企業が保有する資産にはさまざまなものがあります。棚卸資産はその一つで、主に社内や倉庫に滞留している資産が該当します。
では、具体的にどのような資産が棚卸資産に該当するのでしょうか。特徴や評価方法を知ることによって、棚卸資産を適切に評価することができ、決算書への計上についても自信を持つことができますので、ぜひ参考にしてください。
目次
棚卸資産とは?
棚卸資産とは、販売することや消費することを目的として仕入れたにもかかわらず、社内に残っている資産を指します。
一般的には商品や製品などの在庫を指すことが多く、財産としての価値を持つ資産が該当します。
たとえば、販売目的で企業が仕入れた商品や製品に関しては、会計処理上は仕入れ時に「費用」という仕訳項目で計上するのが一般的です。そして、販売すればそれが収益となります。
しかし、仕入れたけれども販売できずに残っているものは、そのまま社内の資産として会計処理をしなければいけません。価値のある資産ですから、貸借対照表において資産として計上します。
貸借対照表における資産の種類
貸借対照表のうち、資産の部には固定資産と流動資産の2種類があります。
固定資産とは主に不動産が該当し、土地や建物、そして車両運搬具などが分類されます。
固定資産は、長期使用を前提とした資産という特徴があります。
一方の流動資産は、すぐに現金化できる資産が該当します。
具体的には、売掛金や預金などが分類されます。
棚卸資産にはどのような資産が該当するのか
棚卸資産に分類できる資産にどのようなものが該当するかは、法人税法施行令10条で規定されています。
(棚卸資産の範囲)
第十条 法第二条第二十号(棚卸資産の意義)に規定する政令で定める資産は、次に掲げる資産とする。
一 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)
二 半製品
三 仕掛品(半成工事を含む。)
四 主要原材料
五 補助原材料
六 消耗品で貯蔵中のもの
七 前各号に掲げる資産に準ずるもの
引用元:法人税法施行令 | e-Gov法令検索
販売目的で取得した商品や製品
販売目的で仕入れた商品や製品は、棚卸資産に分類されます。商品や製品の種類やジャンルは問わず、食品から金属まで、数多くの種類の商品や製品が該当します。また、仕入れた商品や製品を加工する際に発生した作業くずや副産物なども、棚卸資産とカウントされます。
なお、不動産業者が土地や建物を売買している場合には注意が必要です。
本来なら土地や建物は固定資産に分類されますが、販売目的で保有している土地や建物は流動資産の一つである棚卸資産に分類されます。長期保有を前提としていないからです。
分類を間違えやすい「半製品や仕掛品、原材料」
製造が終了して販売できる状態となっている半製品や、まだ完成していない状態の製品である仕掛品のほか、製造工程において必要となる主要原材料や補助原材料なども資産としての価値があります。そのため、棚卸資産に分類することができます。
ここで注意したい点は、製造工程において必要となる補助的な塗料や釘などに関しても、棚卸資産としてカウントするという点です。
より細かく分類するという観点から、原材料を主要原材料と補助原材料に分けることも可能です。
貯蔵中の消耗品
貯蔵中というのは、消耗品の中でも継続的に消費が続いており、重要度がそれほど高くないものは損金算入が可能という状態を指します。
具体的には、事務所で使っている文房具などの消耗品、広告宣伝用に保有している印刷物、サンプル品などが該当します。
ただし、タクシーチケットや切手、収入印紙などは、貯蔵中の消耗品として仕訳をすることはできません。なぜなら、これらは現金と同じ価値を持っているからです。
サンプル品に関しても、無料提供されているものは貯蔵中の消耗品として仕訳できますが、有料で販売しているサンプル品の場合には、現金と同じ価値を持つ商品という位置づけとなるので、棚卸資産として仕訳します。
棚卸資産はどのように評価したらよいのか
棚卸資産を把握することは、決算書に正確な評価額を記載することに関係します。そのため、まずは社内でどのような棚卸資産を抱えているかを把握したうえで、適切な評価方法を理解することが大切です。
棚卸資産の評価額を算出する方法は大きく分けて原価法と低価法があり、複数種類の算出方法があります。多くは税法上の評価方法としても認められているため、自社の状況に合った評価方法を選択しましょう。
仕入価格のまま評価する「個別法」
個別法とは、商品や原材料を仕入れた時の価格をそのまま棚卸資産の評価額として計算する方法です。
この場合、商品ごとや原材料ごとに仕入価格が異なるため、評価計算も一つ一つを個別に行わなければいけません。
数量が多い場合には、この評価方法を選択すると膨大な手間が発生します。そのため、個別法は主に、土地などの不動産、貴金属のように個数が少なく原価が大きなものの評価方法として用いられるのが一般的です。
商品の販売と親和性の高い「先入先出法」
先入先出法とは、先に仕入れたものを先に販売すると仮定して評価する方法です。
消費期限の短い食品などに適しており、商品販売のプロセスと親和性が高いというメリットがあります。
会計期間の平均値を使う「総平均法」
一会計期間の間に仕入れたすべての仕入単価を合計し、仕入れた個数で割って平均単価を求めるという方法が総平均法です。
総平均法は、計算が単純になるというメリットがあるものの、実際に企業が行っている活動とは異なる評価額が計算されてしまう可能性があるため、注意が必要です。仕入単価が類似したものを多く取り扱う場合には、この方法でもデメリットを最小限に抑えられますが、仕入額に大きな差が発生する場合には避けたほうがよいかもしれません。
仕入れの度に計算し直す「移動平均法」
移動平均法は、商品や原材料を仕入れるたびに、現在抱えている在庫と合わせて平均単価を計算するという方法です。
取り扱う在庫の数が少ない場合には正確な評価額を算出できるというメリットがありますが、数量や仕入れの頻度が多くなると、再計算の工数が大きな負担となってしまうデメリットがあります。
ちなみに、移動平均法では払い出す際に実際の仕入れの原価ではなく、この評価方法で算出した平均単価を払出単価として適用します。
期末にもっとも近い仕入原価を適用する「最終仕入原価法」
最終仕入原価法では、期末にもっとも近い仕入れ時における仕入単価を、その会計期間全体の評価額として計算します。
最新の評価額を適用し、古いものは考慮する必要がないという点が、この評価方法のメリットです。
確定申告においては、特に企業側からの申告がない限りは、この評価方法により計算が行われます。
売価で評価する「売価還元法」
棚卸資産の評価計算には仕入額をベースにする評価方法が多いのですが、売価還元法は売価から原価を確定します。
具体的には、商品の回転率や値入率別にグルーピングしたうえで、期末における販売価格から合計評価額を算出することになります。そこに原価率をかけることで、評価額を計算します。
この評価方法は、取り扱う商品数が多い小売業で多く活用される方法です。
需要の低下に対応できる「低価法」
低価法は、他の評価額と比べて、商品の需要が低下した場合に有効な評価方法です。
原価法によって計算した取得原価を、期末時点の時価と比較したうえで、低いほうを評価額として適用するのが特徴です。棚卸資産の価値が下がってしまったときに、会計処理に反映できるというメリットがあります。
棚卸資産で知っておきたい注意点とは
棚卸資産は、適切に評価することで、会計処理にも状況を反映させやすくなります。取り扱う際にはどのような点に注意したらよいのでしょうか。
紛失・破損時には棚卸評価損の計上が必要
棚卸資産を紛失したり破損したり、または帳簿と比較して数量が合わないという事態が起こった場合、棚卸評価損を会計処理で計上する必要があります。また、商品の価値が下がった場合は、商品評価損を計上することになります。
小売業においては、商品の売価を値上げ・値下げした場合にも、会計処理が必要となります。
どの評価方法を適用するかは事前申告が必要
棚卸資産の評価方法にはさまざまな方法があります。しかし、年によって自由に評価方法を変更できるというわけではなく、法人を設立したあとの最初の確定申告までに、税務署へどの評価方法を選択するのかを届け出なければいけません。
既に届け出ている評価方法を変更することは可能です。その場合には、事業年度がスタートする前までに変更届を提出し、承認を受ける必要があります。
なお、評価方法の申告が行われていない場合には、最終仕入原価法が自動的に適用されることになります。