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日頃から領収書や請求書を保存して、申告の際には申告書を税務署に提出し、帳簿も長期間保管しなければいけないなど、税務申告に関連する業務は何かと面倒な作業が多いものです。
しかし今では、国税関係帳簿書類(仕訳帳や総勘定元帳、決算関係書類や契約書、領収書など)は電子データでの保存が認められており、税務署への申告もインターネット経由で効率的にできるようになっています。これらを認めているのが「電子帳簿保存法」という法律です。
今回は、国税関係帳簿書類をペーパーレス化するメリット・デメリット、データ化できる文書の種類や適用を受けるために必要な手続きなど、電子帳簿保存法の基礎知識を解説します。
電子帳簿保存法は1998年に施行された法律で、正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。電子計算機とはコンピュータのことを指します。つまり、パソコンなどで国税関係帳簿書類を作成して保存することを認めるというものです。2005年に改正がなされ、「スキャナ保存」などが追加されました。これについては、後述します。
2022年にはさらに改正され、税務署長の事前承認制度の撤廃や優良な電子帳簿に対する過少申告加算税の軽減措置、タイムスタンプ要件や検索要件の緩和などが盛り込まれています。
2022年1月から施行される電子帳簿保存法の改正内容に関しては、以下の記事をご参照ください。
【参考】
電子帳簿保存法が改正されました|国税庁
電子帳簿保存法が改正されました|国税庁
これまでの税務申告や国税関係帳簿書類の保存は紙ベースが基本。税務署に紙の申告書を提出し、帳簿や領収書、請求書などの証拠書類を最大で10年間も保存しなければなりませんでした。
しかし、近年はパソコンやインターネットを使用した業務スタイルが一般的となり、業務のペーパーレス化が急激に進んでいます。そこで国は、経理作業の電子化や記帳の正確性の向上のために電子帳簿保存法を制定しました。これにより、税務関連書類のペーパーレス化が可能になったのです。
国税関係帳簿書類のペーパーレス化にはメリットもデメリットもあり、導入する前にしっかりと考えておく必要があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
一番大きなメリットは、やはり経理業務を効率化できることです。紙ベースでは帳簿や書類を印刷して保管する手間がかかります。また、税務調査の時などには、該当する帳簿や書類を探し出さなければいけません。電子データで国税関係帳簿書類を保存すれば、印刷や保管、整理などの手間を省くことができます。さらに、検索性が高いため、ファイルを探し出す、あるいは1枚1枚めくって該当するページを見つけるといった煩わしい作業からも解放されます。
また、特にここ数年でテレワークが浸透していますが、帳簿や書類を電子データで保存してインターネットを介して閲覧できるようにすれば、遠隔で働いている従業員、あるいは顧問税理士などが会社にわざわざ出向かなくても確認できるようになります。
さらに、印刷にかかる紙代やインク代、保管にかかるコストなども削減することが可能です。
まず挙げられるのは、導入時にコストがかかることです。スキャンシステムやクラウドシステムなどの初期費用が必要です。確かに経理のペーパーレス化が実現できれば、導入費用を回収できるかもしれませんが、システムが活用されなければ無駄な投資になってしまうリスクもあります。
また、経理業務や精算業務の全体の流れに変更が加わるので、新システムを会社全体に浸透させる手間が発生します。特に初期段階では、作業に慣れていないため、手違いやミスが発生するかもしれません。従業員全員が新しいやり方に馴染むまでには、ある程度時間がかかるでしょう。
さらに、電子データで国税関係帳簿書類を保存する場合、情報漏えいやデータ喪失のリスクも無視できません。セキュリティ面も重視してシステムを選定し、バックアップの手段を考えておくことが重要です。
電子帳簿保存法によるペーパーレス化は、確かにデメリットもありますが、それ以上に経理業務を大幅に改善できる、コストダウンを図れるといった大きなメリットがあるので、検討する価値は大いにあります。
さて、電子帳簿保存法ではさまざまな国税関係帳簿書類の電子データによる保存が認められています。対象となる文書には大きく分けて、以下の3つの区分が設けられています。
自分がパソコンなどで作成した帳簿や書類を電子データで保存したものを指します。例えば、会計ソフトで作成した仕訳帳などのデータ、あるいはExcelやWordで作成しPDFで保存した請求書や領収書などの書類が挙げられます。
紙で受領した書類、あるいはパソコンで作成した証憑書類を一旦プリントアウトしてスキャンしたものです。例えば、取引先で受領した領収書や、取引先に渡す請求書をプリントアウトしたものを控えとしてカメラで撮影したデータなどがこれにあたります。
電子データとして受領した書類をそのまま保存するケースがこれにあたります。メールで送られてきた、あるいはウェブサイトやクラウドサービスからダウンロードした請求書や領収書が該当します。
以上の3つの区分のいずれかに該当すれば国税関係帳簿書類を電子データとして保存することが可能ですが、すべての帳簿や書類がすべての区分で保存できるわけではありません。
電子帳簿等保存の区分では、領収書や請求書などの証憑書類はあくまで自分が取引先に対して発行したもののみが有効となります。一方、スキャナ保存については、証憑書類は認められていますが、仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿や決算関係書類は認められていません。例えば、帳簿をプリントアウトしてそれをスキャンしたデータを保存したとしても、電子帳簿保存法上では無効となってしまいます。
また、スキャナ保存の場合は「タイムスタンプ」の付与が条件となります。タイムスタンプとは、そのデータが保存された日付や時刻を記録し、それ以降に改ざんされていないことを証明する電子的な印鑑のことです。
電子帳簿保存法では、以下の3つのいずれかの方法で保存された文書のみが有効となります。それぞれ詳しく解説します。
電磁的記録とはパソコンなどに保存された電子データのことです。会計ソフトで作成したデータ、ExcelやWordで作成した書類をPDFに変換したものなどが挙げられます。パソコン本体に保存されたものはもちろん、データサーバーや外付けハードディスク、CD-ROM、SDカードなどの記憶媒体に保存されたものも含まれます。
マイクロフィルムとは画像やデータを保存するフィルムのことを指します。帳簿、書類、電子取引のすべてが適用範囲です。COMはあまり一般的とは言えませんが、こうした保存方法についても認められています。
紙で受領した書類をスキャナでスキャンしてパソコンに取り込む、あるいはデジタルカメラやスマートフォンなどで撮影してSDカードなどに保存する方法です。領収書や請求書などの証憑書類のみが認められています。
ただし、スキャン保存の場合は前述のとおりタイムスタンプが必須となります。また、しっかりと内容が視認できるよう解像度や色調についても注意が必要です。
電子帳簿保存法で文書を保存する場合、特にスキャン保存ではタイムスタンプが必須です。ただし、2020年10月の法改正によって、受領者側がデータを改変できないシステムを使用して作成された文書(例えばクレジットカードの明細書など)、あるいは発行者側でタイムスタンプを付与された文書については、受領者側がタイムスタンプを付与しなくてもよいことになりました。
2022年の法改正ではタイムスタンプに関する規定がさらに緩和され、電子データの修正や削除の履歴が残るシステムで作成された文書に関してもタイムスタンプの付与が不要になり、またスキャン保存された文書については付与期限が長くなります。
最後に、電子帳簿保存法の適用を受けるための手続きの流れについて解説します。
電子保存を開始する3ヶ月前までに所管の税務署に手続きを行い、税務署長の承認を得なければいけません。以下のような書類を提出します。
①承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類 1部
引用元:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/3030_01.htm
②承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し) 1部
③申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類 1部
申請書のフォーマットは引用元の国税庁ホームページからダウンロードできます。記入例についても記載されています。
税務署に申請をする際に重要なのは、設備やシステムが国税庁の定める要件に合致しているかどうかです。以下の要件を満たしているかどうかを確認し、満たしていない場合は仕組みを整備しなければいけません。
要件 | 帳簿 | 書類 |
記録事項の訂正・削除を行った場合の事実内容を確認できること | ○ | |
通常の業務処理期間を経過した後の入力履歴を確認できること | ○ | |
電子化した帳簿の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できること | ○ | |
システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること | ○ | ○ |
保存場所に、電子計算機、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できること | ○ | ○ |
取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索できること | ○ | ○ |
日付又は金額の範囲指定により検索できること | ○ | ○ |
二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること | ○ |
引用:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0018004-061_01.pdf
こちらに関しても国税庁のホームページで詳しく解説されています。
税務申告で必要な帳簿や決算関係書類、あるいは領収書や請求書などの証憑書類を電子データ化すれば、経理業務や精算業務の大幅な効率化やコストダウンが期待できます。また、ペーパーレス化は時代の流れですので、早めに対応されることをおすすめします。一方で、国税関係帳簿書類を電子データ化するためには電子帳簿保存法に従う必要があり、国税庁の定める要件を満たすシステムを導入しなければいけません。
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