労働者派遣契約に関する省令改正により、2021年(令和3年)から労働者派遣契約の当事者(派遣元・派遣先)は、これまで書面が必須だった労働者派遣契約について、電磁的記録により作成することが認められるようになりました。
本稿では、上記改正の概要と実務上の留意点について説明します。
目次
労働者派遣契約に係る事項の電磁的記録による作成について
民間事業者が行う文書の保存・作成・閲覧等については、「e-文書法」(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律)で規定されており、さらに厚生労働省所管の分野については「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」が制定されています。
労働者派遣法に関する書面については、一部の書類については既に電子化が認められていましたが、労働者派遣契約については許容されていませんでした。これが、令和3年1月施行の改正省令により,労働者派遣契約についても電子化(電磁的記録による作成・保存)が認められるようになりました。
上記省令の別表第2・・下線部分が新設部分
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則 |
第21条第3項の規定による書面の記載 |
第33条の3第3項の規定による書面の記載 |
(略) |
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則
第21条第3項 労働者派遣契約の当事者は、当該労働者派遣契約の締結に際し法第26条第1項の規定により定めた事項を、書面に記載しておかなければならない。
運用
対象となる契約
実務では、労働者派遣契約書は「基本契約」と「個別契約」に分けて締結されることが一般的です(基本契約と個別契約の説明については「労働者派遣事業関係業務取扱要領「第5の1」参照」。今回の省令改正で対象となる「労働者派遣契約」は、労働者派遣法26条で記載事項が法定されている契約であり、通常は「個別契約」として締結されています。
運用方法
派遣契約では、記載事項が法律で定められている上、契約期間が1年未満の短期で設定されることが多く、派遣元と派遣先との間でやりとりする契約書類の量は膨大になっていました。労働者派遣に関する一部の書類について電子化が許容されていても、重要な労働者派遣契約の電子化が許容されていなかったため、電子化には限界がありました。また、多くの契約関係の書類が電子化されている中で、労働者派遣契約だけを書面で作成・管理を必要とすることは、かえって対応のミスや適正管理に支障が懸念されていたところです。
この度の労働者派遣契約の電子化解禁により、派遣関係の書類の電子化は加速化すると思われます。実際,新型コロナウイルスの感染防止策として増大する在宅勤務やリモート勤務においては、派遣先でも派遣元でも、リモートで派遣契約を締結・保存できるのは非常に便利になるでしょう。
今後の対応ですが、労働者派遣契約では多くの法定記載事項があり、内容も詳細・複雑であるため、多くの場合は派遣元(派遣会社)の側で労働者派遣契約を電子化して派遣先に提示することになるでしょう。この点、派遣元(派遣会社)には小規模で電子化には未対応の企業も少なくないでしょうが、事務系派遣を中心に,派遣先からは電子化のニーズが出てきて、これに対応すべく派遣元(派遣会社)が労働者派遣契約の電子化を進めていくことになるでしょう。
派遣元(派遣会社)としては、自社における事務負担の軽減のほか、派遣先からのニーズに対応できなければビジネスチャンスを逃す可能性もあります。派遣社員に対して発行する労働条件明示書の電子化とも併せて対応を検討する必要があるでしょう。