日本では過失責任主義が採られており、責任を追及するためには、「帰責事由」が必要とされます。
2020年に施行された改正民法(債権法)では、債務不履行について帰責性の考え方が変わったと言われています。今回は、帰責性をテーマに、民法における帰責性の取り扱いがどのように変わったのかについて解説します。
目次
帰責性とは
帰責性とは、「責めに帰すべき事由」を略したものです。責めに帰すべき事由というのは、「故意・過失または信義則上これと同視すべき事由」と解されています。例えば、「借りたお金を返済期限が過ぎても返済しない」「借りたお金の半分しか返済しない」といったいわゆる債務不履行の場合に債務者が意図的に履行しない場合や不注意によって履行しない場合は、帰責事由があるとされます。これまでは、帰責事由があることが損害賠償請求や契約解除の要件とされていました。
民法(債権法)改正での損害賠償請求の変更点
債権者が債務者に対して損害賠償を請求するためには、債務者に帰責事由があることが必要とされています。しかし、帰責事由の定義は厳格に解されており、余程のことがない限り帰責事由がないとは判断されません。帰責事由がないとされる具体例としては、戦争や大災害が挙げられます。例えば、りんご10箱を届けるという約束をしていても、届ける約束の日の2日前に震災クラスの大災害が起こり、物流が寸断され、仕入れすらできなかったような場合には、債務不履行になったとしても責任を追及することはできないということです。このように、帰責性がないと判断されることは極めて限定的です。
ただ、民法(債権法)改正によって、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法第415条)については、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文言が追加されました(同条第1項ただし書き)。そのため、帰責事由は、個々の取引関係に即して、契約の目的、契約に至った経緯などから個別具体的に、かつ社会通念からも考慮して判断されるようになりました。どの程度、帰責性の判断に影響するかは今後の判例の蓄積を待つしかありませんが、以前よりは柔軟に解釈される可能性があります。
民法(債権法)改正での契約解除の変更点
「契約解除」についても民法(債権法)改正で大きく変わりました。改正点としては以下の2点です。
①債務者の帰責事由要件の廃止
②態様による分類から解除権発生の要件による分類への変更
債務者の帰責事由要件の廃止
改正前の民法では、債務不履行による契約解除をするためには、債務者による帰責事由が必要とされていました。旧民法は、解除について、債務不履行をした債務者に対する責任追及手段であると解していたからです。しかし、契約の解除というのは、債権者を給付の受けることのできない契約の拘束から解放することを目的としているのであり、債務者の帰責性を要求することは解除の制度趣旨に反するとの批判がありました。そこで、改正民法では、債務者の帰責性を不要としました(民法第543条)。
態様による分類から解除権発生の要件による分類への変更
改正前民法では、以下のような分類がされていました。
①履行遅滞等による解除(旧民法第541条)
②定期行為の履行遅滞による解除(旧民法第542条)
③履行不能による解除(旧民法543条)
しかし、改正民法では以下のように整理されました。
①催告による解除(民法第541条)
②催告によらない解除(民法第542条)
【①の催告による解除が認められる要件】
- 相当の期間を定めて相手に催告
- 期間内に履行がないこと
- 債務不履行の内容が軽微でないこと
【②の催告によらない解除が認められる要件】
- 債務の全部が履行不能であること
- 債務者が履行を拒絶する意思を明確にしていること
- 一部履行不能の場合に残りの履行では目的を達成できないとき
- 特定の日時に履行されなければ意味が無い債務が履行されないとき
- 履行される見込みがないことが明らかであるとき
まとめ
今回は、民法(債権法)改正によって、帰責性の取り扱いがどのように変わったのかについて解説しました。
これまで日本では、過失責任主義のもと、帰責性がある場合に限って責任追及ができるとの考え方に立ってきました。しかし、契約不履行に基づく損害賠償請求では、単に故意・過失の有無で判断するのではなく、個々の取引関係に照らして判断するよう変更されました。また、契約解除では、帰責性の要件自体を廃止して契約の拘束から解放することが容易になりました。
これらの改正は、判例や学説の積み重ねを反映したものであり、複雑化した現代社会に対応するために行われました。その意味では、改正されたからと言って、企業が急な対応を迫られるというわけではありませんが、今後は新しい民法の条文を基に契約書の文面が作成されるようになりますから、これまでと少し違った印象を受けるかもしれません。