公正証書とは、契約や取引、重要な出来事を文書として記録し、法的に確認するために用いられる公文書です。公正証書の作成には、第三者である公証人が立ち会い、当事者間の同意や合意を確認することで、公的な証拠としての価値が保証されます。このような正確かつ信頼性の高い公正証書は、法的な紛争の解決、契約の履行、相続手続きなど、さまざまな場面で重要な役割を果たします。
本記事では、公正証書の概要、作成のメリット、そして具体的な作成手順について詳しく解説します。相続や大きな金額の契約などの際に重宝されるため、そのような機会に備えるためにぜひご覧ください。
目次
公正証書とは
公正証書とは、公証人と呼ばれる特別な公務員が法的な権限を持って作成した公式な文書を指します。公正証書は、個人または法人からの依頼に基づき、特定の事実や契約の成立を確認してその内容を証明する役割を果たすものです。
一般的には、不動産の売買契約や遺言書の作成、会社の設立手続きなど確実な法的効力が求められるさまざまな場面で利用されています。また公正証書には絶大な法的効力がありますので、裁判所や行政機関でも証拠として使うことができます。特に遺産の相続ではトラブルになるケースが多いため、この特徴から公正証書遺言が広く利用されているのです。
公正証書の種類
公正証書は、以下の3つの種類に分類されます。
それぞれ詳しく解説します。
契約に関するケース
「契約」は私たちが日頃から行っている代表的な法律行為の一つであり、紙の契約書を使う場合には当事者間で署名捺印して保管するケースが多いです。しかし、契約の金額が大きい場合や法人にとって重要な契約である場合には、より正確に契約があったことやその内容を保証することが求められます。
そこで、家を買う場合の売買契約や会社同士の大きな契約である場合には、公正証書が作成されるケースが見られます。また場合によっては、養育費の支払いを確約してもらうために離婚協議書を作成したり、年を取った後に自分の面倒を見てもらうように任意後見契約を締結したりするケースもあります。
そのため、金額が大きい場合や法人の存続に関わりかねない場合、あるいは自身の人生に影響するような場合に公正証書が作成されることが多いのです。
単独行為に関するケース
単独行為とは、当事者一人の意思表示だけで成立する法律行為を指します。その代表例が遺言であり、公正証書遺言はその確実な法的効力ゆえ遺産の相続をスムーズに済ませるために多くの方に利用されています。
遺言と言えば、相続人自らが書く自筆証書遺言のイメージを持つ方もいますが、実際には正確極まりない法的な書式が要求されるため、後になってから有効性が争われるケースが後を絶ちません。そのため、確実に遺産相続を行うためには公正証書遺言の作成をおすすめします。
事実実験に関するケース
事実実験とは、個人の権利や義務に関する事実について、公証人が自ら調査することを指します。その結果を記載した文書が、事実実験公正証書です。
たとえば、相続財産の状況を確かめるために、公証人はさまざまな業務を行います。具体的には土地の様子を確認するために現地まで赴いたり、銀行の貸金庫を中身までチェックしたりするなどして、財産の状況を精査します。
この際に作成される事実実験公正証書は、トラブルを防ぐための証拠として使われるケースが多いです。
公正証書を作成するメリット
公正証書を作成するメリットは、以下の通りです。
- 非常に高い法的効力がある
- 債権回収をスムーズに行える
それぞれ詳しく解説します。
非常に高い法的効力がある
公正証書は公証人が適切な方法で作成した文書ですので、極めて高い法的効力を有しています。また公証人が作った文書は「公文書」に分類され、「公文書」は職務によって作成した場合には真正に成立した文書として推定されます(民事訴訟法228条2項)。
(文書の成立)
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
出典:民事訴訟法 | e-Gov法令検索
つまり、公正証書はその文書の作成名義人の意思によって作成されたことが推定されますので、文書の真正性によって民事におけるさまざまなトラブルのリスクを回避できるのです。
債権回収をスムーズに行える
金銭消費貸借契約において、借主が期日を過ぎても返済しない場合には、貸主は口座を差し押さえる強制執行によって債権の回収を図るでしょう。しかし、口座の差し押さえには借用書など借金の存在を証明する文書だけでなく、裁判所からの確定判決も必要となります。この手続きを済ませるには、借用書などの文書を証拠として揃えて貸金返還の請求訴訟を提起して確定判決を得なければなりませんので、かなりの手間や時間がかかります。
しかし、公正証書で金銭消費貸借契約を証明すれば、この一連の流れをカットしてすぐに差し押さえを実行できますので、債権回収に非常に役立つと言えるでしょう。
公正証書の作成手順
公正証書を作成するには、以下の6つのステップで行われます。
それぞれ詳しく解説します。
STEP
公証人への依頼
まず当事者は、公証人に公正証書を作成するように依頼します。この際には、依頼内容や必要な文書、証拠などが明確に伝えられるようにしておくと準備しておくと良いでしょう。
STEP
面談
依頼者は公証人と面談を行った上で、必要な情報や文書を収集します。このとき、公証人は当事者間において公平かつ中立の立場を保ち、双方の利益を守ることに注意しなければなりません。
STEP
公正証書の作成
公証人は収集した情報をもとに、公正証書の内容を作成します。公正証書では法的な要件に適合しなければなりませんので、正確かつ明瞭な文書として作成されます。
STEP
当事者による確認
公正証書の内容が正しいことを確認するために、当事者による読み上げや確認が行われます。当事者が公正証書の内容を理解して納得した上で、署名します。
STEP
公証人の署名捺印
公証人は公正証書に署名して、公正証書に関連する公印や印鑑を押印します。この過程によって、公正証書が公証人の証明のもとに成立したことが示されます。
STEP
機関への登録
公正証書が作成されたら、公正証書の内容によって適切な機関に登録されます。たとえば、不動産の売買契約書では、登記簿に登録されます。
公正証書の作成手続きは公証人法に基づいて規定されており、公平性と信頼性を確保するために慎重に行われるものです。このような厳格な手続きから、公正証書は法的効力があるだけでなく、当事者間の合意や取引内容を明確にし、紛争を未然に防ぐ役割を果たします。
作成時の費用
公正証書を作成するためには、公証人手数料という費用を負担しなければならないことに注意しておきましょう。公正証書の作成費用は「公証人手数料令」という政令によって定められています。そのため全国のどの公証役場でも、金額は変わりません。
具体的な金額は、以下のように定められています。
スクロールできます
目的の価額 | 手数料 |
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100万円以下 | 5,000円 |
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100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
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200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
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500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
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1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
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3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
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5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
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1億円を超え3億円以下 | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
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3億円を超え10億円以下 | 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額 |
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10億円を超える場合 | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
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出典:日本公証人連合会「12 手数料」
上記以外にも、必要な資料を集めるための手数料や規定の枚数を超えた際の用紙代、出張が必要な場合の交通費などがかかります。さらに公正証書の作成にあたって、行政書士や司法書士、弁護士などに相談をする場合は、その費用もかかります。
なお、公証人への相談は無料です。
公正証書作成時の注意点
公正証書が公文書として認められるためには、法的に有効な内容を記述する必要があります。その点が十分であるからこそ、必要な際に備えられる証拠文書として役立つのです。このため、公正証書を作成する際には関連する法的知識が必要であり、正確な内容を考慮して安全な公正証書を作成することが求められます。
しかし、公正証書には記載する内容に応じて関連する法令が異なりますので、公正証書を作成するときにはそれらの情報などを含めて事前に調査を行う必要も出てきます。また、公正証書は必ずしも依頼者にとって有利な条件が反映されるわけではありません。
さらに公証人は当初依頼しなかった内容を公正証書に記載することはできません。したがって、依頼者自身が誤解したり漏れがあったりした内容がある場合には、不利な内容になるリスクが伴います。
そのため、公正証書を作成する場合には、関連法令の調査や記載すべき内容の精査などを行ってから依頼する点に気をつけてください。
公正証書は法的トラブルの防止に役立ちます
公正証書は公証人が法的な権限を持って作成する公式な文書です。この文書は特定の事実や契約の成立を確認し、その内容を証明する役割を果たします。公正証書の作成手続きは公証人法に基づいて厳格に規定されており、公平性と信頼性を確保しているのです。
公正証書は、法的なトラブルを未然に防ぐために非常に役立ちます。特に大きな金額の取引や法人の取引などで重宝されていますので、必要な場合にはぜひ本記事で説明した内容をお役立てください。