印鑑に使われている書体のひとつに印相体(吉相体)があります。特徴的で、一見した限りでは何という名前が書いてあるか読めないこの書体には、隠されたメリットがあります。ここでは印相体や印鑑でよく使われる書体の紹介とともに、印鑑の書体の選び方を解説します。
目次
印相体(吉相体)とは?
印相体(いんそうたい)とは、印鑑のために生み出された独特な書体のひとつで、吉相体(きっそうたい)、八方篆書体(はっぽうてんしょたい)とも呼ばれます。文字の線が四方八方に広がり、文字と印鑑の枠が接する部分が多くなっていることが特徴です。篆書体(てんしょたい)をベースに作られた印鑑用書体で、平仮名や片仮名も自由に表現することができます。
印鑑で多く使われる書体は他にもあります。
篆書体(てんしょたい)は、日本の紙幣に使われている2つの印影、「総裁之印」と「発券局長」にも使われている書体で、日本最古の印鑑といわれる漢委奴国王の金印もこの書体で作られています。可読性が低く、偽造も難しいため、個人や法人の実印におすすめです。なお、印鑑で使われる篆書体は正確には印篆(いんてん)と呼びます。
隷書体(れいしょたい)は筆書きのようなデザインが特徴の書体で、お札に書かれている「日本銀行券」「壱万円」といった文字も隷書体です。
古印体(こいんたい)は、隷書体をベースに作られた、丸みがあってやわらかい印象の印鑑向け書体です。可読性が高いことが特徴でしばしば認印に使われます。
行書体(ぎょうしょたい)は、細い筆記書体で印刷書体としても馴染みのある可読性の高い書体。草書体(そうしょたい)は行書体をさらにシンプルに簡略した筆文字です。楷書体(かいしょたい)も印刷書体やパソコンなどのフォントとして馴染みのある、可読性の高い書体です。
印鑑に印相体(吉相体)を使用するメリット・デメリット
印相体は複雑で読みにくい文字というイメージがありますが、印鑑に用いる場合、その複雑さや読みにくさが大きなメリットとなります。印相体が銀行印や実印といった簡単に偽造されては困るような印鑑に用いられることが多いのは、「ほかの書体に比べ偽造しにくい」とされるからです。
また、印相体の印影をよく観察するとベースとなっている篆書体を印鑑の枠に接するように字を四方八方へと伸ばしたデザインであることがわかります。そこには「印鑑の耐久性」という印相体のもうひとつのメリットが見えてきます。文字の印鑑の枠に接している部分がほぼ全周にわたっているため強度が高く、印鑑を長期間使用しても印面の一部が欠けるといったトラブルが起こりにくくなるのです。
ただし、印相体には、メリットとなっている書体そのものがデメリットとなることがあります。例えば、実印登録を行おうとしたときに、捺印した印影を役所の方が読めない場合があるのです。特に、印相体のデザインは印鑑を彫刻する職人の特徴が出やすい書体であるため、彫刻名、すなわち名前の漢字が複雑な場合など、より可読性の低い印影になってしまう可能性が考えられます。
可読性が低ければ偽造防止に役立つとはいえ、読めなければ印鑑として利用ができないため、ごくまれに「読めないから登録できない」という事態が起こることがあるようです。万一に備えて彫り直しのサービスを用意している印章店もあるようですので、購入先を選ぶ際の参考にすると良いでしょう。
印鑑の書体を選ぶポイント
それでは印鑑の書体はどのように選べばよいのでしょうか。(なお、「印鑑」は「役所や銀行に登録してあるハンコ」を意味し、認印のような一般的なハンコは「印章」と呼ばれています。)
まず実印や銀行印といった、簡単に偽造されては困る印鑑の場合、「印相体(吉相体)」や「篆書体」といった、可読性が低い書体を選ぶと良いでしょう。耐久性を重んじるのであれば、印相体になりますが、印鑑の素材(印材)は、木製はもちろん金属といった耐久性の高いものもあるため、強度の高い材質を選ぶことで欠けや破損を防ぐことが可能です。
銀行印や実印として登録しない「認印」として利用するのであれば、可読性の高い書体が良いでしょう。例えば「古印体」や「隷書体」などです。認印は荷物の受け取りや、回覧書類などを確認した、といった場面で利用することが多く、誰が押したかを印影によって判断するため、可読性の高い書体が望ましいです。
現在では認印用にゴシック体を使った可愛らしいデザインや、動物や自動車といったイラストが入ったものも販売されています。こうしたハンコも認印として利用したり、銀行印として登録したりすることは可能ですが、姓名以外の文字や絵柄の入ったハンコは、実印登録はできないものと考えた方がよいでしょう。
まとめ:長く使うなら耐久性と偽造防止に優れる印相体
流麗な書体デザインである印相体(吉相体)の印鑑は、可読性が低く偽造が難しいため、実印や銀行印に向いていることをお伝えしました。同時に、そのデザインは印鑑の欠けなどを防ぐことにも寄与しています。
長く使うことになる銀行印や実印は、自分の好みやTPOに加え、こうしたポイントも念頭において書体を選ぶと良いでしょう。
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