嘱託社員とは?契約社員との違いや給与などの労働条件を解説

今の記事では、嘱託について解説していきます。高年齢者雇用安定法の改正により、2025年4月から企業は従業員に対して65歳までの雇用を確保することが完全義務化されます。
65歳未満を定年とする会社においても、定年退職後に継続した就業を望む従業員に対しては全員を雇用する必要があります。そのような中で定年後の働き方として注目を集めているのが嘱託社員という雇用形態です。
本記事では、嘱託社員と正社員の雇用形態や待遇の違い、嘱託社員を雇用する場合のメリット・デメリット、注意点について解説していきます。
嘱託社員の定義
まず、嘱託社員の定義と正社員やパートとの違いについてまとめていきます。
嘱託社員とは?
嘱託社員とは、有期雇用契約による雇用形態を指します。法的に明確な定義はなく、アルバイトやパートと同様、雇用期間の定めのある非正規雇用のひとつです。
定年後にも一定のスキルや知識をもつ従業員を継続して雇用できる嘱託社員は、人材不足に悩む企業にとって注目されている雇用形態です。
(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「契約社員の人事管理と就業実態に関する研究」)
嘱託社員とほかの雇用形態の違い
嘱託社員と正社員やアルバイト、パートは、雇用期間や福利厚生などの労働条件が異なります。正社員と嘱託社員の最大の違いは雇用契約に期間の定めがあるかどうかです。
また、そのほか給与や福利厚生の充実度などの面においても異なります。それぞれの雇用条件を以下にまとめました。
雇用形態 | 契約期間 | 勤務時間 | 給与 | 社会保険 | |
---|---|---|---|---|---|
正社員 | 正規雇用 | 無期 | フルタイム | 月給・年俸 | 加入 |
嘱託社員 | 非正規雇用 | 有期 | フルタイム・短時間 | 月給・時給 | 条件を満たせば加入 |
アルバイト・パート | 非正規雇用 | 有期 | フルタイム・短時間 | 時給 | 条件を満たせば加入 |
派遣 | 非正規雇用 | 有期 | フルタイム・短時間 | 時給 | 条件を満たせば加入 |
業務委託 | 業務委託 | ー | ー | 契約に従う | ー |
嘱託と委託の違い
「嘱託」とは、仕事を依頼するという意味を持つ言葉です。同様の意味合いを持つ言葉として「委託」がありますが、両者の違いは契約内容にあります。具体的には、嘱託の場合は雇用契約、委託の場合は委託契約となります。
つまり、嘱託では上司の指揮命令下に置かれるのに対して、委託では仕事の進め方は自由で裁量の多い働き方が可能です。
また、嘱託の場合には必ずしも特定の技術やノウハウが求められる業務を任せるというわけではなく、定年退職後の再雇用制度としても用いられるという点においても異なります。
企業が嘱託社員を雇用するケース
企業が嘱託社員を雇う目的は2つあります。
- 専門的な知識が求められる業務に従事する場合
- 定年退職後の再雇用制度として活用される場合
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
専門的な知識が求められる業務に従事する場合
嘱託社員を雇う1つ目の目的は、専門性の高い業務や特定のプロジェクトの遂行のためです。
たとえば、早稲田大学のような医療系や技術系の学部がある大学が、医師や技術者、研究者などの特定の知識を持つ人材を募集したい時に用いられます。この場合、プロジェクト期間のみ嘱託社員として働くことが一般的ですが、正社員登用などの制度が用意されているケースも見られます。
嘱託社員は労使の希望に合わせた柔軟な働き方が可能なため、コストを抑えつつ必要なスキルを持つ人材を雇用できるのが魅力です。
定年後の再雇用制度として活用する場合
嘱託社員というと、多くの企業では定年退職後の再雇用を指します。定年退職後に嘱託社員として雇用するケースには、以下の2通りのパターンがあります。
- 自社に在籍していた従業員を再雇用する
- 定年まで他社で働いていた人材を雇用する
定年後の継続雇用については、高年齢者雇用安定法によって65歳までの雇用機会の確保が法的に義務付けられており、希望する従業員全員を雇う必要があります。そのため、特定の技能や知識が求められない業務でも、嘱託社員として雇用することが多いです。
嘱託社員と正社員で異なる労働条件
嘱託社員として働く場合、給与や労働時間、福利厚生などの労働条件は、正社員時代とは異なるケースが多くあります。ここからは、正社員と嘱託社員の労働条件の違いについて詳しく見ていきましょう。
勤務時間
嘱託社員の労働時間は、正社員と比較して短い傾向にあります。厚生労働省による「令和3年有期雇用契約に関する実態調査」によると、嘱託社員を含む有期雇用契約労働者の46.4%が正社員と比較して短いという調査結果が出ています。
一方で、定年退職後の再雇用制度の一環として活用される嘱託社員の場合には、76.9%が正社員と労働時間は変わらないと回答。嘱託社員の労働時間は企業によって異なり、柔軟に決めていることがわかります。
有給休暇
定年後に嘱託社員として再雇用された場合、有給休暇はそのまま引き継がれます。また嘱託社員を新たに雇用する場合も、以下の条件に従って有給休暇を与えることが必須です。
- 6カ月の継続勤務
- 全労働日の8割以上の出勤
再雇用だからといって、新たに6カ月働かないと有給がもらえないわけではありません。雇用形態が変わっても、実際の勤務が続いている場合は、有給休暇の勤続年数についても通算して扱うことになります。
勤続年数と有給休暇の付与日数については以下のとおりです。
週所定労働日数 | 勤続総年数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
付与日数 | 5日以上 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
4日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 | |
3日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 | |
2日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 | |
1日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
なお、継続雇用とならないように定年退職者には1カ月の休暇を取らせるなどの対応は、高年齢者雇用安定法に抵触する恐れがあるので注意が必要です。つまり、定年退職後の再雇用制度として嘱託社員を雇う場合には、必ず有給休暇および勤続年数は継続して計算することとなります。
(参考:鹿児島労働局「年次有給休暇 Q10」)
ボーナス
嘱託社員のボーナスについては企業によって異なりますが、近年の動向では支給するケースが増えてきています。
東京都産業局による「令和5年度 契約社員に関する実態調査」では、令和元年と比較して、嘱託社員を含む契約社員にボーナスを支給している企業は37.6%から46.9%へと増加。
また、過去の判例によると、正社員と嘱託社員で同じ業務内容であっても、嘱託社員にはボーナスが支給されないことに対して、不合理でないとの判決を下されています。
給与
嘱託社員の給与については、正社員よりも低いことが一般的です。厚生労働省の「令和3年有期雇用契約に関する実態調査」によると、嘱託社員を含む有期雇用者の65.3%が正社員よりも低い給与で働いている実態が明らかとなっています。
一方で、定年退職後の仕事内容については、定年前と変わらないとする企業が原則です。これは正社員と比較して業務内容が限られ責任が軽くなるほか、役職手当や等級制度がなくなることによるものと考えられます。
契約期間
嘱託社員の契約期間の上限は原則3年と、労働基準法第14条に定められています。ただし、専門的な業務に従事する場合や定年退職後の再雇用制度として嘱託社員となる場合については1回の契約で最長5年間の雇用契約を締結することが可能です。
しかし、多くの企業では契約の見直しや本人の意志確認のために1年ごとに更新して65歳まで雇用するのが一般的です。なお、2025年4月1日からはすべての事業者について、65歳までの雇用確保が義務付けられており、希望者全員を継続して雇わなければいけないため注意しましょう。
福利厚生
正社員と嘱託社員では、福利厚生に関しても異なるケースが多くあります。具体的には、住宅手当や家族手当、退職金などの福利厚生がないことが一般的です。
嘱託社員の場合、法定内福利である健康保険や厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険への加入はあるものの、全体的な福利厚生の魅力は少なくなる傾向にあります。
給与の減少にくわえて福利厚生が手薄になれば、生活の質が下がりモチベーションが下がる恐れがあるため、企業としては従業員の生活を十分に考慮した制度設計を意識することが必要です。
(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「契約社員の人事管理と就業実態に関する研究」)
嘱託社員を雇用するときの注意
ここからは、嘱託社員を雇用する際の注意点について解説していきます。
同一労働同一賃金の原則
定年後再雇用の場合でも、同一労働同一賃金の原則が適用されます。つまり、定年後再雇用の嘱託社員に正社員と同等の業務を任せる場合には、正社員並みの給与を支払う必要があるということです。
そのため多くの企業では、嘱託社員になる場合には役職を外したり、責任の範囲を減らしたりすることで正社員との業務差を設け、その分給与を低く抑えています。
しかし、給与の減少があまりにも大きい場合には、不合理と判断される恐れがあるため注意が必要です。
そのため、嘱託社員の給与は退職前の70%ほどとするのが一般的です。なお、ここでいう給与とは基本給のことで、役職が外れれば当然役職手当もなくなります。
契約外の業務は依頼できない
正社員は雇用期間や職種、業務内容、所属組織などを企業の裁量で決定できます。一方で契約社員である嘱託社員は、雇用契約で定められた業務以外を担うことはありません。
契約外の業務を任せると契約違反となり、正社員と同じ業務とみなされる可能性があります。その結果、雇い止めが難しくなったり、正社員との賃金差が問題になるリスクも否めません。
特に定年後の再雇用制度として嘱託社員を雇う場合には注意が必要です。スキルや知識があり、長く一緒に働いていたからこそ、つい甘えてしまうといったケースが考えられます。企業は嘱託社員の業務範囲を明確にするだけでなく、嘱託社員の働き方に関する教育を実施し、ともに働く正社員の意識改革につなげていくことが大切です。
就業規則への明記が必須
嘱託社員の労働条件が正社員と異なる場合、就業規則に記載しなければなりません。記載がないと正社員の就業規則が適用される可能性があります。
また、就業規則中に「ただし、嘱託社員については別途〜と定める」のように記載することも可能ですが、雇用区分を明確に分けるためにも嘱託社員用のものを別途作成するのが望ましいでしょう。
その際、嘱託社員用の就業規則には継続雇用の期間や有期雇用契約への変更、更新基準にくわえ、健康基準も含めることがポイントです。なお就業規則を変更、作成した場合、必要書類を労働基準監督署へ届け出る義務があります。
社会保険への加入条件
嘱託社員も原則として、健康保険、介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険に加入することが必要です。ただし、定年後の再雇用制度として嘱託社員となる場合、労働条件によっては保険加入の対象から外れるケースがあります。
社会保険への加入条件の一覧を以下にまとめましたので、参考にしてください。
保険名称 | 加入対象者 | 手続き窓口 |
---|---|---|
厚生年金保険・健康保険 | 1週間の所定労働時間及び1カ月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上の方 | 社会保険事務所・健康保険組合 |
介護保険 | 40歳〜64歳の方(第2号被保険者)65歳以上の方(第1号被保険者) | 第2号被保険者は健康保険組合による自動加入第1号被保険者は市区町村ごとに自動加入 |
雇用保険 | 1週間の所定労働時間が20時間以上31日以上の雇用見込みがある場合 | ハローワーク |
労災保険 | すべての労働者 | 労働基準監督署 |
(参考:日本製鉄健康保険組合「介護保険制度|健保のしくみ」)
嘱託社員を雇う際の注意と対策
嘱託社員は有期雇用労働者ですが、一定の期間を過ぎると期間の定めがない無期転換へと契約を変更する権利が従業員に与えられます。
また、何気なく契約を更新していると、契約が解除できないといった雇い止めが制限されるリスクが生じます。ここからは、嘱託社員を雇う際に注意したいポイントを確認していきましょう。
65歳までの雇用確保は義務
高年齢者雇用安定法によって、日本では65歳までの雇用確保が義務となっており、希望者全員を継続雇用することが必要です。また、65歳以降も70歳までの就業確保が努力義務とされています。
なお就業規則にある解雇・退職事由に該当する場合には、継続雇用を拒否することも可能です。しかし、その場合客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが必要となります。
無期転換ルールと対策
無期転換ルールとは、パートやアルバイト、嘱託社員などの有期雇用契約が通算5年を超えたときは、労働者の申し込みによって、期間の定めのない労働契約に転換できるというルールです。ただし、以下の2つの条件を満たしている場合には、無期転換ルールの適用外にできます。
- 有期雇用特別措置法によって、適切な雇用管理に関する計画書を作成していること
- 都道府県労働局長の認定を受けた事業主であること
適用外となる対象者は定年後、同じ企業またはグループ企業に雇用される有期雇用労働者です。定年退職後、ほかの企業へ再就職した場合には、通常通りに無期転換ルールが適用されます。
(参考:厚生労働省「無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例について (第二種計画認定・変更申請)」)
雇い止めのリスクと対策
嘱託社員などの有期雇用契約を、期間満了とともに終了させることを雇い止めといいます。通常、期間の定めのある契約は期間満了時に終了しますが、「雇い止め制限の法理」によって雇い止めが制限されることがあります。
つまり企業側からすると、有期雇用であるにもかかわらず、期間満了によって契約を終了できなくなるということです。具体的には、以下の場合に雇い止め制限の法理が働きます。
- 何回も反復して更新をしている場合
- これまでに雇い止めの前例がない場合
- 更新を期待させる言動があった場合
労使間での契約時点で更新の話がなかったとしても、直属の上司から契約更新の可能性を示唆するような話があった場合にも、雇い止めに制限が生じる恐れがあるため注意しましょう。企業は雇い止め制限のリスクを抑えるため、契約の締結時点で労働者の希望を確認し、更新の有無や条件を客観的に明確にしておくことが大切です。
嘱託社員のメリット
ここからは、嘱託社員について、企業側と従業員側から見たメリットをそれぞれ解説していきます。
企業側のメリット
嘱託社員を雇うことによって、企業は以下のようなメリットを得られます。
- 高年齢者雇用継続制度への対応が可能
- 専門的なスキルを持つ人材を活用できる
- 人件費のコントロールがしやすい
- フレキシブルな労働条件の設定が可能
嘱託社員は定年退職後の再雇用制度のみならず、特定のプロジェクト遂行に必要なノウハウや技術を持つ人材を雇用するために活用されることがあります。
また、労働条件をフレキシブルに決められるため、人件費を抑えることが可能です。たとえば、弁護士や医師などの資格を持つ人材を、必要な期間だけ雇用する場合などが挙げられます。
従業員側のメリット
嘱託社員として働く従業員側のメリットは以下のとおりです。
- 慣れ親しんだ環境で活躍できる
- 役職が外れ、責任が軽くなる
- 希望に合わせて柔軟な働き方ができる
嘱託社員として再雇用される場合、仕事内容が変わらないケースが多くあり、それまで慣れ親しんだ職場で引き続き活躍できます。また役職者については役職が外れ、責任が軽くなるのも魅力でしょう。
さらに、時短勤務などの希望に合わせた柔軟な働き方が可能なため、ワークライフバランスを重視した働き方が実現できるのもポイントです。
嘱託社員のデメリット
次に、嘱託社員のデメリットについて、雇用主と従業員双方の視点から解説していきます。
企業側のデメリット
嘱託社員を雇う際のデメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 人事管理の煩雑化
- 継続的な人材の確保ができない
- 労働者のモチベーション維持が難しい
嘱託社員を雇う場合、労働条件を個別に決められる一方で、その分人事管理の手間が増えるのはデメリットです。また、嘱託社員は一時的なプロジェクトに登用されることが多く、長期間にわたる人材の確保にはなりません。
さらに再雇用制度として嘱託社員を活用する場合には、それまでの給与や福利厚生とのギャップもあり、従業員のモチベーションを維持することが難しくなりがちです。
従業員側のデメリット
嘱託社員として働くデメリットは以下のとおりです。
- 給与が下がる
- 定年前よりも労働条件が悪くなる
- 契約の更新が確約されるわけではない
嘱託社員は非正規雇用のため、正社員と比較して労働条件が悪くなることはデメリットです。具体的には給与が下がるほか、家賃補助、家族手当やボーナス、退職金といった福利厚生がないケースがあります。
また、嘱託社員は有期雇用労働者であり、契約更新の確約がない点にも注意が必要です。
定年退職後の雇用継続をスムーズにするポイント
定年を迎えたとしても65歳までは仕事を継続できる一方で、嘱託社員になることによる正社員との労働条件の違いは従業員にとってストレス要因となりえます。
嘱託社員になるとそれまでの立場や役職が外れるため、ほかの社員との関わり方にも注意が必要です。また給与も下がることから精神的な不安を抱えるケースもあるでしょう。
ここからは、スムーズに定年退職後の雇用継続を実現するためのポイントについて解説していきます。
キャリアプランを考える機会を事前に与える
定年退職後の再雇用をスムーズに行うためには、50代の社員に対してキャリアプランを考える機会を定期的に提供することが重要です。キャリアプランを考える機会を提供することは、従業員本人の意欲を高めるだけでなく、一緒に働く従業員の仕事のしやすさにも影響を及ぼします。
60歳を迎える際の雇用や待遇の変化に備えた研修も重要です。具体的には、「給与が下がっても生活できる安心感を持たせること」や「これまでのキャリアを振り返り、本当にやりたい仕事を見つけること」がポイントとなります。
また、一般財団法人企業活力研究所の「これからのシニア人材の活躍支援の在り方に関する調査研究報告書」によると、キャリア研修が整備されている企業では「60代社員がいると仕事がしやすい」と感じる割合が高いことが分かっており、自身のみならず一緒に働く従業員にとっても効果があるといえるでしょう。
年金受給額が減少するリスクなどの情報を提供する
嘱託社員として給与が大幅に減少すると、雇用保険から「高年齢雇用継続給付」が支給されます。「高年齢雇用継続給付」とは以下の条件を満たした場合に、給与の最高15%に相当する額が支給される制度です。
- 雇用保険の加入期間が5年以上
- 60歳〜65歳の加入者
- 給与が60歳到達時点の75%未満となった場合
特に注意が必要なのは、嘱託社員で給与が大幅に下がるために年金の受給を前倒しにしているケースで、「高年齢雇用継続給付」と給与、年金の合計が一定額(令和6年度は50万円)を超えると、「老齢厚生年金」の一部が支給停止になる可能性があります。
また、年金の受給を前倒しにせず、65歳から受け取ることを選択しても、「在職老齢年金」によって、給与と年金の合計が支給停止調整額である50万円を超えると、超えた額の2分の1の老齢厚生年金が停止となります。
注意点を理解したうえで嘱託社員に働いてもらおう
今回は、嘱託社員の雇用形態や正社員との違いをはじめ、嘱託社員を活用するメリット・デメリットについて解説してきました。
嘱託社員の契約内容は労使間で決められ、柔軟な労働契約を締結できるのが魅力な一方で、無期転換ルールや雇い止め制限のリスクなど、注意すべき点があります。また労働条件の悪化によるモチベーションの低下や雇用の不安定さなどのデメリットも見逃せません。
高年齢者雇用安定法によって、65歳までの雇用確保の義務化と70歳までの就業機会の確保が努力義務とされており、今後さらに高年齢者の活躍が期待されています。企業としては、定年後もスムーズに仕事ができるよう、定年を迎える前から従業員に対してキャリア形成や年金などの教育を施して準備させておくことが重要です。