
事業譲渡契約書に必要な条項は何?
契約書の作成から締結までの正しい手順やプロセスは?

契約書の準備に時間がかかってしまい、事業譲渡のスケジュールに影響が出そう…。
事業譲渡契約書の作成には専門的な知識が必要です。記載すべき項目が漏れていたり、不利な条項が含まれていたりすると、トラブルに発展してしまいます。契約締結までには双方の入念な確認や法務部門・顧問弁護士によるチェックも欠かせないでしょう。
この記事では、事業譲渡契約書について以下の内容を解説します。
- 事業譲渡契約書の重要性
- 事業譲渡契約書に記載すべき必須条項
- 事業譲渡契約書のひな形(テンプレート)
- 失敗しない!事業譲渡契約書作成のステップと注意点
- 事業譲渡契約の締結後に必要な手続きは?
- 事業譲渡契約書に必要な印紙税
従来の紙の契約書による締結方法では、関係者間での書類のやり取りに時間がかかってしまいます。特に、遠隔地にいる関係者との調整が難しいという点が大きな課題です。
「電子印鑑GMOサイン」のような電子契約サービスを活用すれば、事業譲渡契約書の作成から締結までをスムーズに進められます。電子署名やタイムスタンプの付与により、紙の契約書と同等の法的証拠力を持たせることも可能です。
GMOサインにはフリープランがあり、月間5通までの電子契約が無料で行えます。印刷代や郵送費はもちろん、電子契約であれば収入印紙を貼り付ける必要もないため、コスト削減にもつながるでしょう。
事業譲渡という重要な場面だからこそ、迅速な契約締結方法を選ぶことが重要です。事業譲渡契約書の作成後は、電子契約の利用を検討してみてください。
事業譲渡契約書とは?重要性を解説
事業譲渡契約書について、定義や締結しなかった際のリスクなどについて把握しきれていない方もいるでしょう。まずは事業譲渡契約書の意味や締結する目的、重要性について解説していきます。
事業譲渡契約書の定義と目的
事業譲渡契約書は、特定の企業が別の企業へ事業を譲渡する際に締結する契約書です。実際に譲渡される事業・資産内容や従業員の待遇、損害賠償請求などの項目が記載されています。
事業譲渡契約書を作成する目的は、契約の内容を明確にしてのちのトラブルを回避することです。
- 売り手側が買い手側にどの事業をどの金額で譲渡するのか
- 契約時にどのような項目を遵守すべきなのか
これらを明確にしておけば、万が一トラブルが起きた場合も、契約書に基づいて冷静に対応することが可能となります。
また、契約書で競業避止義務を明文化しておけば、譲渡後も買い手側は安心して事業を開始できます。会社法で定められた期間は20年間ですが、特約を設けることで競業避止義務の期間を30年まで延長することや短縮することも可能です。
(参照:会社法|e-Gov法令検索)
事業譲渡契約書がないとどうなる?リスクと重要性
民法によると、契約は締結を申し入れる意思表示が承諾された場合に成立します。そのため、たとえ口頭であっても事業譲渡を行うことは可能です。
(契約の成立と方式)
引用|民法|e-Gov法令検索
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
しかし、事業譲渡契約書を作成しなかった場合は、売り手側と買い手側で意見の衝突が発生した際に、より大きなトラブルに発展する可能性があります。たとえば、契約が不履行だった場合に損害賠償請求がスムーズに行えないケースや譲渡すべき事業の内容が曖昧で、紛争につながることがあるので注意が必要です。
ほかにも、トラブルの要因になる項目として、譲渡の金額や従業員の引き継ぎなどが挙げられます。事業譲渡では当事者や譲渡する内容などを事前に明確にすることが大切なので、必ず契約書を作成することをおすすめします。
事業譲渡契約で承継されるもの・されないもの
事業譲渡契約を締結する際に承継されるものの例は以下のとおりです。
- 有形資産(土地・建物・機械・設備・在庫など)
- 無形資産(知的財産権・営業秘密・顧客リストなど)
- 売掛金・債権
- 買掛金・債務
- 従業員の雇用契約・地位
雇用契約を譲渡する場合は、元の企業との契約を終了させて、次の企業に転籍するための転籍同意書を作成します。従業員に説明を行い同意を得る必要があるので、承継する場合は適切に対応を進めましょう。
また、取引先契約や不動産の賃貸契約を承継する場合も、同様に相手方から同意を得る必要があります。このように、契約において同意を得られなかったものについては承継されません。
- 不採算部門
- 許認可
- 契約の相手方から同意が得られなかった取引先契約
- 不動産賃貸契約(賃借人変更の同意が得られなかった場合)
当事者同士の協議や関係先との調整のうえで、どの事業が対象となるのかを具体的に契約書に記載しておきましょう。
事業譲渡契約書に記載すべき必須条項
事業譲渡契約書を作成するには、以下のような必須項目を盛り込みます。
それぞれの項目について解説するので、何を契約書に盛り込むべきなのか確認していきましょう。
譲渡の基本合意
契約書には、事業契約を締結するにあたっての基本合意を記載します。売り手側は承継対象事業を譲渡すること、買い手側はその譲渡を受け入れることについて明記しましょう。
後述する事業譲渡の対象物や対価、期日、従業員の取り扱いなどについて、当事者双方が納得して合意したことを明記することが大切です。前文で契約の背景を説明することもありますが、法的拘束力を持った条項としての記述は、本文で明確に行うことが推奨されます。
【記載例】
第1条 (事業譲渡)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
甲は、本契約に定める条項に従い、承継対象事業を乙に譲渡し、乙はこれを譲り受ける(以下「本事業譲渡」という。)。
譲渡対象資産・負債の特定
契約書内では、実際に譲渡する対象資産や負債の特定についても記載します。譲渡する資産は、事業に関連した不動産や家具、顧客情報などが挙げられます。あわせて、売掛金や買掛金などの負債についても明記しましょう。
なお、対象資産や負債については、契約書内ではなく別紙で項目を用意するケースが多く見られます。事業に関する財産をまとめて譲渡する際には、契約書内で「本事業にかかる一切の財産」などと包括的に記載することもあります。
【記載例】
第3条 (承継対象財産)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
1 本事業譲渡により、甲は乙に対し、クロージング日をもって、(i)承継対象事業に属する別紙1に記載の資産(以下「承継対象資産」という。)を譲渡するものとし、(ii)承継対象事業に関して甲が締結している別紙2に記載の第三者との間の契約(修正、変更、付随契約、特約等を含む。以下「承継対象契約」という。)における契約上の甲の地位の一切を移転するものとする。なお、別紙1及び2に記載された以外の資産又は契約を、本事業譲渡に伴い譲渡する場合、その価額等については甲乙が協議の上で決定するものとする。
2 本事業譲渡により、乙は、クロージング日をもって、承継対象事業に関し甲が負担する別紙3に記載の債務(以下「承継対象債務」といい、承継対象資産、承継対象契約及び承継対象債務を総称して「承継対象財産」という。)を免責的に引き受けるものとし、甲及び乙は、かかる債務の引受けにつき必要な手続(当該債務の引受けに対する当該債務の債権者からの承諾の取得を含む。)を相互に協力の上、行うものとする。なお、甲及び乙は、乙が承継対象債務以外のいかなる債務も承継しないことを確認する。
譲渡価額と支払方法・時期
譲渡する事業の価額について、金額を詳細に記載します。買い手側の支払い方法についてもまとめておきましょう。後でトラブルにつながらないように、振込手数料の負担についても記載しておくと安心です。
譲渡事業が立ち上げ段階の場合や将来性に不安がある場合は、アーンアウト条項を設けることもあります。アーンアウト条項は、譲渡後の一定期間で事業が特定の目標や条件を達成した際に、追加の対価を支払う仕組みのことです。契約書に記載する場合は、具体的な業績指標や評価期間などについても明記しておいてください。
【記載例】
第6条 (譲渡代金)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
1 承継対象事業の譲渡の対価(以下「譲渡代金」という。)は、金○○円(消費税及び地方消費税を別途支払うものとする。)とする。
2 乙は、譲渡代金をクロージング日までに、甲が別途指定する銀行口座に振込送金する方法により、甲に支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
譲渡実行日と前提条件
譲渡を実行する日についても明確に記載します。契約書に記載する日時は、和暦と西暦のどちらでも問題ありませんが、ほかの日付と表記を統一することがおすすめです。なお、契約書内では譲渡実行日を「クロージング日」と記載することがあります。
また、譲渡実行日とあわせて以下のような前提条件を記載することもあります。
必要に応じて内容を調整しましょう。前提条件の項目が満たされない限りは、譲渡が実施されることはありません。
【記載例】
第2条 (クロージング日)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
本事業譲渡を行う日(以下「クロージング日」という。)は、○○年○○月○○日とする。ただし、手続上の都合等により必要があるときは、甲乙協議のうえクロージング日を変更することができる。
表明保証
表明保証は、特定時点の事実が真実であることを契約当事者が表明し、保証することです。
譲渡する財産に虚偽の内容が含まれていた場合には、表明保証への違反として補償を請求することが可能です。また、契約解除などのペナルティが課せられることもあります。
買い手と売り手双方にとって、リスクを軽減するために重要な項目なので、事業譲渡契約や株式譲渡契約を締結する際には記載することが大切です。
【記載例】
第10条 (表明及び保証)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
1 甲による表明及び保証
甲は、乙に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙4-1(甲の表明保証事項)に掲げる各事項が真実かつ正確であることを表明及び保証する。
2 乙による表明及び保証
乙は、甲に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙4-2(乙の表明保証事項)に記載された各事項が真実かつ正確であることを表明及び保証する。
競業避止義務
事業譲渡では、買い手の保護を目的として競業避止義務も契約書に定めます。なお、会社法においても譲渡後の20年間は競業避止義務が定められているため、契約書に記載していなくても売り手側は規定を守る義務が発生します。
ただし、お互いの認識を明確にするためにも、契約書には具体的な期間を明記しておくことがおすすめです。また、期間を最大30年まで延長したい場合や、規定の期間よりも短く設定したい場合には、契約書にその旨を記載しておきましょう。
【記載例】
第13条 (競業避止義務)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
甲は、クロージング日以後○年間は、乙が承継する承継対象事業と競合する事業を自ら行わず、また他人をして行わせないものとする。
従業員の処遇
事業譲渡を行う際は、その事業に携わっていた従業員の処遇についても協議する必要があります。従業員が買い手側の企業に転籍する場合には、その旨を契約書に記載しましょう。
従業員が転籍するにあたっては、適用する労働条件も定めておくことが大切です。譲渡企業と同様の労働条件を提案するケースや能力を加味して新たな労働条件を設けることもあります。場合によっては、譲渡後一定の期間は譲渡企業の労働条件を採用し、改めて詳しい条件を話しあうケースもあるでしょう。
契約書内では、そのような取り決めについても明記しておくことが大切です。
【記載例】
第5条 (従業員の取扱い)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
1 甲は、承継対象事業に従事している甲の従業員を、乙の従業員として転籍させるものとし、詳細については甲乙別途協議の上決定するものとする。
2 甲は、クロージング日に、前項により乙に転籍する従業員に対し、クロージング日までに発生する賃金・退職金債務その他甲との労働契約に基づき又はこれに付帯して発生した一切の債務を履行し、乙は同債務を承継しないものとする。
契約解除条項
譲渡前に特定の問題や違反が生じた場合、お互いの合意のもとに契約解除を行えるよう、条項を設けておきます。双方にとって不利益を被らないようにするために重要な項目なので、具体的な条件を契約書に記載しておいてください。
たとえば、天災地変による資産や経営状態の変動、契約に定めた義務への違反などを明記するケースが一般的です。
譲渡を行う際は、やむを得ない事情で期日までに条件を満たせないこともあります。契約解除だけでなく、状況にあわせて譲渡日の変更ができることも契約書に記載しておくことをおすすめします。
【記載例】
第15条 (事業譲渡条件の変更及び本契約の解除)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
本契約締結の日からクロージング日までの間において、以下のいずれかの事由が甲又は乙に生じた場合は、他方当事者は、クロージング日までの間に限り本契約を解除することができる。ただし、甲及び乙は、解除を行うに際しては事前に協議を行うものとする。また、甲及び乙は、本契約の解除に代えて、協議の上、本契約を変更することができる。
① 天災地変その他の事由により、甲又は乙の資産状態、経営状態に重大な変動が生じた場合。
② 本契約に定める甲又は乙の義務に重大な違反が存する場合。
③ 甲が、通常の業務の範囲を超えて、承継対象事業の価値を減少させ、又は本事業譲渡の実行を困難にするおそれのある行為を新たに行った場合(ただし、甲乙間にて合意の上行う場合を除く。)。
④ その他本事業譲渡の実行に重大な支障となる事態(第14条の前提条件不充足を含む。)又は本事業譲渡を困難にする事態が生じている場合。
秘密保持義務
秘密保持義務は、これまでに蓄積した顧客情報や技術などの秘密情報を守り、不利益を回避するために定められます。契約書内では、企業にとって重要な情報を不正利用したり、外部に漏らしたりしてはいけない旨を明記しておきましょう。
事業譲渡では、売り手側の経営企画や資金繰り状況など、多くの重要情報を取り扱います。情報漏えいを防ぐために、何が秘密情報に該当するのかや開示が可能な範囲などについても定めておくことが大切です。
【記載例】
第18条 (秘密保持義務)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
1 甲及び乙は、本契約締結日から○年間、(i)本契約の検討又は交渉に関連して相手方から開示を受けた情報、(ii)本契約の締結の事実並びに本契約の存在及び内容、並びに(iii)本契約に係る交渉の経緯及び内容に関する事実(以下「秘密情報」と総称する。)を、相手方の事前の書面による承諾なくして第三者に対して開示してはならず、また、本契約の目的以外の目的で使用してはならない。ただし、上記(i)の秘密情報のうち、以下の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報に該当しない。
① 開示を受けた時点において、既に公知の情報
② 開示を受けた時点において、情報受領者が既に正当に保有していた情報
③ 開示を受けた後に、情報受領者の責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
④ 開示を受けた後に、情報受領者が正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく正当に入手した情報
⑤ 情報受領者が秘密情報を利用することなく独自に開発した情報
2 甲及び乙は、前項の規定にかかわらず、以下の各号のいずれかに該当する場合には、秘密情報を第三者に開示することができる。
① 自己の役員及び従業員並びに弁護士、公認会計士、税理士、司法書士及びフィナンシャル・アドバイザーその他のアドバイザーに対し、本契約に基づく取引のために合理的に必要とされる範囲内で秘密情報を開示する場合。
ただし、開示を受ける者が少なくとも本条に定める秘密保持義務と同様の秘密保持義務を法令又は契約に基づき負担する場合に限るものとし、かかる義務の違反については、その違反した者に対して秘密情報を開示した当事者が自ら責任を負う。
② 法令等の規定に基づき、裁判所、政府、規制当局、所轄官庁その他これらに準じる公的機関・団体(事業承継・引継ぎ支援センターを含む。)等により秘密情報の開示を要求又は要請される場合に、合理的に必要な範囲内で当該秘密情報を開示する場合。なお、かかる場合、相手方に対し、かかる開示の内容を事前に(それが法令等上困難である場合は、開示後可能な限り速やかに)通知しなければならない。
準拠法・合意管轄
契約書内では、その契約の解釈や適用にあたって基準となる準拠法についても記載します。特に、国際的な取引の場合は、契約書内で準拠法を明記することが大切です。
合意管轄は、当事者間でトラブルが発生した際にどの裁判所で裁判を行うのか、合意のうえ定めるものです。万が一の場合に備えて、どの裁判所を管轄として設定するのかしっかり話し合うことが大切です。企業の所在地から遠い裁判所の場合、交通費や移動の手間がかかってしまうため注意しましょう。
【記載例】
第21条 (準拠法・管轄)
引用:(参考資料 7)各種契約書等サンプル 【本文 35ページ以下】|経済産業省
1 本契約は、日本法に準拠し、これに従って解釈される。
2 本契約に関する一切の紛争(調停を含む。)については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
その他、状況に応じて検討すべき条項
契約書内では、ほかにも状況に応じて以下のような条項を記載することがあります。
- 許認可の引継ぎに関する条項
- 不動産に関する条項
- 知的財産権に関する条項
許認可とは、特定の事業を行う際に必要となる手続きのことで、事業譲渡を行う際は原則として買い手側が新たに取得する必要があります。契約締結後は速やかに認可を取得することや、手続きに必要な費用の取り扱いなどについて契約書に記載しておくことが推奨されます。
不動産に関する条項としては、所在地、地番、地積・床面積、登記事項証明書の写しなど、不動産に関する詳しい情報を記載します。物件が賃貸借契約の場合は、引き継ぎについても記載する必要があります。賃貸借契約上の地位移転について、賃貸人の承諾取得義務や承諾が得られなかった場合の解除権、承諾取得不能時の損害賠償責任の所在などを明確に定めることが重要です。
特許権や商標権などの知的財産権は承継する対象から除外されることが多いですが、対象となる場合にはその内容を具体的に記載しましょう。
事業譲渡契約書のひな形(テンプレート)
事業譲渡契約書を作成する際は、ひな形を参考にすることで時間や人的コストを削減できます。ここからは、事業譲渡契約書のひな形や利用時に確認すべき項目などについて解説します。それぞれ確認していきましょう。
事業譲渡契約書のひな形(Wordで利用可)
以下は、事業譲渡契約で利用できるひな形です。「事業譲渡契約書に記載すべき必須条項」で解説したような基本的な内容が含まれているので、Wordなどにコピーして使用してください。
事業譲渡契約書
株式会社〇〇(以下「甲」という。)と株式会社△△(以下「乙」という。)は、甲が営む以下に定める事業に関して、これを乙に譲渡することに合意し、以下のとおり事業譲渡契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(譲渡の基本合意)
甲は、自らが営む〇〇事業(以下「本件事業」という。)を、その資産および関連する権利義務とともに乙に譲渡し、乙はこれを譲り受けることに合意する。第2条(譲渡対象資産および負債)
本契約において譲渡の対象となる資産は、以下に掲げるとおりとする。
(1) 本件事業に使用される機械、設備、什器備品等の有形資産
(2) 本件事業に係る在庫商品・原材料等の棚卸資産
(3) 顧客情報、営業ノウハウ、商標その他の無形資産
(4) 本件事業に関連する契約上の地位(別紙一覧に記載されたものに限る)乙が引き受ける負債は、別紙負債一覧表に記載されたものに限る。
第3条(譲渡価格および支払条件)
甲および乙は、本件事業の譲渡対価を金〇〇〇万円(消費税別)と定める。乙は、甲に対し、譲渡価格を以下の条件で支払うものとする。
(1) 支払方法:甲指定の銀行口座への振込
(2) 支払期限:契約締結日から起算して〇営業日以内第4条(譲渡実行日および前提条件)
本件事業の譲渡は、令和XX年〇月〇日(以下「譲渡実行日」という。)に実行されるものとする。譲渡実行は、以下の各項目が履行されたことを条件とする。
(1) 関係官庁または関係取引先から必要な承諾または通知手続の完了
(2) 両当事者による本契約上の義務の履行第5条(表明保証)
各当事者は、以下の事項を相手方に対し、契約締結時点において真実かつ正確であることを表明し保証する。
(1) 自己の設立および存続が適法であり、本契約を有効に締結する権限を有していること
(2) 本契約の履行が、他の契約・法令に違反しないこと
(3) 甲が譲渡対象資産に対して正当な権利を有し、第三者の権利侵害が存在しないこと第6条(競業避止義務)
甲は、譲渡実行日から起算して〇年間、本件事業と同一または類似の事業を、日本国内において、直接的または間接的に行わないものとする。第7条(従業員の取扱い)
甲は、本件事業に従事していた従業員の乙への移籍について、必要な手続および協力を行う。乙は、当該従業員の雇用条件について、原則として従前と同等の条件を維持するよう努める。
第8条(契約解除)
以下のいずれかの事由が発生した場合、相手方は本契約を解除することができる。
(1) 本契約に重大な違反があったとき
(2) 支払停止、破産、会社更生または民事再生の申し立てがあったとき契約が解除された場合、既に履行された債務の返還または損害賠償については、協議により定める。
第9条(秘密保持)
当事者は、本契約の内容およびその履行に関連して知り得た相手方の営業上・技術上の秘密情報を、第三者に開示または漏洩してはならない。なお、法令に基づく開示義務がある場合を除く。第10条(準拠法および管轄)
本契約の成立、効力、履行および解釈については、日本法を準拠法とし、本契約に関する一切の紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。本契約の成立を証するため、本書を2通作成し、甲および乙が各1通を保有するものとし、各当事者が記名押印の上、これを締結する。
令和XX年〇月〇日
【甲】
所在地:〒〇〇〇-〇〇〇〇 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
会社名:株式会社〇〇
代表者:代表取締役 〇〇〇〇(印)【乙】
所在地:〒△△△-△△△△ △△県△△市△△町△丁目△番△号
会社名:株式会社△△
代表者:代表取締役 △△△△(印)
ひな形利用時に必ず確認・調整すべき項目
事業譲渡契約書のひな形を利用する際には、以下の項目が条件にあっているのか確認し、適宜調整する必要があります。
- 契約当事者の企業名や所在地などの情報
- 譲渡対象資産や負債
- 譲渡価格や支払条件
- 譲渡実行日や前提条件
- 競業避止義務の期間
- 従業員の取り扱い
- 契約解除や変更の条件
- 秘密保持情報の内容や適用期間
- 準拠法や合意管轄
ひな形は、あくまでも契約で求められる一般的な情報をまとめたものです。具体的な契約内容や条件は企業によって異なるので、自社の状況にあうように調整を行いましょう。
ひな形をそのまま利用してしまうと、本来必要な情報が欠けているケースや逆に不必要な情報が盛り込まれていることもあります。間違いが見つかると契約書の作り直しをする手間が発生したり、法的証拠力が弱くなったりすることもあるので注意が必要です。
事業譲渡契約書は弁護士など専門家への相談がおすすめ
事業譲渡契約書では、譲渡する対象や秘密情報など重要な項目が多数存在します。正しく契約書を作成するには、民法や会社法などさまざまな法律についての知識も求められるので、一から作成するのはハードルが高いでしょう。
致命的なミスや不備を避けるためには、弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。契約書の作成を依頼する場合は数万円から数十万円ほどの費用がかかりますが、競業避止義務や解除条件などの複雑な条項についても確認してもらえるため、不利な契約を回避しやすくなります。
失敗しない!事業譲渡契約書作成のステップと注意点
事業譲渡契約書を作成する際のステップは以下のとおりです。
基本合意書の締結
基本合意書は、交渉段階で合意した内容をまとめる覚書です。事業譲渡の範囲や対価などをある程度すりあわせた段階で作成します。
基本合意の内容をもとに詳細な条件などを議論し、最終的な契約を締結するので、細部まで作り込むことが大切です。
デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスは、投資対象の企業価値やリスクなどを調査することです。譲渡される事業の実態について外部から判断することが難しいため、買い手側が契約前に調査を行います。
法務や知財など、それぞれの分野ごとに専門家に依頼するケースが多く見られます。
契約書のドラフト作成・交渉
事業譲渡の基本合意やデューデリジェンスを実施したら、契約書のドラフト作成や交渉を進めます。譲渡する日付や対象財産など、双方が納得できるように協議を重ねましょう。
契約書のひな形を利用する場合には、弁護士などの専門家からレビューを受けることをおすすめします。
関係各所への説明・承認(株主総会など)
事業の譲渡を行うにあたっては、不動産の賃借人や株主などの関係者に対して説明を行い、承認を得る必要があります。株主への通知や公告は、事業譲渡の効力発生日20日前までに行われければいけないので注意してください。
原則として、事業全部や重要事業の譲渡を行う場合には、株主総会の決議が必要です。なお、少数株主の場合には、個別に通知を行うこともあります。
契約書締結(電子契約も可能)
契約の内容がまとまり、各所への説明についても完了したら契約を締結します。
スピーディーな対応が求められる契約では、電子契約の利用がおすすめです。電子契約は、封入や返送作業などの手間を削減できるので契約をスムーズに締結できます。また、印紙税やインク代など、コストを抑えられる点もメリットです。
GMOサインでは、無料で電子契約を行えるフリープランも用意しています。フリープランでも有料プランと同様に法的証拠力を持つ電子契約が可能です。はじめて電子契約を導入する方はぜひお試しください。
\ \ クレジットカード登録不要 //
契約書作成・レビュー時のチェックポイント
事業譲渡契約書を作成するときのチェックポイントは以下の4つです。適切な契約書を作成できるように、それぞれのポイントを把握しておきましょう。
譲渡対象は正確かつ網羅的に特定されているか?
事業譲渡契約書を作成する際は、どのような対象を譲渡するのか具体的に特定することが大切です。売り手側と買い手側で認識に違いがあると、締結後に大きなトラブルに発展してしまいます。譲渡する事業の名称だけでなく、概要についてもまとめておきましょう。
また、譲渡される具体的な資産や負債なども明記します。不動産や機械などの有形資産だけでなく、顧客や特許といった無形資産についても記載が必要です。譲渡対象は事業譲渡契約書の根幹を担う部分なので、決定した内容を漏れなく記載しておいてください。
自社にとって不利な表明保証はないか?
事業譲渡を行う際は、財務や法務などの重要な資料を買い手側に公開します。契約書内では、開示した内容や説明したことが真実であることを表明保証しますが、買い手側にとって不利な内容になっているケースもあるので注意が必要です。
契約締結後に偽装が判明した場合には、買い手側が多大な損失を被る可能性があります。損害賠償請求や契約解除に発展することもあるので、事前に十分な確認を行いましょう。
譲渡実行の前提条件は明確か?
譲渡契約書では、譲渡を行うための前提条件を設けておくとトラブルを回避しやすくなります。たとえば、以下のような前提条件が考えられます。
- 規定された表明保証が正確であること
- 債権者や株主総会からの承認を受けていること
- 譲渡日までに達成すべき義務を遵守していること
- キーパーソンとなる従業員の転籍について同意を得ていること
- 重要な資産の取り扱いに問題が生じていないこと
前提条件が守られていない場合には、譲渡を実行する義務が発生しません。そのため、当事者の双方が安心して契約を進めるために重要な項目です。
リスク分担は適切か?
事業契約の締結時には、売り手側と買い手側のリスク分担にも注意しなければいけません。特に、偶発債務の取り扱いが適切なのか確認しておく必要があります。
偶発債務とは、現状ではまだ発生していないものの、一定の条件が達成されることで将来的に起こり得る債務のことです。例として、訴訟によって発生する損害賠償債務や未払い賃金などが挙げられます。
また、事業譲渡では貸借対照表に記載がない簿外債務の取り扱いにも注意が必要です。事業譲渡は包括承継の株式譲渡とは異なり、譲渡対象を選別できるので、簿外債務を承継するリスクを回避できます。買い手側は、偶発債務や簿外債務などを調査し、引き継ぎたくない部分については事前に除外しておいてください。
\\ こちらの記事もおすすめ //

事業譲渡契約の締結後に必要な手続きは?
事業譲渡契約を締結した後は、以下のようにさまざまな手続きが必要です。
必要な手続き | 概要 |
株主総会決議 | ・すべての事業や一部の重要な事業を譲渡する場合、会社法第467条に基づいて株主総会決議を行う |
資産の引き渡し手続き | ・設備や什器、備品の引渡し ・在庫や商品などの引渡し ・不動産が含まれる場合は登記変更 |
契約関係の移転 | ・労働者への説明と同意取得(原則として個別同意が必要) ・雇用契約書や労働条件通知書の再締結 ・社会保険や雇用保険、労災保険などの手続き |
債権・債務の引継ぎ | ・債権譲渡通知(必要に応じて債務者への通知または承諾) ・債務引受に関する債権者の承諾 |
許認可の承継または再取得 | ・飲食業や医療、運送業など許認可が必要な事業の場合 ・再取得または個別承継の可否を確認 |
知的財産権の移転手続き | ・商標や著作権、特許権などの譲渡手続き ・登録手続き(特許庁など) |
顧客・取引先・関係先への案内 | ・名義変更や運営者変更の案内状送付 ・サービス提供や請求書発行方法の変更案内 |
金融機関への通知・対応 | ・口座の名義変更または新規開設 ・融資契約がある場合は金融機関との協議 |
税務・会計関連の手続き | ・税務署への届出(法人の異動や廃業届など) ・消費税の申告や所得税の調整対応 |
必要な手続きは、具体的な契約内容によって異なります。自社が行うべき手続きについて把握して、契約書にも詳細を盛り込みましょう。
事業譲渡契約書と印紙税について
事業譲渡契約書を作成する際、印紙税の要否を疑問に思っている人もいるでしょう。ここからは、事業譲渡契約書と印紙税について解説していきます。
事業譲渡契約書に印紙税は必要?課税対象となるケースと金額
結論からお伝えすると、事業譲渡契約書には収入印紙が必要です。事業譲渡契約書は課税文書である「第1号文書」に該当します。1万円未満は非課税ですが、契約金額が1万円を超える場合に印紙税が必要となるため、事業譲渡契約のほとんどが条件に当てはまるでしょう。
具体的な印紙税額は、契約金額によって異なります。以下の表で印紙税額をご確認ください。
【第1号文書の契約金額】 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
なお、基本的に印紙税は作成側の負担となりますが、公平性を保つために譲渡側と譲受側で折半することもあります。どのように負担するのかについても、当事者間で定めておくことをおすすめします。
電子契約なら印紙税を節約できる
印紙税額は契約金額によって変わります。事業譲渡の場合は契約金額が高くなるケースが多いため、印紙税による負担も大きくなるでしょう。
ただし、印紙税は紙の文書にのみ課されるため、電子契約にはかかりません。契約書の内容が同一であっても、紙の契約書は課税文書に該当する一方で、電子契約書は電磁的記録として取り扱われるため、印紙税の課税対象とはならないのです。
そのため、契約にかかる費用を抑えたい方には、電子契約の導入をおすすめします。電子契約では、印紙税が不要になるだけでなく、インク代や切手代なども削減できます。文書を印刷する手間や郵送する必要もなくなるので、業務の効率化を図れるでしょう。
法律に準拠した電子署名や認定タイムスタンプの付与が可能なため、重要な事業譲渡契約書にも安心してご利用いただけます。導入を検討される方は、GMOサイン公式サイトから資料請求やお試しフリープランをご利用ください。
事業譲渡契約書に関するよくある質問
事業譲渡には契約書が必須?
民法上、契約は口頭でも成立するので契約書は必須ではありません。ただし、合意があった事実や譲渡の対象を文書に残しておかないと、後でトラブルに発展する可能性があります。企業の経営に関わる重要な契約なので、必ず契約書を作成することをおすすめします。
事業譲渡契約とは何?
事業譲渡契約は、特定の事業やそれに関わる資産・負債を相手方に譲渡する契約です。
売り手側は後継者問題を解決できたり、より重要な事業に集中しやすくなったりするメリットがあります。買い手側は、新しい事業を低コストで始められることや譲渡によって欲しい人材を獲得できることなどがメリットです。
事業譲渡契約書と株式譲渡契約書との違いは?
事業譲渡契約書と株式譲渡契約書は、譲渡の対象が異なります。事業譲渡は事業のすべてか一部を譲渡するのに対し、株式譲渡では会社の株式を取引します。
また、事業譲渡の場合は対象を選別できますが、株式譲渡では、企業の資産や負債などをまとめて譲渡することになります。
事業譲渡契約書はどちらが作成するの?
事業譲渡契約書は、どちらが作成しても問題ありません。どちらかがドラフトを用意し、両社で協議を重ねながら、協力して契約書を作成することが一般的です。自社に有利な条件を盛り込むだけでなく、双方が納得できる内容にすることが重要です。
事業譲渡契約書の対象資産は?
事業譲渡契約書に記載される対象資産は、不動産・設備などの有形資産から、特許・顧客情報といった無形資産までさまざまです。双方の合意によって決まるため、契約によって内容は異なります。契約書を作成する際は具体的な項目を記載することが大切です。
譲渡契約書の目的は?
譲渡契約書を作成するのは、契約内容を明確にして締結後のトラブルを避けるためです。契約書内では、当事者間の合意や譲渡の対象物、秘密保持情報の定義などを記載します。
万が一、契約に関するトラブルや紛争があった場合には、この契約書の内容が重要な証拠となるので、必ず用意しておきましょう。
事業譲渡契約書の締結には電子契約がおすすめ
事業譲渡契約は、双方の企業の経営に関わる重要な契約です。譲渡を行う際には、のちのトラブルを回避するためにも、合意した内容や条件を事業譲渡契約書にまとめておく必要があります。
これから契約書を作成する場合は、本記事で紹介したテンプレートや記載事項を参考にしてみてください。必要な項目は状況によって異なるため、適宜調整をくわえたり、専門家のアドバイスを受けたりしながら作成を進めましょう。
事業譲渡契約書を作成した後は、電子契約を利用することがおすすめです。事業譲渡は複雑な手続きや協議が必要なので、短くても3カ月以上の期間がかかりますが、電子契約であれば、時間や場所を問わずに契約書の確認・締結ができるので、時間の短縮が可能です。また、高額な印紙税やインク代などのコストも抑えられます。
テンプレート登録機能や使いやすい操作画面などが評価されており、導入企業数が350万社(※)を突破していることも特徴です。電子契約を試してみたい方は、ぜひGMOサインのフリープランをご利用ください。
\\ 最短③分でアカウント作成完了 //
※. 導入企業数は「電子印鑑GMOサイン(OEM商材含む)」を利用した事業者数(企業または個人)。1事業者内のユーザーが複数利用している場合は1カウントとする 。 自社調べ(2023年11月)