書類やメールを作成するにあたって、「保存」と「保管」どちらを用いれば良いかわからないケースに出くわすことがあります。たとえば、契約書は、「保存」するものでしょうか?「保管」するものでしょうか?
「保存」と「保管」はどちらも似たような意味を持つ言葉ですが、その概念には若干の違いがあります。本記事では、保存と保管の違いについて、その一般的な定義と微妙なニュアンスの違いなどを具体例を交えながら解説しています。記事後半では、法律的な観点から見たふさわしい選択や注意点などについても紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
保存と保管の一般的な違い
保存と保管は、一般的には、ほぼ同様の意味として使われていますが、微妙な違いがあります。以下に、それぞれの一般的な定義と具体例をいくつか示します。
保存の意味と使用例
保存の意味は、物や情報を将来の利用や参照に備えて保持することです。主な目的は、対象物や情報の状態や内容を変えずに保持することで、個人の物品からデジタルデータまでさまざまなものに用いられます。
食品の保存が代表的な例です。その意味するところは、食品を冷蔵庫などに入れて鮮度を保ち、長期間にわたって利用できるようにすることを指します。また、デジタルファイルの保存という表現もあります。これは、コンピューターなどに重要なファイルを格納して、後でアクセスしたり利用したりできるようにするという意味です。
保管の意味と使用例
保管は、物や情報を安全に保つことを指します。その主な目的は、対象物や情報の損傷や紛失を防ぐことです。重要な文書や貴重品、歴史的な遺物など、とくに価値のあるものに対して使用されることが多くなっています。保管の対象からもその目的がうかがえるでしょう。
たとえば、貴重品の保管という表現からは、宝石や貴金属などの貴重品を金庫に入れて、盗難や損傷から守ることが想像されます。また、博物館が貴重な歴史的文書を適切な温度と湿度で保管するのも良い例です。将来の研究や展示に備えるために保管を使用します。
そのほかにも、個人情報に対しては、企業が顧客の個人情報を不正アクセスや漏洩から保護するためにセキュアなデータベースに保持するような場合は、保存より保管がしっくりくるでしょう。
法的なシーンでの保存と保管の違い
法的な観点から見ると、保存と保管には細かな違いが存在します。以下にいくつかの例を示します。
訴訟などでの証拠について
訴訟などで使用される証拠については、保存と保管で意味するところに微妙な差異が生じます。
たとえば、裁判などで使用される可能性のある証拠を保存するといった場合、証拠がそのままの形で保持されることが含意されるでしょう。保存された証拠は、要請に応じて提出されることがあります。
一方、証拠を保管するという時は、裁判所などの公的機関が、法的な要件に基づいて証拠を安全にしまっておくといった意味合いが生まれます。もちろん保管された証拠も、開示の要請や審理時に必要な場合に提出されることは保存の場合と同様です。
個人情報について
個人情報の保存とは、法的に必要な期間、法令や契約に基づいて個人情報をそのままの状態で保持することです。保存された個人情報は、個人情報保護法などの規制に従って管理されます。
一方、個人情報の保管という時は、個人情報を適切に保護し、不正アクセスや漏洩から守るための対策を講じることです。セキュリティ対策やアクセス制御なども個人情報の保管に含まれます。
ビジネスの現場における保存と保管の違い
契約書や領収書、請求書などを扱うビジネスの現場においては、「保存」と「保管」どちらが適切でしょうか?保存と保管の違いをさらに詳しく説明するために、具体的な例をいくつか挙げます。
文書の保存と保管
たとえば、契約書を保存する場合、文書の内容を変更せずに保持します。これには、原本をデジタル化して電子ファイルとして保存することも含まれます。契約書の保存は、将来の参照や法的な要件を満たすために重要です。契約内容の確認や裁判などの紛争における証拠として利用ができます。
一方、保管は契約書を物理的またはデジタル的に安全に保護することを指します。物理的な場合、契約書はセキュリティ対策が施された保管庫や専用のファイルキャビネットに保管されることを指すでしょう。デジタルの場合、契約書は暗号化やアクセス制御を施したセキュアなデータベースに保管されます。紛失、損傷、不正アクセス、漏洩から保護するための措置を講じることも契約書の保管の一例です。
デジタルデータの保存と保管
現代のビジネス環境では、デジタルデータの扱いにおいても保存と保管という言葉がよく用いられます。例として、会社の重要な顧客データを考えてみましょう。
顧客データの保存は、データの内容を変更せずに保持することを指します。データのバックアップを行い、データの完全性や一貫性を確保することです。保存されたデータは将来の分析や顧客サービス向上のために利用されます。
顧客データの保管は、データの安全性とセキュリティを保護することが目的です。データはセキュアなデータベースやクラウドストレージに格納され、不正アクセスやデータ漏洩から保護されます。データの暗号化、アクセス制御、監査ログの管理なども、データの保管に関するセキュリティ対策です。
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電子文書の保存や保管に関する法律に、通称e-文書法と呼ばれる法律があります。
e-文書法とは?
「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」
および
「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」
上記2つの法律の総称として用いられており、電子文書の保存について規定しています。
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民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
五 保存 民間事業者等が書面又は電磁的記録を保存し、保管し、管理し、備え、備え置き、備え付け、又は常備することをいう。ただし、訴訟手続その他の裁判所における手続並びに刑事事件及び政令で定める犯則事件に関する法令の規定に基づく手続(以下この条において「裁判手続等」という。)において行うものを除く。
出典:民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律 | e-Gov法令検索
この定義によると、保存とは、情報を保持するだけでなく、管理や備えることもその意味するところに含まれています。
保管は定義されていない
保存という用語に関して、e-文書法では具体的な定義が与えられています。しかし、保管という用語の定義については明示的には述べられていません。保存と保管という用語について、法律上、微妙な違いを持つ場合もありますが、e-文書法ではそれぞれの明確な定義が与えられていないわけです。
法律の名称においては、文書に対して「保管」という言葉は原則として用いられず、「保存」の使用が一般的です(例:電子帳簿保存法)。ただし、遺言書に対しては保管が用いられるなど、必ずしも文書すべてに保存が使用されているわけではない点には留意しましょう。
ビジネスシーンで保存と保管という用語を目にする場合もあるでしょう。両者が厳密に定義付けられていれば問題ありません。しかし、それぞれの定義について厳密な区別がなされていないのであれば、具体的な文脈や業界の慣行に応じて判断する必要があります。
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保存と保管の違いを見極めるポイント
保存と保管の使い方について正しく判断するためには、以下のポイントに留意することが重要です。
文脈と目的の理解
保存と保管の定義は文脈や目的によって異なる場合があります。特定の業界や組織内では、用語の使い方や定義が異なることもよくあります。そのような場合には、文脈や目的に応じて、適切な定義の適用が必要です。
業界慣行や専門家の意見
保存や保管にかかわる業界慣行や専門家の意見を参考にすることも有益です。専門家の発言や業界団体のガイドラインなど、信頼性のある情報源を探しましょう。
複数の情報源から正確性を判断すること
注意が必要なのは、ネット上の一部のメディアや解説記事において、独自の解釈や定義を提供している場合があることです。とくに、業界の利害関係者や特定のサービスを提供する企業による記事では、そのサービスや製品を推奨するために用語の解釈を特定の方向性に歪める可能性があります。
情報の正確性を判断するためには、複数の情報源を参考にして公的な情報や法令を優先して確認することが重要です。また、必要に応じて法律の専門家への相談も検討してください。
まとめ:文書に対しては一般的に「保存」を用いる
保存:物や情報を将来の利用や参照に備えて保持すること
保管:物や情報を安全に保つこと
一般的には、このように保存と保管は若干異なる意味で使い分けられます。保存は将来の利用や参照に備える行為であり、保管は物としての完全性維持や保護を重視する行為です。
法律名などを参考にすれば、契約書などビジネス上の文書に対しては「保存」の使用が一般的です。文書の内容や情報の保持を目的とするからです。ただし、文脈や業界の慣習などによっては「保管」を使うべきケースもあります。
「保存」と「保管」両方の言葉の細かなニュアンスを理解し、それぞれのシーンにおいて適切な使い分けを行いましょう。
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