会社に関する基本的な情報やルールが記載されている「定款」は、記載内容に変更があった場合には、定款自体に変更を加えなくてはなりません。変更手続きはやや複雑であるため、知識がないと適切に変更できない可能性があります。
そこで本記事では、定款の記載事項や定款変更が必要になるケース、定款変更の手続き方法などをわかりやすくお伝えします。
目次
定款の記載事項とは?
会社法の定めにより、定款には以下の3つの項目を記載しなければなりません。
それぞれの項目について詳しく解説します。
絶対的記載事項
絶対的記載事項は、必ず定款に記載しなくてはいけない項目です。具体的には、会社の目的、会社の商号、本店の所在地、資本金額、発起人の氏名及び住所の5項目が対象であり、全て網羅されていないと定款は無効になってしまいます。
またそれぞれの項目には細かいルールが設定されており、ミスや間違いがあると公証役場で認証されないので注意が必要です。たとえば、商号に使用できる文字は決められており、「株式会社」という文言は必ず使用しなくてはなりません。また発起人の氏名や住所は一文字も間違いのないように明記します。
発行可能株式総数に関しては定款に必ずしも明記しなくていいですが、会社設立までには発起設立か募集設立かを明記する必要があります。なお、設立時の発行可能株式総数は、発行可能株式総数の4分の1を下回ってはいけません。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、定款に明記されていないと効力を発揮しない項目です。必ずしも定めておく必要はありませんが、企業で決めた場合には定款に記載しなければ効力を発揮しないので注意が必要です。
代表的な内容には、株式の譲渡制限に関する事項や取締役等の任期の延長、相続人の売渡し請求、公告の方法、事業年度などが挙げられます。特に取締役会や監査役、代表取締役に関しては定款に明記していないと設置できません。
広告の方法については、官報や日刊新聞紙、電子公告の3つがありますが、電子公告の場合はURLを定款に記載する必要があります。また事業年度を定款に記載している場合は、定款変更を行わなくてはなりません。そのため事業年度を変更する予定があるなら、定款には記載しない方が無難でしょう。
任意的記載事項
任意的記載事項は、記載してもしなくても問題ない項目であり、定款の効力には影響しません。
しかし、定款に定めておけば社員に周知できるメリットがあります。ただし一度記載すると、変更を行う場合には株式総会での決議が必要になってしまうので、記載するかどうかには気をつけましょう。
定款の変更が必要になるケースとは?
定款の変更で、代表的なケースには以下の3つが挙げられます。
- 業績好調などの理由から本店を移動する
- 新しい事業を始める
- 役員の変更
それぞれ詳しく解説します。
業績好調などの理由から本店を移動する
業績好調などによって本店を移動する場合には、定款を変更しなければなりません。定款には本店所在地の記載がありますので、本店を別の場所に移す際には定款の変更が必要になります。
ただし、定款にどこまで明確に記載しているかによっては変更が不要なケースもあります。たとえば、東京都台東区東上野から東京都台東区北上野に移転した場合、「本店を東京都台東区東上野に置く」と明記していれば、定款を変更しなくてはなりません。一方、「本店を東京都台東区に置く」と明記していれば、定款変更の必要はありません。
新しい事業を始める
新たな事業を始める場合にも、定款の変更が必要です。たとえば、最初は飲食業として事業を始めたものの、お店の人気が出てきたので料理教室を開こうと考えているといった場合などが考えられます。趣味やサービスで料理教室を開くのであれば問題ありませんが、事業としての展開を考えている場合には定款の「会社の目的」を変更しなければなりません。
会社設立時に作成する原始定款には、複数の事業目的を記載できます。そのため、将来的に取り組みたい事業やすでに準備を始めている事業をあらかじめ記載しておけば定款変更の手間を省けるのです。
役員の変更
役員を変更する際にも定款変更が必要です。ただし、役員の個人名を記載していなければ、定款の内容に基づいて役員を変更した場合には修正しなくて大丈夫です。
しかし、役員の人数が規定数より増加する場合や役員の任期を変える場合には、定款の変更が必要です。また取締役会を廃止するために取締役を1名に変更する場合でも、取締役会非設置会社に変更した上で「取締役を1名にする」と定款に明記しなくてはなりません。
どちらも変更登記も要する内容になるため、法務局への申請を合わせて行います。取締役会非設置会社になると、取締役全員が代表取締役になります。
また会社の運営上の決定事項について「取締役会にて決定」と記載しているのであれば、発生が考えられる個別の案件に関して検討し、定款の内容を大幅に変更しなくてはいけない可能性も出てきます。
なお、定款変更には同時に登記申請が必要になるケースがあります。代表的なものは以下の表の通りです。
項目 |
登記申請が必要になるケース |
絶対的記載事項 |
・商号の変更(社名変更)
・新しい事業を始める
・発行可能株式総数の変更
|
相対的記載事項 |
・株券の発行
・取締役会の設置
・監査役の設置
|
任意的記載事項 |
・資本金の額 |
登記の変更は、書面もしくはオンラインで行います。書面申請では、管轄の法務局に必要書類を持参するか郵送で送ります。
急ぎの場合や管轄の登記所が遠い場合などには、法務局の申請用総合ソフトを利用すると手続きがスムーズです。なお変更登記には、変更登記申請書と株主総会議事録株主リストの提出が必要です。
定款変更の手続き方法とは?
定款変更の手続きは主に以下の3ステップで行われます。
- 株主総会の特別決議の開催
- 株主総会議事録の作成および保管
- 法務局への議事録の提出
それぞれのステップをわかりやすく解説します。
株主総会の特別決議
まず株主総会の特別決議を開催しなくてはなりません。通常株主総会は3ヶ月毎に1度開かれますが、必要に応じて臨時株主総会が開かれるケースもあります。定款の変更に関しては、緊急度によってどちらで決議されるか決まり、このような会社経営に関わる重要な事項を決定する場合には特別決議と呼ばれます。
普通決議では、決議権を持つ株主の過半数以上の賛成を得なくてはなりませんが、特別決議では3分の2以上の賛成が必要です。取締役会や代表取締役が独断で定款変更することは許されません。
しかし、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録に同意の意思表示をした時は、議案を可決した株主総会決議があったものとみなす書面決議制度が存在します(会社法319条)。
つまり、株主全員の同意があれば、定款変更で書面決議を採用できます。なお書面決議を行う場合は、定款変更の内容と新旧対照表(変更前と変更後の定款内容を示した表)を提示します。
株主総会議事録の作成および保管
登記の必要がない定款変更の場合、定款の変更が決定されたら、株主総会の議事録を据え置くだけで手続きは完了となります。原始定款と議事録を合わせたものが現行定款になるため、一緒に保管しておきましょう。
議事録には、開催日時及び場所や出席者の名称、監査人の意見などの記載が必要です。ただし、決算月の変更などは税務局への届け出を要するため、変更決定から1年以内に議事録を提出します。議事録は本店で10年間保管し、株主から要求があれば閲覧させるようにしましょう。
法務局への議事録の提出
変更登記が必要な内容を変更する場合には、株主総会での特別決議から2週間以内に管轄の法務局に議事録を提出しなくてはなりません。ただし、会社の本店所在地を変更した際は、所在地へ移動した日から2週間以内に届け出る必要があります。期限を過ぎてしまうと、過料を支払わなければならないケースがあるため注意が必要です。
必要書類と登記費用
定款変更における提出書類と登記費用は、以下の通りです。
|
登記申請書 |
議事録 |
収入印紙添付台紙 |
印鑑届書 |
登記費用 |
商号の変更 |
○ |
○ |
○ |
○ |
3万円 |
事業目的の変更 |
○ |
○ |
○ |
|
3万円 |
本店の住所変更 |
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|
|
|
|
法務局管轄内 |
○ |
○ |
○ |
|
3万円 |
法務局管轄外 |
○ |
○ |
○ |
○ |
6万円 |
本店所在地の変更は、管轄外への移動の場合には旧住所と新住所の所在地の双方で登記申請を行いますので、各3万円ずつ費用がかかります。定款の変更は公証人の認証を受けなくても良いため、登記が不要である場合には自社で作成すれば費用は一切かかりません。一方司法書士に定款変更を依頼すると、平均で3万円の依頼料が発生します。
定款変更の際の注意点
定款変更の際には、原始定款に手を加えて変更点のみを書き換えたくなりますが、原始定款を直接変更することは認められていません。そのため、株主総会で決定した変更後の内容で新しく定款を作成します。
原始定款は作成した時のままの内容から触らずに、新たに作成した定款と一緒に保管してしなければなりません。この際には、少ない範囲の変更であれば別紙で添付する、どれが最新の定款なのかわかりやすくするなど工夫すると良いでしょう。
定款の事業の目的を記載または変更する時には、誰が見てもわかりやすい内容にするよう心がけましょう。定款は誰でも閲覧が可能なため、新たな事業締結の際などに取引先が読む場合も考えられます。
わかりにくい内容になっていると不信感を持たれてしまう可能性があるため、文言は慎重に考えましょう。特に事業の開始にあたり許認可を要するものに関しては、内容が不鮮明だと登記申請の際に承認を得られないケースがあるので要注意です。
本来、登記変更は本店所在地管轄の法務局に申請しますが、支店所在地で登記しなくてはならない場合もあります。支店登記がある場合には商号、本店所在地、同じ管轄の支店所在地を登記します。なお、支店での登記変更費用は9,000円かかります。
定款と登記簿謄本の違い
定款と登記簿謄本は、どちらも会社を運営する上で重要です。
定款とは、会社を設立する際に「こういったルールで運営します」と定める会社における憲法的な存在です。事業を進めるにあたり、会社としての方向性に迷った時に立ち返る基準書とも言えます。
一方、登記簿謄本は法務局が発行する公的書類です。会社の基本データをまとめた書類と不動産情報に関する書類の2種類があり、社会保険の手続きや金融機関で融資を受ける際に使います。
どちらも会社の基本情報を網羅している書類ですが、2つの主な違いは、定款は各会社で作成して公証役場で認証を受けますが、登記簿謄本は法務局で発行される書類だという点です。社内の方向性を明確に示すものが定款、公的な手続きに使用する証明書は登記簿謄本と覚えておきましょう。
定款変更は会社の実態に応じて行いましょう
定款の内容は多岐にわたるため、変更手続きも内容に応じた対応を行います。取締役会(役員や監査役)の変更でも、人数の増減や任期の延長には定款変更が必要です。
変更事項が複数あると、定款変更の手続きに時間と労力がかかってしまうケースが考えられます。そのため変更登記の手続きなども考慮し、早めにスケジュールを組んで取り組みましょう。また原始定款を作成する際には、なるべく変更が生じないよう柔軟に対応できる文言で記載するようにしましょう。