電子印鑑とは、従来の物理的な印鑑(ハンコやスタンプなど)のデジタル形式の代替物です。業務のデジタル化に伴い、紙文書から電子データを用いた電子契約への移行も一般化しつつあります。電子契約における契約締結は電子署名という技術によって法的効力を担保するため、かならずしも電子的な印影を残さなければいけないわけではありません。
ただし、従来の商慣習を尊重する意味でも契約締結の証として印影があったほうが信用性も増すほか、電子印鑑は社内稟議や見積書などでも気軽に使えるため、電子印鑑を作成するケースは多いのではないでしょうか。そこで実際に作成する際に気になるのが「電子印鑑にはどのようなフォントが適しているか」です。
本記事では、電子印鑑を作成する際にどのようなフォントが向いているのかについて、フォントの種類や適切な選び方をお伝えします。電子契約やペーパーレス化導入を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
電子印鑑の概要
電子印鑑のフォントを知る前に、まずは電子印鑑の概要について解説します。電子印鑑とは、デジタル印鑑とも呼ばれる電子文書に押印できるデータ化された印鑑です。
電子印鑑の種類と法的効力
電子印鑑の種類は大きく二つあります。
一つは電子印影とも呼ばれるもので、印鑑の印影を電子化した画像データです。スキャナーなどを利用することで容易に作成できるのがメリットではあるものの、複製されてしまうリスクもあるため、社内稟議書や交通費請求書など社内でのみ使う認印のような役割を持ちます。
もう一つは、「誰が・いつ・署名をした」といった識別情報を組み込んだ一定の法的効力を持つ電子印鑑です。こちらはタイムスタンプなどの技術を利用しており、文書の修正履歴などが残るため、改ざん防止につながります。取引先との契約や請求書などにも使用可能です。
電子署名法によって定義付けされている電子署名と異なり、電子印鑑自体は法で定められているものではありません。そのため電子印鑑は作成方法や利用サービスによって、その証拠力は大きく異なります。利用する際は、電子印鑑の持つ法的効力や利用目的、利用シーンによく注意しましょう。
電子印鑑として利用される主なフォント
電子印鑑は、社内だけで使用するような印影を画像データ化させただけのものであれば容易に作成が可能です。ここでは、電子印鑑を作成する際によく使われるフォントについて解説します。
なお、フォントとは、一貫したデザインで作られた文字の集合体である「書体」をモニター上に表示できるように揃えたものです。ただし、WordやExcelなどで文書を作成する際に使用する文字デザインを指して、フォントと呼ぶケースも少なくありません。
ここでは、電子印鑑の印影として表示される字形を指すものとしてフォントという言葉を使います。
楷書体
楷書(かいしょ)体とは、続け書きや省略されることなく読みやすく整った形で書かれた字形です。古代中国で完成された字形で、1800年以上の歴史を持っています。
一般的には筆文字とも呼ばれていて、字を一画ずつ崩さずに書くフォントのため、一目で何が書いてあるかがわかるのが楷書体のメリットです。小学校の教科書で使用されている漢字にも、楷書体を模したフォントが使われています。
字形に癖がなく読みやすいため、電子印鑑でも社内で認印的に利用するのに適したフォントです。
行書体
行書(ぎょうしょ)体の歴史は楷書体よりも古いといわれており、一筆書きに近い筆記でありつつも読みやすいフォントです。流れるように崩した字形で、全体的に丸みを帯びています。
楷書体に比べ、線の強弱があったり、点画をつないだりしている点も行書体の特徴で、個性的な字形です。崩した字形でありつつも読みやすいのは「とめ」や「はね」「はらい」など字の基本となる部分はしっかりと残っているからで、実用的でありながら見栄えもよいフォントとなっています。
日本料理店や銭湯などの看板、暖簾などにもよく使われるフォントで、楷書体と並びなじみのある方も多いでしょう。
詳しくは後述しますが、楷書体や行書体はWordやExcelのほか、無料の画像作成ツールのフォントにも採用されています。そのため、コストをかけずに簡易的な電子印鑑を作成する場合、楷書体や行書体のフォントを使うのが一般的です。
篆書体
篆書(てんしょ)体とは、パスポートの表紙に書かれた「日本国旅券」で使われているフォントとして有名な字形です。曲線を多用していて、左右対称かつ全体的に縦長なのが篆書体の特徴といえます。
一般的にはあまり見かけることはないものの、日本最古の印鑑といわれている「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」の金印にも使われていることで有名です。そのため、印鑑のフォントとして広く認知されています。
現代においても「印篆(いんてん)」という印鑑独自の篆書体は実印用のフォントとしても複製がされにくいこともあり、人気の高い字形です。
隷書体
隷書(れいしょ)体とは、ほかのフォントに比べ横長で波打つような緩やかなカーブのある字形です。元は中国が秦だった時代の役人が篆書体を書きやすくするために作った字形といわれています。独特な字形である篆書体に比べ、現代の漢字に近く、行書体や楷書体の原形となった字形です。
わかりやすい例でいえば、日本で使われている紙幣に記載されている「日本銀行券」や「壱万円」などは隷書体が使われています。また一部の新聞にも使われているため、古いフォントではあるものの、日本人になじみ深いフォントといえるでしょう。
古印体
古印(こいん)体とは、古くから印鑑で使われている字形で、上述したほかのフォントが中国由来なのに対し、日本で生まれた日本独自のフォントです。
古印体は奈良時代に神社で使われていた印鑑用のフォントで、丸みや線の強弱があり、さらに途切れや墨塗りなどもあるのが特徴です。奈良時代はまだ、現在のように印鑑に精密な文字を彫れなかったことがこの形状の理由といわれています。
しかし、それが逆に複製しにくいというメリットにつながり、現在でも実印用のフォントとして古印体を使うケースは少なくありません。
また、古くからあるフォントではあるものの、非常に読みやすい字形なのも大きな特徴です。さらに印鑑にした際、余白部分が少なく枠の強度が上がり割れにくいのも、印鑑用フォントとして人気が高い理由といえるでしょう。
【用途別】電子印鑑におすすめのフォント
ここまで電子印鑑でよく使われるフォントを紹介してきました。しかし、それぞれに特徴があり、すべての用途に同じフォントが適しているとはいえません。ここでは、用途に合わせたおすすめのフォントを紹介します。
社内で使う電子印鑑
社内で電子印鑑を使うシーンとしては、稟議書の承認時や交通費の請求時などが考えられます。認印的に使うため、誰が押印したかがすぐにわかる必要があります。
複製や悪用のリスクは少ないため、篆書体や隷書体のような凝ったフォントではなく、行書体や楷書体、古印体のようなわかりやすいフォントが良いでしょう。
社外向けに使う電子印鑑
社外向けに電子印鑑を使うシーンとしては、契約書や請求書、納品書などです。企業にとって重要な契約であるケースが多いため、複製されるリスクの少ない篆書体や隷書体などが良いでしょう。
ただし、見積書のように直接的には金銭のやり取りが発生しない電子文書の場合は、社内で使う認印的な電子印鑑でも問題ありません。
注意点としては、契約書や請求書を電子化する際は、法的有効性がたしかな電子署名を付与することが重要です。また、取引先によっては電子印鑑の使用を認めていない場合もあるため、事前に確認することも忘れてはいけません。
電子印鑑GMOサインは、「立会人型電子署名」と「当事者型電子署名」という法的有効性が確保された2つの電子署名を利用できる電子契約サービスです。
電子印鑑の作り方
認印的な電子印鑑であれば、スキャナーを利用して実際のハンコの印影を取り込むほか、WordやExcel、ペイント(Windowsに標準装備されている画像編集ソフト)などを使い無料で作成することも可能です。ここでは、実際の作り方を簡単に解説したうえで、フォントの選択方法を紹介します。
Word・Excelで作成する方法
Word・Excelで電子印鑑を作成する方法は次のとおりです。
- Wordを開き「挿入」から「図形」、「楕円」を選択する
- Wprdのページ上で適当な大きさの円を作成する
- 「図形のスタイル」で「枠線のみ」を選択する
- 「図形の枠線」で枠線の色を赤にして「太さ」で枠線を適当な太さにする
- もう一度「挿入」をクリックして「ワードアート」から適当な文字を選択する
- 自身の名前を入力し、カラーを赤にする
- 最初に作った枠のなかに名前を入れる
- 枠と名前の両方を選択して右クリックで表示されるメニューから「グループ化」クリックして一つのグループにしたらコピーしてペイントや画像編集ソフトで開く
- 画像として保存する
- 必要に応じて透過処理をしたら完成
Excelで作成する場合も4まではWordと操作は同じで、名前の作成は「挿入」の「テキストボックス」を選択します。また、Excelの場合はグループ化の必要はありません。作成後はWordと同様に、コピーしてペイントや画像編集ソフトで開き、画像として保存すれば電子印鑑の完成です。
Word・Excelで選択できる基本的なフォントは「HG正楷書体-PRO」もしくは「HGP行書体」です。また楷書体の変形である教科書体も複数用意されています。
WordおよびExcelを利用した電子印鑑の作り方
ペイントで作成する方法
ペイントを使えばそのまま画像として保存できるため、効率的に電子印鑑を作成できます。具体的な作成方法は次のとおりです。
- ペイントを開き上部にある「図形」から「楕円」を選択する
- 「色」から赤を選択し、画面上で適当な大きさの円を作成する
- 「ツール」から「A」を選択し、作成した円の上で左クリックする
- 名前を入力し、円の中心部分に移動させる
- 「背景」は「透明」を選択し、ファイルから「名前を付けて保存」で保存する
ペイントで選択できる基本的なフォントもWord・Excelと同様に「HG正楷書体-PRO」もしくは「HGP行書体」です。教科書体も用意されています。
そのほかの無料ツールで作成する方法
無料の画像作成ツールを使っても、簡易的な電子印鑑であればすぐに作成は可能です。無料の画像作成ツールの多くは篆書体や隷書体のようなフォントはないかもしれないものの、認印のように簡易的な用途の電子印鑑は悪用のリスクも少ないため、行書体や楷書体でも問題はありません。
紹介したWordやExcelなどで作成した電子印鑑は、法的効力を持つものではなく、契約書の作成などの場面にはおすすめできません。法的有効性を確保したいのであれば、電子署名が付与できる電子契約サービスを利用しましょう。
まとめ
電子契約に見た目だけの印影は必要ありませんが、契約締結を明確にするための証として電子印鑑はこれからも一定の役割を果たすでしょう。また、社内での稟議承認や交通費請求書などに押印する際にも使えるため、ペーパーレス化を進めるのであれば電子印鑑の作成は必須といえるでしょう。
電子印鑑は簡易的なものであればWordやExcelのほか、ペイントや無料の画像作成ツールで簡単に作成可能です。フォントも楷書体や行書体であれば追加で購入せずとも選択できます。
なお、取引先との契約締結など、法的効力を確保しておきたい場面では、電子署名が付与できるサービスの利用をおすすめします。電子署名は電子署名法によって定義がされた電子契約を行うには欠かせない仕組みです。
電子印鑑GMOサインは、「立会人型電子署名」と「当事者型電子署名」2タイプの電子署名を標準機能として利用できる国内シェアNo.1(※)電子契約サービスです。印影登録機能や手書きサイン機能も搭載しているため、従来の商慣習を尊重しながら、電子署名法に準拠した形で電子契約を締結できます。電子帳簿保存法にも対応しているため、領収書や請求書、納品書などの電子化も可能です。
※1 「電子印鑑GMOサイン(OEM商材含む)」を利用した事業者数(企業または個人)。1事業者内のユーザーが複数利用している場合は1カウントとする 。自社調べ(2023年11月)
※2 電子署名およびタイムスタンプが付与された契約の送信数(タイムスタンプのみの契約を除く。電子署名法の電子署名の要件より)。自社調べ(2023年12月)