2023年も8か月が過ぎました。引き続きコロナ禍の影響は根深く残り、ビジネス環境としては厳しい状況です。
それに加え、追い打ちをかけるような昨今の物価高。半面、賃上げの必要性も強く求められているところです。
このような状況の中、是非ともご活用したいのが補助金・助成金です。
本記事は2023年の今の時期からでも申請できるキャリアアップ助成金に関する記事です。
目次
補助金・助成金制度の基礎知識
補助金・助成金とひとくくりに言っていますが、一般的に厚生労働省管轄の雇用や労働に関わる給付金が「助成金」、経済産業省管轄等の給付金が「補助金」と呼ばれます。
助成金については原則として条件さえ満たせば支給されますが、補助金は事業内容等について審査があり、補助金の種類ごとに採択率にかなりの幅があります。
また、いずれも原則として返さなくてもよいお金ですが、給付を受けられるのは経費等を支払ってから事後的にというのが基本となります。補助金・助成金のスケジュールに合わせて事業のかじ取りを決める、というのはあまりおすすめできません。あくまで本業で売上を立てていくことを最優先としつつ、ちょうどよいタイミングで使える補助金・助成金があれば活用する、このようなスタンスをお勧めしたいと思います。
申請から給付までに1年以上かかるものもあります。その間の資金繰りを考えておかなければなりません。すぐに支給されるわけではないということに、注意が必要です。
補助金・助成金の申請にあたっての事前準備
申請は一般的に電子申請で行いますが、電子申請の際にgBizID(GビスID/GBizIDとも表記されます)のアカウントの作成が必要です。
gBizIDは、法人・個人事業主向け共通認証システムで、gBizIDを取得すると、一つのID・パスワードで、複数の行政サービスにログインすることができるようになります。アカウントは最初に1つ取得するだけで、 有効期限、年度更新の必要はありません 。(2023年6月現在)
gBizIDには、プライム、メンバー、エントリーという3種類のアカウントがありますが、補助金・助成金の申請にはgBizIDプライムのアカウントが必要です。gBizIDプライムのアカウント取得には1週間程度かかりますので、余裕をもって取得してください。
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金は、人の雇用や労働環境に関する助成金です。事業活動において最も重要な「人」への投資について、今年も各種助成金制度が用意されていますが、その中からキャリアアップ助成金をピックアップしたいと思います。
なお、助成金は先ほどの補助金と異なり、条件さえ満たせば受給が可能です。その反面、不正受給も多く見受けられる状況です。意図せず不正受給にならないように慎重に検討しつつも、ぜひとも積極的に活用することをおすすめします。
さて、この助成金ですが、非正規雇用の従業員の正社員化や処遇改善を支援するべく支給されます。従業員の意欲・能力の向上を図ることで、事業を前に進める環境を整えようというものです。
キャリアアップ助成金にはいくつかのコースが用意されていますが、その中から「正社員化コース」「賃金規定等改定コース」の2種類をご紹介します。
(1)正社員化コース
有期雇用労働者等を正社員化した場合に支給されるものです。
① 助成金額(1人あたりの支給額)
・正社員化前が有期雇用労働者:570,000円
・正社員化前が無期雇用労働者:285,000円
以下に該当する場合は、上記に上乗せがあります。
・派遣労働者を正社員として直接雇用する場合:+285,000円
・母子家庭の母や父子家庭の父の場合:
有期雇用労働者 +95,000円
無期雇用労働者 +47,500円
・人材開発支援助成金の訓練終了後に正社員化した場合:
有期雇用労働者 +95,000円
無期雇用労働者 +47,500円
そのうち自発的職業能力開発訓練・定額制訓練終了後に正社員化した場合:
有期雇用労働者 +110,000円
無期雇用労働者 +55,000円
・勤務地限定、職務限定、短時間正社員制度を新たに規定し転換等した場合:+95,000円
② 主な要件
・有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度を就業規則等に規定し、有期雇用労働者等を正社員化したこと
・正社員化された労働者を、正社員化後6か月以上の期間継続して雇用し正社員化後6か月分の賃金を支給したこと
・正社員化後6か月間の賃金を、正社員化前6か月間の賃金より3%以上増額させていること
・正社員化日以降の期間その労働者を雇用保険被保険者、社会保険の被保険者として適用させていること
※任意適用事業所の事業主や個人事業主が正社員化させた場合、社会保険の適用要件を満たす労働条件で雇用していること
③ 申請スケジュール
・取組開始前に「キャリアアップ計画書」を作成し労働局に提出します。
・取組後6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請します。
(2)賃金規定等改定コース
有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し適用した場合に支給されるものです。
① 助成金額(1人あたりの支給額)
・3%以上5%未満の賃金引き上げ:50,000円
・5%以上の賃金引き上げ:65,000円
以下に該当する場合は、上記に上乗せがあります。
・職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合:+200,000円(※1事業所あたり1回のみ)
② 主な要件
・有期雇用労働者等に適用される賃金規定等を作成していること
・賃金規定等を3%以上増額改定し、その賃金規定等に属する有期雇用労働者等に適用させたこと
・増額改定前の賃金規定等を3か月以上運用していたこと
・増額改定後の賃金規定等を6か月以上運用し、かつ、対象労働者について定額で支給されている諸手当を減額していないこと
・支給申請日においてその賃金規定等を継続して運用していること
・職務評価を経て賃金規定等改定を行う場合は、有期雇用労働者等・正規雇用労働者を対象に、職務評価を実施したこと(加算措置)
③ 申請スケジュール
・取組開始前に「キャリアアップ計画書」を作成し労働局に提出します。
・取組後6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請します。
申請にあたっての注意
キャリアアップ助成金の審査には申請から6か月ほどかかる場合もあり、取組みの開始から入金までとなるとトータルで1年以上かかること可能性があります。そのため、資金繰りにあてにするのは禁物です。
また、取組みの開始前に「キャリアアップ計画書」を作成し、労働局に提出する必要があります。
さらに、必要に応じて就業規則等や賃金規定を現行のものから改定する必要があります。
申請にあたって、日ごろから依頼している社会保険労務士(社労士)に相談しながら必要書類を揃えていくのもおすすめです。特に就業規則や賃金規定の改定などに力になってくれるでしょう。また、日ごろ業務を委託している行政書士事務所や税理士事務所が所属の社会保険労務士を紹介してくれるケースもあります。自分で書類を作って準備となると大変なこともあります。まずは士業の方に相談して、申請できる状況にあるか、どのような部分を改善したら申請できるのかなど、現状の確認から始めてみるのもよいでしょう。
まとめ
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」と「賃金規定等改定コース」について解説しました。
中小企業にとって最初から正社員としての雇用することはリスクもあります。経営者の中には強い不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
他方、働く側にしてみれば「職場の環境や働きやすさを見極めたい」と思いがある方も多いのです。キャリアップ助成金を使って業務委託から契約社員、さらには無期雇用の正社員というステップを踏むことでお互いのミスマッチを避けることもできるでしょう。
コロナ禍からの回復、賃上げ、物価高対策として、また、自社にマッチする人材の確保のためにこれらの公的資金をうまく活用し、事業の発展を目指しましょう。