形式的証拠力と実質的証拠力の違いとは?文書の成立の真正を推定する法的根拠を解説


形式的証拠力と実質的証拠力の違いは?
文書の成立の真正という概念と証拠力にはどのような関係性がある?

裁判で文書が証拠として認められるための具体的な要件を知りたい!
文書の証拠力を正しく理解せずに契約を進めてしまうと、いざというときに法的効力が認められず、大きな損失を被るリスクがあります。この記事では、形式的証拠力と実質的証拠力の基本概念から、文書の成立の真正との関係性まで、法的根拠とともに詳しく解説します。
- 形式的証拠力と実質的証拠力の定義と役割の違い
- 文書の成立から証拠評価に至る二段階推定の仕組み
- 電子契約における証拠力の考え方と実務対応
- 法務担当者が押さえるべき証拠力向上のポイント
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形式的証拠力と実質的証拠力の違いは?定義と役割を解説
裁判では「証拠」が事実認定の基礎となりますが、その証拠には「形式的証拠力」と「実質的証拠力」という2つの異なる概念があります。
この2つの違いと役割を理解することで、いざというときに法的証拠力が認められる契約書を作成できるようになります。まずはそれぞれの違いを理解しましょう。
形式的証拠力とは、文書が本人によって作成されたと認められる力
形式的証拠力とは、その文書が本当に作成者本人によって作成されたものであると法的に認められる力を指します。たとえば、「この契約書は確かにA社とB社が正式に作成したものだ」と認定される根拠となります。
民事訴訟法228条では「文書が真正かどうかを証明する必要がある」と決められており、作成者本人によるものではないとみなされた場合、その文書は証拠としての効力を失います。
(文書の成立)
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
引用:e-Gov法令検索
具体的には、文書であれば作成者の署名や印鑑の確認、電子データであれば改ざんされていないことの立証などが求められます。これらの要件を満たさない証拠は、内容がどれほど重要であっても、裁判所は証拠として認めません。
実質的証拠力とは、裁判官が中身の信用性を判断する軸
実質的証拠力とは、証拠の内容がどの程度信用できるか、つまり事実認定にどれだけ役立つかを示す力のことです。形式的証拠力が「誰が作ったか」を問題にするのに対し、実質的証拠力は「何が書かれているか」「それがどの程度信頼できるか」を重視します。
裁判官は実質的証拠力を判断する際、証拠の内容とほかの証拠との整合性、証拠が作成された状況や作成者の信頼性などを総合的に考慮します。判断は裁判官の自由心証に委ねられており、同じ証拠でも裁判官によって評価が変わる場合があります。そのため、法的紛争では実質的証拠力を高めるための立証活動が重要になるのです。
(自由心証主義)
引用:e-Gov法令検索
第二百四十七条 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
たとえば、日記の記述であっても、ほかの客観的証拠と一致していれば実質的証拠力は高くなるでしょう。逆に、公的文書であっても記載内容に矛盾があれば、実質的証拠力は低く評価される可能性があります。
形式的証拠力と実質的証拠力、文書の成立の真正の関係性
前の章で、形式的証拠力と実質的証拠力について解説しました。実際の現場では「文書の成立の真正」という考え方も加わり、これらが連動して文書の証拠価値が決まります。
この章では3つの役割の違いと、証拠として認められる「二段の推定」の仕組みについて解説します。
3つの概念の定義と役割の違い
形式的証拠力と実質的証拠力、文書の成立の真正の定義と役割は以下のように異なります。
概念 | 判断内容 | 役割 |
---|---|---|
文書の成立の真正 | 文書が本人によって作成されたか | 証拠認定の前提 |
形式的証拠力 | 文書の成立が法的に推定されるか | 証拠能力の判断 |
実質的証拠力 | 文書内容の事実としての信用性 | 証拠価値の判断 |
文書の成立の真正は、「この文書は確実にその人が作ったもの」という事実を認めることです。これが認められると形式的証拠力が生まれ、文書が証拠として法廷で認められることになります。
実質的証拠力は、文書の内容が本当に事実なのかを判断するものです。以下のようにさまざまな事情が総合的に考慮されます。
- 文書の内容がほかの証拠と矛盾していないか
- 作成された経緯や状況
- 当事者の関係性
- 文書が作成された時期など
たとえば、契約書に「100万円を支払う」と書かれていても、実際にその支払いがあったかどうかは銀行の振込記録や領収書などの裏付けが必要です。
つまり、裁判における証拠評価は、以下のようなステップで進みます。
- 【証明】成立の真正の証明: まず、当事者が「二段の推定」などを使い、文書が作成名義人によって本物の文書として作成されたこと(成立の真正)を証明します。
- 【採用】形式的証拠力(証拠能力)の獲得: 成立の真正が証明されると、その文書は証拠として取り調べる資格、すなわち「形式的証拠力」が認められます。
- 【評価】実質的証拠力(証明力)の判断: 最後に、裁判官が証拠として採用した文書の内容を吟味し、その文書が事実を証明する力がどの程度あるか(実質的証拠力)を、他の証拠と照らし合わせながら自由に判断します(自由心証主義)。
このように、文書が裁判で有効に機能するためには、段階的なハードルを越える必要があるのです。
二段の推定との関係性
民事訴訟法第228条第4項に規定される「二段の推定」は、押印のある私文書の成立の真正を証明しやすくするための重要な法的仕組みです。具体的には、以下の2つのステップで推定が働きます。
- 第一の推定(事実上の推定): 文書に押された印影が、作成名義人とされる本人(または代理人)の印章(印鑑)によるものであると認められる場合、その押印は本人の意思に基づいて行われたものと推定されます。
- 第二の推定(法律上の推定): 本人の意思による押印が推定されると、民事訴訟法第228条第4項の規定により、その文書全体が真正に成立したものと法律上推定されます。
この二段の推定によって、文書の成立を主張する側は、原則として印影が本人の印鑑のものであることを証明すればよくなり、証明の負担が大幅に軽減されます。この推定は、文書の形式的証拠力を確保する上で極めて重要な役割を果たします。
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電子契約の場合の考え方
これまで紙契約における証拠力について説明しました。ところで、近年注目されている電子契約では、どのような仕組みになっているのでしょうか。
電子契約では、電子署名とタイムスタンプが紙契約の押印・署名の役割となります。つまり、適切な電子署名があれば文書の成立の真正が認められます。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
引用:e-Gov法令検索
法的証拠力の高い電子契約を結びたいとお考えの方は、GMOサインのような電子署名法や電子帳簿保存法に準拠した電子契約サービスの利用をおすすめします。
- タイムスタンプにより作成日時が正確に記録される
- 電子署名により作成者が特定できる
- 変更や改ざんの痕跡が残るため、改ざんや偽造が困難になる
- システム上で署名プロセスが自動記録される
電子契約サービスを利用することで、電子契約は紙契約と同じかそれ以上の証拠力を持たせることが可能です。
形式的証拠力・実質的証拠力に関して法務部や事業者が押さえておくべきポイント
証拠力の仕組みを理解したら、次は実際の業務でどう活かすかが大切です。形式的証拠力と実質的証拠力の両方を高めるためには、署名権限の管理から契約内容の書き方、文書の保管方法まで、実務での対策が必要になります。
ここでは法務部や事業者が日常業務で実践すべき4つのポイントを解説します。
適格な作成主体による押印・署名
契約書の形式的証拠力を確保するためには、署名や押印を行う人の権限が明確でなければなりません。代表取締役や部門長など、契約締結の権限を持つ人が署名することで、「この契約は会社として正式に結んだもの」という推定が働きます。
実務では、社内で誰がどの契約に署名できるかを明確にルール化することが大切です。
- 100万円以上の契約は代表取締役
- 50万円以下は部門長
このように金額別に権限を定めます。また、署名者の印鑑証明書や委任状を管理し、必要に応じて相手方に提示できるよう準備しておきましょう。
事実関係の具体化
実質的証拠力を高めるためには、契約内容を具体的に記載することが大切です。「何を」「いつまでに」「どのように」「いくらで」行うのかを明確に書くことで、当事者間の権利義務関係がはっきりし、後のトラブルを防げます。
たとえば、業務委託契約では次のように書きます。
悪い例: 「A社はB社に対し、システム開発業務を委託する。」
良い例: 「A社(委託者)はB社(受託者)に対し、別紙仕様書記載の顧客管理システムの設計、プログラミング、及びテストを含む開発業務を、契約金300万円(税別)で委託する。B社は本システムを2025年12月31日までにA社に納品し、A社は納品後10営業日以内に検収を行う。」
このような具体的な記載により、契約書の内容が事実として信用されやすくなります。
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保管、管理体制の確立
契約書は作るだけでは不十分です。きちんと保管しないと意味がありません。紛失や改ざんを防ぐため、管理の仕組みを作ることが大切です。
- 施錠できる書類棚や金庫での保管
- 契約書の複製と別場所での保管
- 管理台帳による出し入れの記録
- アクセス権限の設定
- 定期的なバックアップ
- システムのセキュリティ対策
契約書の保存期間を法的要件に基づいて設定し、期限管理も行いましょう。仕組み化された管理により、必要なときに確実に契約書を提示でき、改ざんされていないことを証明できます。
電子署名法に準拠した信頼性の高い電子署名サービスの導入
電子契約を導入することで、紙の契約書以上の証拠力を確保できます。電子署名法に準拠したサービスを利用し、タイムスタンプを付与することで、文書の真正性と完全性を技術的に保証できるためです。
電子契約サービスを選ぶときは、次の3つを確認しましょう。
- 電子署名法に準拠していること
- 信頼できる認証局の電子証明書を使用していること
- タイムスタンプ付与機能があること
これらの機能により、「誰が」「いつ」署名したかが確実に記録され、改ざんが技術的に不可能になります。署名プロセスがシステム上で自動記録されるため、署名の経緯も証拠として残すことが可能です。
法的証拠力を高めるには、電子署名法に準拠したGMOサインの導入がおすすめ
形式的証拠力は「文書が真正かどうか」、実質的証拠力は「文書の内容が事実かどうか」を判断する基準です。どちらの基準も契約書を作るうえで欠かせないものです。企業の実務においては次のことが重要になります。
- 証拠力がある署名・押印
- 具体的な契約内容の記載
- しっかりとした保管管理
しかし、これらすべてを手作業で管理するのは手間でしょう。
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