正社員として会社に就職する際、身元保証書の提出を求められることがあります。新卒社員の場合、大学の就職セミナーなどで「身元保証書の書き方や身元保証人になれる方」などの説明を受けた方もいるでしょう。
その一方で、転職の場合は「独身で親も高齢のため、身元保証人を頼める人がいない」と悩むケースもあります。また、身元保証書はどのように記入すればよいのか、身元保証人の責任範囲はどこまでかといった身元保証人に関する疑問を持っている方も多いことでしょう。
本記事では、身元保証人の選び方や身元保証書の書き方、会社に提出する際の注意点などを紹介します。身元保証書の提出義務があるか、や提出を断れるかも解説するので、参考にしてください。
目次
身元保証書とは?
身元保証書とは、入社する人物が会社でトラブルを起こさず、誠実に働くことを第三者によって保証し、会社に損害を与えた場合は金銭的な補償をすると誓約する書類です。正社員として入社する際に提出することが多いですが、アルバイトやパートとして働く際に提出を求められることもあります。
身元保証書を作成する目的は、主に以下の3つです。
- 本人の人物像に問題がないことの確認
- 企業に損失を負わせた場合、本人と保証人が損害賠償を負う旨の同意
- トラブル発生の抑止や、緊急連絡先の確保として
入社を希望する際、履歴書や職務経歴書を提出して住所・氏名・年齢・職歴などを会社側に伝え、面接で働く意欲や人柄をしめします。しかし、履歴書や職務経歴書、面接だけで入社希望者の人柄をすべて見抜くことはできません。入社後に仕事への態度や意欲が変わってしまい、人間関係がうまくいかなくなる恐れがあります。
そこで、会社は保険として第三者に「入社する人物は勤労意欲があり、上司や部下、同僚とうまく仕事をしていく努力をする」と保証してもらうのです。また、会社によっては、扱っている商品や社内の情報が高い価値を持っているケースもあります。銀行のように現金そのものを扱っているところも多いです。ふと魔が差して会社に大きな損害を与える可能性はゼロではありません。
そこで、身元保証書を提出することにより、「会社に損害を与えたら大変なことになる」と実感させて抑止力にします。ただし、従業員が会社に損害を与えたからといって、身元保証人にすべての責任を問うことはできません。
2020年の民法改正により、保証人が支払いの責任を負う金額の上限である極度額を定めない保証契約は無効とされました。
たとえば極限額が100万円ならば、従業員が1千万円の損害を会社に与えたとしても、保証人が補償の義務を負うのは100万円までです。このほか、従業員が独身で一人暮らしの場合、急病やケガで親族へ至急連絡を取りたい場合に身元保証書が役立ちます。
身元保証人の選び方
身元保証人は、法的に「このような条件を満たした人でないと不可」と定められているわけではありません。したがって、原則としてはだれでも身元保証人になることができます。しかし、会社が身元保証書を入社する社員へ提出を求める目的を考えると、誰でもよいというわけにはいきません。
そこで、多くの会社では収入があって成人した人、2~3等親以内の親族といった一定の基準を設けています。
「親族でも年金生活者は身元保証人にはなれない」、「海外在住者は身元保証人にはなれない」といった決まりを設けている企業もあるので、確認が必要です。最も身元保証人に適しているのは、収入がある自分の親か兄弟、もしくは配偶者となります。
なお、身元保証人の期間は5年が限度であり、身元保証書に特に期限を定めていないものは、3年で有効期間が終了します。3~5年働けば、本人の人柄や勤務態度も十分に会社が把握できます。そのため、保証契約の更新が必要か否かは、会社側の判断に委ねられます。
身元保証書の記入例
身元保証書は、会社側が書類を用意して記入をする方式がほとんどです。しかし、自由な形式で身元保証書の作成を求められるケースもあるでしょう。この場合は、「身元保証書 テンプレート」で検索すれば、いろいろなテンプレートがヒットします。
以下に一例を紹介します。
紹介したテンプレートは企業も利用できます。身元保証書の文面は、主に金銭による損害賠償を保証する内容です。テンプレートには、金銭的な補償を行なうのは、雇用契約に著しい違反があったときや、故意または重大な過失で会社に損害を与えたときと記載してあります。
また、会社は従業員が故意または重大な過失によって会社に損害を与えた場合や、従業員の転勤などで身元保証人のが監督が困難になったときは、その事実を知らせる義務があることも記載されています。多少文面は異なりますが、概ねこの2点を記しておけば、身元保証書としては問題ありません。このほか、極限額と、保証契約の期間も忘れずに記載しましょう。
なお、身元保証書では基本的に文面はあらかじめ印刷されており、従業員と会社、身元保証人がそれぞれ住所・氏名を記入し、押印すれば完成です。記入する前に内容をよく読み、極限額も確認してください。
身元保証書は、会社・従業員・身元保証人で一通ずつ保管します。そのため、同じ書類に3回住所氏名を記入することが必要です。
【身元保証書の書き方】①本人の記入欄
本人の記入欄には、住所・氏名を記入します。なお、入社にあたって引っ越す予定があり、住所が決まっていない場合は、新住所に住民票を移した後に身元保証書を記入してください。
【身元保証書の書き方】②身元保証人の記入欄
身元保証人に記入が求められるのも住所と氏名だけです。なお、押印して提出した時点で記載内容に合意したことになるので、文面をよく読んで理解してください。1通は自分で保管しますが、保証契約の期間が過ぎるまでなくさないようにしておきましょう。
身元保証書が求められる主なシーン
本項では、身元保証書が求められる主なシーンについて解説します。入社時以外にも身元保証書が求められることので、参考にしてください。
入社
身元保証書が求められる最も一般的な場面は、入社時です。
新卒で入社する場合は、ほぼ提出を求められるでしょう。転職の際は提出を求められる会社もあれば、特に求められない場合もあります。
身元保証書の提出は、会社の規模や扱っている商品とは関係ありません。一種の慣例になっている側面もあるでしょう。入社の際に身元保証書の提出を求められたら、記載内容を熟読し、理解したうえで身元保証を依頼してください。
ビザの取得
外国籍の方と結婚し、日本に定住するためにビザを取得する場合、身元保証人が求められるケースがあります。この場合の身元保証人は、外国籍の方が日本での生活が困難になった場合、滞在費や帰国費用を負担することを求められるので、ある程度経済力が必須です。
また、身元保証人には、日本の法律を遵守するように指導することが求められます。なお、外国籍の方が入社し働く場合は就労ビザが必要ですが、就労ビザに対して身元保証人を求められることはありません。ビザ取得のための身元保証は日本人だけでなく、在留資格を得た外国人が行うことも可能です。
身元保証書を提出する際の注意点
身元保証書を提出する際は、以下の点に注意しましょう。
- 期間が定められているか:定められていない場合は3年、定められていても5年は超えられない
- 極限額は設定されているか:設定されていない保証書は無効であり、「全額補償」という極限額は設定していても、裁判では無効になるケースが多い
- 通知義務を明記しているか:通知義務を明記しておらず、いきなり損害賠償を保証人に請求しても認められないケースが多い
疑問がある場合には、会社に問い合わせを行いましょう。
また、身元保証契約を自動更新する旨を保証書内に記載しても、認められません。提出する場合は押印し忘れがないか、記載もれがないかよく確認してください。
身元保証書に関するよくある疑問
最後に、身元保証書に関するよくある疑問を紹介します。困った場合の参考にしてください。
身元保証人の欄を自分で書くのはOK?
身元保証人の欄を自分で書いてはいけません。たとえば、親に保証人になってほしいが遠方に住んでいる場合は、面倒でも書類を郵送して署名と押印をして返送してもらいましょう。
また、「親ならばきっと保証人になってくれるだろう」という安易な考えで連絡を入れずに勝手に保証人にした場合は、有印私文章偽造の罪の問われることもあります。会社からの信用もなくなり、内定取り消しになるケースもあるでしょう。面倒でも、身元保証人になってほしい旨を相手に伝え、了承を得たうえで署名してもらってください。
訂正したい場合はどうする?
住所や氏名などを間違えてしまった場合は、基本的に書き直してください。会社によっては、記入前の身元保証書を書き損じにそなえてコピーしておくように指導する場合もあります。コピー不可で書き損じをした場合は、二重線と訂正印を押して訂正しましょう。
また、身元保証人が保証契約期間中に引っ越したり結婚・離婚をしたりして住所や姓が変わった場合の対応は会社に問い合わせてください必要あれば、身元保証書を作り直すことになるでしょう。
提出を拒否することはできる?
身元保証書の提出を義務づける法律はありません。したがって、理由があって身元保証書の提出を行ないたくない場合は、拒否することも可能です。この場合、会社側も提出を強制することはできません。
しかし、会社が社則などで身元保証書の提出を義務づけている場合は、社則や就業規則違反を理由に内定の取り消しをすることも可能です。なお、身元保証人になってくれる人がいないので拒否したい場合は、まず会社に相談してみましょう。現在は身元保証人代行のサービスもあるので、会社側も柔軟な対応をしてくれます。
保証期間が記載されていない場合はどうなる?
前述したように、保証期間は最長で5年です。保証期間が記載されていない場合は3年で終了し、例外はありません。
また、保証契約の更新を身元保証書で義務づけることはできないので、注意してください。
更新が必要な場合は、契約期間経過後に改めて保証契約の締結を求めましょう。このとき、保証人を変えても構いません。
身元保証人の責任の範囲は?
身元保証人の責任範囲は、昭和8年に定められた身元保証に関する法律によって、定められています。身元保証人は、身元保証人になった従業員が会社に損害を与えないように監督し、万が一損害を与えた場合は従業員と連帯して金銭的な補償をしなければなりません。しかし、無期限での保証は許されず、期限は最長で5年です。
また、補償する金額は極限額までとなっており、それを超える補償をする義務はありません。このほか、従業員の転勤などで身元保証人が従業員の監督ができなくなった場合や、会社に損害を与える可能性が高くなったとき、従業員が重要な責任のある地位についたときなどは、それを理由に身元保証人をやめることもできます。一度身元保証人になったのだから、従業員が会社に所属している限り身元保証をしろ、と会社が強制することはできません。
まとめ:身元保証書は内容をよく確認して提出する
身元保証書は社員の身元を第三者が保証するもので、会社側も提出してもらえば安心して働いてもらえます。また、身元保証人になったからといって、従業員の失敗の責任をすべて保証する必要もありません。
保証人になってもらう人が周りにいない場合は、まずは会社に相談してみましょう。友人や知人、借りている賃貸物件の大家さんなどでOKな会社もあります。
もし、身元保証人が見つからないのであれば、保証代行サービスに依頼する方法もあります。身元保証書は提出する前に、記載されている内容をよく読んで理解したうえで署名、押印してください。