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契約書などに氏名を書く「署名」とはどのようなものなのでしょうか。また、署名と同じように契約者の名前を表す「記名」とは、法的効力という点でどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは署名や記名が持つ法的効力を、契約書の持つ役割も踏まえて解説します。
「署名」とは、自分で書き記した名前のことをいい、自署とも呼ばれます。これに対して「記名」は自分で書くのではなく、ゴム印を使って押された名前や印刷された名前、第三者が書いた契約者本人の氏名が該当します。
署名:本人が自筆で書いた氏名、自署
記名:ゴム印や印刷による氏名や、第三者が書いた契約者本人の氏名
契約書への「署名」は法的効力がありますが、印字された名前や第三者が書いた契約者本人の氏名である「記名」だけでは法的効力はありません。この理由を知るには、まず契約について知っておく必要があります。
最初に覚えておきたいのが「契約」という行為についてです。契約は口頭でも成立するため、実は契約書といった書面が必ずしも要るわけではありません。しかし口頭だけの契約では、どのような条件で契約したのか、あとになって調べることができず、当事者の記憶を頼りにするしかありません。もちろん「そんな契約はしていない」と主張する人が出てきて、大きなトラブルに発展することも考えられます。
そこで、契約内容を書面として残し、当事者同士が契約したという事実を確認するための書類「契約書」が必要となるのです。
この契約書は、契約後にトラブルがあった時に、証拠として扱われます。その契約を本当に当事者たちが行ったのかを契約書によって判断するのです。それでは本当に当事者である本人たちが契約したのか、その判断はどのように行うのでしょうか。その答えは民事訴訟法にあります。民事訴訟法228条4項には、次のように定められています。
(文書の成立)
引用元:民事訴訟法 | e-Gov法令検索
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。
「真正に成立したものと推定する」とありますが、これは契約が正しく成立したことが推定できる(推定効)、すなわち正しい契約がなされたと認められるという意味です。
この規定により、契約書といった私文書の中に、本人の署名か、本人の意思に基づく押印があれば、法的効力を持ちます。したがって、署名は法的効力を持ちますが、記名だけの場合には法的効力を持たないのです。
民事訴訟法228条第4項で定められている「代理人」は、契約を行う本人が、その契約を第三者に委任して行うことを想定して書かれています。例えば弁護士などに契約の代行を依頼するといった場合です。
委任された代理人が契約を代行する場合、署名は代理人本人の氏名となり法的効力を持ちます。しかし、そのまま代理人本人が署名したのでは、代理人が契約者となってしまいますから、契約書以外に契約者本人が確かに代理人に契約を委任したことを証明する「代理委任状」や、委任状を兼ねた契約書「代理契約書」を使って契約する必要があります。
それでは契約書に署名を行った場合、押印はしなくても良いのでしょうか。民事訴訟法228条4項にあるように、署名がある場合、押印は不要です。署名が本人のものであるかは、最終的に筆跡鑑定により、第三者が書いた氏名(記名)は自署でないことが証明できるからです。
しかし署名に加えて押印を行う(署名捺印)ほうが、より信用度が優れているとされるため、契約書によっては署名に加え、押印を求めているものもあります。
「捺印」と「押印」はよく似た言葉ですが、実は「署名捺印」を省略したのが「捺印」、「記名押印」を省略したのが「押印」とされています。本記事では便宜的に「印鑑を押すこと」を「押印」と表現しています。
署名や押印を行うことについて、信用度という観点で比べてみると、次のようになります。まず署名に加えて押印(捺印)を行うことが最も信用度に優れています。次に信用度が優れているのは単体の署名です。記名は第三者が簡単に行えてしまうため、単体では法的効力は持ちません。このため、記名に加えて押印する(記名押印)ことで法的効力を持ちます。
契約は口頭でも成立しますが、トラブルを防止するために契約書を交わします。この契約書に法的効力を持たせるために行うのが、署名や押印です。
契約書は、自筆の氏名である署名を行うことで法的効力を持つのです。署名があれば押印は原則不要ですが、より信用度を持たせたいなら、押印も行って捺印(署名捺印)にするのが良いでしょう。また、記名は印字やゴム印、第三者が書いた契約者本人の氏名であるため、単体では法的効力を持ちません。本人の意志による押印を行うことで、はじめて法的効力を持ちます。
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