隣または右下あたりに押すのがいいでしょう。社印とは違って文字に重ねる必要はありません。
見積書を電子的に発行する際の扱い
見積書は紙で発行するだけでなく、電子的に発行することも可能です。では見積書を電子化する方法とその場合の印鑑の扱いについて、見ていきましょう。
見積書を電子化する方法
見積書を電子化する方法として、手軽な方法はPDFファイルで作成する方法です。ExcelやWordなどで作成してからプリントアウトし、送付するのが従来の手順ですが、電子化したい場合にはプリントアウトせずにPDF形式で保存します。そのPDFファイルをメールやビジネスチャットツールなどで、取引先に送信すれば完了です。
また、電子契約サービスを導入している場合には、そのシステムを通じて見積書を取引先に送ることも可能です。
見積書を電子化する際の印鑑の扱い
見積書を電子化する場合にも、印鑑の扱いは紙の見積書を作成する場合と変わりません。押印なしでも有効な見積書として扱われます。
ただ、紙の見積書を発行する場合と同様に、信頼性を高める目的で押印したいこともあるでしょう。記事冒頭でも触れましたが、一般的には一度プリントアウトしたものに押印して、それをスキャナで電子化するのが主な流れです。この場合、押印のためだけにプリントアウトすることにコストや手間がかかります。
そこでおすすめしたいのが、電子印鑑の利用です。電子印鑑はExcelやWordで作成することも可能ですが、そのままだとあくまでただの画像であり、セキュリティ面で問題があります。そのため、電子署名やタイムスタンプといった法的に有効とされる機能を持った電子印鑑の利用をおすすめします。
電子印鑑GMOサインは、国内シェアNo.1(※)の電子契約サービスであり、電子署名や認定タイムスタンプといった機能はもちろん、従来のハンコ文化を尊重する印影登録機能を提供しています。この機能を利用すれば、電子文書であっても、書面文書と同じような見た目を再現可能です。
今なら、月に5件まで見積書を含む契約関係書類を無料で送信できるお試しフリープランを用意しております。この機会にぜひご利用ください。
\ 月額料金&送信料ずっと0円 /
※1 「電子印鑑GMOサイン(OEM商材含む)」を利用した事業者数(企業または個人)。1事業者内のユーザーが複数利用している場合は1カウントとする 。自社調べ(2023年11月)
※2 電子署名およびタイムスタンプが付与された契約の送信数(タイムスタンプのみの契約を除く。電子署名法の電子署名の要件より)。自社調べ(2024年8月)
まとめ:見積書に印鑑は必須ではないが対応できるようにしておこう
見積書は、相手に対して取引内容を提示するために発行する書類で、基本的に印鑑を押さなくても問題ありません。また、費用部分に関して事前に合意が取れている場合は、見積書を発行せずに契約書を作成する場合もあります。
なお、慣習の維持や信用度を高める目的で見積書に押印している企業は、決して少なくありません。取引相手から押印を求められることもあるでしょう。そのため、普段は見積書に押印していない人や見積書を発行する機会が少ない人でも、いざという時にすぐ対応できるようにしておきましょう。