心裡留保とはどのような意思表示?その他の法律行為と比較して解説

心裡留保(しんりりゅうほ)とは、本当は行う気がないのに「取引します」と意思表示する行為を指します。しかし、聞き慣れない法律用語であるため、どのような行為なのかわかりづらいでしょう。
本記事では、心裡留保の概要や類似しているその他の法律行為についてご紹介します。
心裡留保(しんりりゅうほ)とは
心裡留保とは民法93条で規定されている意思表示であり、真意ではない意思表示を自覚して行うことです。たとえば、1,000万円の絵画を本当は売る気がないのに「500万円で売ります」と言ったり、手持ちのお金が1万円しかないのに「100万円の指輪を買います」と言ったりする行為が心裡留保に該当します。
また法律行為における意思表示とは、一定の法的効果の発生を求める意思を取引の相手などに示すことです。具体的には、「この土地が欲しいから1億円で売ってほしい」という買主の取引の申込や、それに対する「その金額で売りましょう」という売主の承諾が、意思表示に該当します。
民法で規定されているその他の意思表示
取引では意思表示に何らかの瑕疵や問題があるケースも多いことから、民法で具体的なルールを定めています。対象となる代表例は、以下の行為です。
- 虚偽表示
- 錯誤
- 脅迫
- 詐欺
それぞれ詳しく解説します。
虚偽表示
虚偽表示とは、相手方と共謀して行う真意ではない意思表示のことです(民法94条)。たとえば、本人が持つ不動産を債権者から差し押さえされることを防ぐために、相手方と共謀して架空の取引を行い、登記名義を相手方に移転するケースが挙げられます。
このような意思表示は、本人と相手方の関係では無効です。そのため、登記名義を移したとしても差し押さえの対象になる可能性が高いです。
また虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できません。相手方が本人の承諾なしで架空の取引であったことを知らない第三者に売却した場合には、本人が相手方に譲渡した法律行為が無効であることを主張できません。この場合では、第三者に不動産の所有権が移転したことが確定します。
なお、法律において「善意」とはその法律行為について問題や意図などがあったことを知らないことを指し、「悪意」は逆に知っていたことを意味します。
錯誤
錯誤とは、本人の真意とは異なる意思表示であっても、その違いを自覚していない法律行為を指します。たとえば、本人は「製品A」を買うつもりでしたが、名称が似ている「製品A´」を購入してしまった場合が挙げられます。
また契約などの法律行為を行う動機が事実と異なる場合も、錯誤です。たとえば、有名で値が付くと思われる海外の新鋭芸術家が描いた絵画を購入した後に、実は名前が似ている別人が描いた絵画だったようなケースが挙げられます。
また動機の錯誤の場合には、これらの要件にくわえて当該動機が相手方に表示されていれば、取消しができます。ただし、錯誤が本人の重過失による場合には、基本的に取消しは認められません。
強迫
強迫とは、他人を脅して意思表示をさせる法律行為です。たとえば、一人の債権者を大勢で囲んで1,000万円の債務を「100万円で弁済したことにしてくれ」と脅す行為が挙げられます。強迫による意思表示は、取消しが可能です(民法96条)。強迫による意思表示の場合では本人に責任がないケースが多いため、善意無過失の第三者に対しても取消しを主張できます。
虚偽表示では、本人が意図的に瑕疵のある意思表示を行っています。また錯誤の場合でも、本人に判断能力が欠けていたなどの理由から帰責性があると考えられるため、第三者の保護規定が定められています。
しかし、強迫による意思表示は害意ある他人からの影響によるものであるため、本人を保護する必要性が高いことから、善意無過失の第三者でも法律行為の取消しが認められているのです。
詐欺
詐欺とは、他人を騙して錯誤に陥れた上で意思表示させる行為です。たとえば、偽物の絵画と知りながら本物と偽って購入させる行為が該当します。詐欺による意思表示は、取消しができます(民法96条)。
しかし、詐欺による意思表示の取消しは、取消し前に契約などの法律行為を行った善意無過失の第三者には対抗できません。なぜなら、詐欺でも本人は騙されたことについてある程度責任があるため、強迫ほど手厚く保護することは難しいと考えられるからです。
心裡留保によって締結された契約は有効になるのか?
心裡留保による契約の有効性については、民法93条で以下のように規定されています。
(心裡留保)
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(参考:e-Gov法令検索)
つまり、心裡留保による意思表示は原則有効ですが、相手方が真意ではないことを知っていたか知ることができた場合には無効ということです。
たとえば、1億円の土地を「5,000万円で売りましょう」という売主から取引の申込があった場合には、通常真意ではないことが予測されます。そのため、買主が本当は売る気はないだろうと思いつつも「買いましょう」と承諾した場合には、この法律行為は無効となります。
しかし、意思表示が無効になるケースであっても、善意の第三者がいる場合には法律行為が無効だと主張することはできません。先述したケースで売主が第三者に対して「この土地を8,000万円で売りましょう」と契約を申し込んで、買主と売主の取引について心裡留保が成立する要件を満たしていることを知らずに「その金額で買います」と承諾した場合には、この取引は有効となります。
心裡留保に関するよくある質問
心裡留保の実例は?
心裡留保とは、本当の気持ちとは違うことを、わざと相手に伝えることです。たとえば、友人に「この時計を1万円で売るよ」と言いながら、実は売る気が全くない場合や、冗談で「100万円あげるよ」と言う場合が当てはまります。
つまり、冗談や嘘で言ったことでも、相手が本気に受け取れば、原則としてその言葉どおりの契約が成立してしまいます。心の中で「本当は違う」と思っていても、相手が気づかなければ法律上は有効になるのです。
心裡留保の無効とはどういうこと?
心裡留保で伝えた内容も、通常は有効ですが、相手が「これは冗談だ」「本気じゃない」と知っていた場合や、少し注意すれば気づけた場合は、その契約は無効になります。
相手が冗談や嘘だと分かっていたときは、契約が成立しないということです。
意思表示についての類型を知っておき、トラブルを防ぎましょう
心裡留保による意思表示は原則有効です。ただし、相手が「本気でない」と気付いていれば無効になります。
このように法律における意思表示はおもに民法で規定されており、契約や取引などの法律行為が成立するかどうかの基準として役立ちます。