定年が近くなると、60歳からの働き方を意識しはじめる方は多いのではないでしょうか?
これまで勤めてきた企業で再雇用となる場合、手取りは驚くほど減ります。60歳からの働き方を考えることは、人生最後の転機ともいえます。人生100年時代、新たなスタートを切る方も多くいます。また60歳は、退職金にくわえて年金や社会保険など、働き方以外にも悩みが増える時期。
悩んでいるのはあなただけではありません!ぜひ、本記事を参考にして楽しい老後の生活を組み立ててください。
日本における60歳からの働き方事情
60からの働き方とは、どのようなものなのでしょうか? まずはじめに、日本における60歳以上の方の労働市場に目を向けてみましょう。
日本では多くの高齢者が仕事をしていますが、実際どの程度の割合が働いていて、どんな職種が多いのか、また気になる平均年収についても解説していきます。
60歳以降も就業に意欲的

内閣府が令和6年に実施した高齢社会白書によると、男性は60歳〜64歳で84.4%、65歳〜69歳で43.1%が仕事に就いています。女性についても60歳〜64歳が63.8%、65歳〜69歳で43.1%という高水準です。
多くの職場で定年を迎える60歳以降も、多くの方が働いている現状が見えてきます。また、現在収入のある60歳以上の方に対するアンケートでは、90%近い方が働き続ける意欲を示しました。
60歳からの働き方で人気が高い仕事

次に、産業別の就業者に目を向けてみると、65歳以上の就業者数は、卸売業・小売業が132万人、医療・福祉が107万人、サービス業が104万人、農業は99万人となっています。
また、最も増加傾向にあるのが医療・福祉で、10年前と比較して63万人も増えています。医療・福祉の仕事が多いのは、社会の高齢化に伴う介護職の人手不足のほか、人のために働きたいと思っている高齢者が多くいるためでしょう。
また、60歳以降の習い事にパソコンが入ってきているのは注目です。ITスキルのある人材は、場所を選ぶこと無く働けるため、今のうちにスキルを身に着けておくことは、60歳からの働き方を考えるうえでも大切です。
60歳以降平均年収はかなり下がる

65歳以上の高齢者世帯の平均所得金額は、318.3万円。その他の世帯の平均所得が669.5万円なので、比較すると約半分となり、平均所得についてはどの世代よりも低いのが現状です。
なお、住民税や所得税、社会保険料などを差し引いた可処分所得については、65歳以上の世帯は226万円と、そのほかの世帯の327.7万円と比較して約70%ほどにとどまっています。
高齢者になると、税金や社会保険料などの負担は減るものの、収入は低い水準であることがわかります。この数値を見ても、60歳からの働き方についてはしっかりと考えておいたほうがよさそうです。
60歳からの働き方は非正規雇用が最も多い
60歳からの働き方で最も多いのが非正規雇用です。令和6年の高齢社会白書によると、非正規雇用の割合は男性55歳〜59歳で11.2%ですが、60歳〜64歳になると44.4%、65歳〜69歳で67.6%と60歳を境に急激に上昇しています。
60歳を迎える前に確認しておきたいポイント
60歳を迎える方は何かと不安が多いものです。年金や社会保険、失業手当、退職金など、お金のことばかりで頭が痛くなることもあるでしょう。
そこで、ここからは60歳になるまでに考えておきたいお金の話をまとめていきます。
年金をもらうタイミング
年金をもらうタイミングを考えるのは悩ましいもの。原則として、65歳からもらえる年金ですが、前倒しにして60歳から受け取ることや、65歳以降に受け取ることも選べます。前倒しにすると毎月の支給額が減り、後ろ倒しにすると毎月の支給額が増える仕組みです。
平均寿命は男性で81.25歳、女性は87.32歳です。この平均寿命まで生きると仮定すると、60歳以降生活費が足りないのであれば前倒し、心身ともに健康でお金に困窮していなければ65歳、81歳を過ぎても元気でいる自信があるなら70歳で受け取るのがお得になります。
なお、女性の場合は男性よりも6年ほど平均寿命が長いため、後ろ倒しにしたほうがお得になる可能性が高いでしょう。
退職金のもらい方
退職金の受け取り方は、一括で受け取る一時金と分割でもらう年金、または一時金と年金を組み合わせて受け取る3パターンがあります。退職金には、所得税・住民税・社会保険料がかかり、受け取り方によってその負担が変わります。
最も手取りが多くなるのが一時金です。一時金で受け取る場合は、税法上退職所得とみなされ、退職金控除の利用にくわえ、社会保険料が免除されます。
退職金控除の金額は、勤続年数によって以下のように変動します。
- 20年以下なら勤続年数×40万円
- 20年を超えた分については年70万円ずつ加算
40年勤めた会社なら、2,200万円の控除を受けられるという計算です。また、退職金が2,200万円を超えたとしても、退職所得となるのは超えた分の半分で済みます。
退職金を分割でもらう場合、退職金は雑所得となるため、支払われるたびに源泉徴収によって一定の税額が引かれます。
社会保険・健康保険はどうなる?
定年を迎えて退職し、継続雇用制度によって同じ会社で働く場合は、社会保険の資格を喪失すると同時に再度取得することになります。
喪失と取得が同時に起こることに関して、同じ会社なのだから不要なのではと思うかもしれませんが、標準報酬月額を再雇用後の給与に対応させるために必要な手続きです。そうすることで、社会保険料の負担を減らすことにつながります。
定年による退職で失業保険がもらえる条件
定年退職後、これまで働いた会社ではなく、転職して再就職を目指す場合、一定の条件を満たしていれば失業保険をもらうことができます。失業保険をもらうためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 65歳になる前であること
- 退職日以前の2年間のうち被保険者期間が12カ月あること
- 現在失業中であること
また、定年退職は会社都合となりますが、定年退職の給付日数は自己都合退職の場合と同じく150日が限度です。しかし、給付制限が2カ月の自己都合退職とは異なり、定年退職には給付制限がないため、退職後ハローワークに申請するとすぐに失業保険を受け取ることができます。
失業保険の給付日数は90日〜150日、金額は退職前の給与に一定の給付率をかけた金額となります。また、日額は毎年上限が見直され、2024年度は7,420円が上限に設定されています。
(参考:雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ|厚生労働省)
高年齢求職者給付金がもらえる条件
65歳の誕生日の前日以降に退職した場合、高年齢求職者給付金が受け取れます。高年齢求職者給付金を受け取れるのは、以下の条件を満たす方です。
- 退職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上あること
- 失業状態であること
なお退職後、家業に専念する方や学校に通う方は就職する意思がないものとみなされるため、高年齢求職者給付金を受けることができません。また、給付日数は被保険者期間が1年未満の場合は30日、1年以上の場合は50日が限度となります。
(参考:離職されたみなさまへ|厚生労働省)
60歳以降の働き方
ここからは、60歳からの働き方について具体的に解説していきます。
これまで働いてきた会社で継続して雇用されるほかにも、転職や独立、アルバイトなど、働き方はさまざま。ぜひ、自分に合った60歳からの働き方を見つけてください。
60歳以降の働き方:①継続雇用
60歳からの働き方で最も多いのが継続雇用です。厚生労働省による令和4年『高年齢者雇用状況等報告』の集計結果によると、「60歳定年企業における定年到達者の動向」では、約87%が継続雇用を希望しています。
また、全ての企業は、令和3年4月施行の改正高年齢者雇用安定法によって、65歳までの雇用確保が義務づけられ、さらに70歳までの就業確保が努力義務となっています。
ただし注意点として、雇用条件が変わるため収入が初任給並みになる可能性があるということが挙げられます。高年齢者雇用安定法では給与や仕事内容などの労働条件については規定されていないため、自分で交渉する必要があります。
60歳以降の働き方:②アルバイト(パート)
アルバイト(パート)は時間的な都合もつきやすく、また家の近くで仕事を探しやすいのが魅力です。
一方で収入は低くなるため、比較的経済的に余裕があり、老後の私生活を優先したい方に向いています。特に体を動かす清掃や警備員は、健康の観点からも人気です。
老後の生活に孤独感を覚える方も多いなか、アルバイトは社会とのつながりを促進してくれるでしょう。
一方で、転職を試みるも正社員雇用の機会がなく、仕方なくアルバイトをするという方もいます。
60歳以降の働き方:③転職
60歳からの働き方を考えるうえで気になるのが年収です。継続雇用の場合、正社員から嘱託社員や契約社員になるため仕事の負担や責任は軽減されますが、収入のギャップを埋めることは難しいでしょう。
まだまだ稼ぎたいという方は、転職という選択肢もあります。しかし、定年退職後の転職活動は厳しい一面もあります。特に一社で長く勤めている場合、マッチングの面で受け入れる側の企業も慎重になりがちだといえます。
また、会社生活で得たスキルによっては、転職が失敗に終わる可能性もあります。転職を検討している方は、退職より前に転職エージェントと繋がりを持っておき、情報を集めておくのが成功の秘訣です。
60歳以降の働き方:④独立
長く企業で勤めていた方には想像しづらいかもしれませんが、60歳からの働き方で独立を選ぶ方も多くいます。
これまで培ってきたスキルやノウハウ、人脈を利用して独立ができる場合があります。実際に、保険会社での経験があるなら保険代理店、飲食業界でのノウハウがあるなら飲食店などで独立を考える方もいるようです。
また、退職金を手にしてフランチャイズオーナーになることも可能です。知識がないままフランチャイズに加盟することはリスクを伴うため、チャレンジする方は情報収集に力を入れておきましょう。
60歳からの仕事の探し方
60歳からの働き方は人それぞれです。自分のペースで働きたい方や、まだまだ現役で働きたい方など、そのニーズも多種多様でしょう。
では、希望の仕事を見つけるには、どのように探せばいいのでしょうか?ここからは、60歳以降の仕事の探し方について解説していきます。
60歳からの仕事の探し方:①ハローワーク
ハローワークとは、厚生労働省が運営する職業紹介機関です。地域密着型の求人が多く、家の近くで仕事を見つけやすいのが魅力です。
また、高齢者向けの求人コーナーが設置されているところもあります。ハローワークでは、求職者の方がスムーズに就職できるよう、求人内容にあわせた履歴書の書き方や面接時のアドバイスを受ける事が可能です。
定年退職後はじめての転職でもしっかりサポートしてくれるうえに、職業訓練の案内も行っており、60歳からの働き方で新たなチャレンジをする方にもおすすめです。
60歳からの仕事の探し方:②シルバー人材センター
シルバー人材センターとは、都道府県知事の指示を受けた公益財団法人のことで、高齢者向けの仕事を紹介しています。原則、市区町村単位に置かれており、相談に訪れやすい環境が整っています。扱っている仕事内容は、草刈や事務などで、短期的かつ簡単な作業のものが中心です。
なお、シルバー人材センターは生きがいを得るための就業を目指しており、月10日ほどの就業で平均月収は3万円〜5万円と低めになっています。60歳からの働き方でしっかり稼ぎたい方には物足りないでしょう。
(参考:シルバー人材センターとは|公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会)
60歳からの仕事の探し方:③転職サイト
転職サイトは自分の希望する条件や職種で求人を探して応募するものです。シニアに特化した転職サイトを選べば、60代の求人も多く見つかるでしょう。転職サイトごとに得意な業界があるため、希望する職種に強い転職サイトを選びましょう。
転職に不安を抱えている方は、コンサルタントがいる転職サイトを選ぶのもよいでしょう。また、シニアに特化した転職サイト以外を利用する場合、書類選考以前に年齢でふるいにかけられてしまうことが多くあります。
60歳からの仕事の探し方:④人材紹介サービス
人材紹介サービスとは、本人のスキルや希望を踏まえたうえで、専任のコンサルタントがあなたにあった求人を紹介してくれるサービスです。
転職サイトは自分で応募するのに対し、人材紹介サービスはコンサルタントが適職を提案してくれるのが特徴です。また、給与や仕事内容などの条件はコンサルタントが交渉してくれるのも魅力だといえます。人手不足の昨今、スキルのある高齢者の再就職に力を入れる人材紹介サービスもあります。
自分の強みを生かしたキャリアや、想像していなかったキャリアの提案を客観的な視点からしてもらえるため、自身に合った仕事を見つけることができるでしょう。
60歳からの働き方は事前準備が大切!給付の申請も忘れずに
60歳からの働き方は、継続雇用や転職、アルバイト、独立など人によってさまざまです。
人生100年時代の現代においては、定年も新たなキャリアのスタートといえます!これまで培ってきたスキルやノウハウを活かすことで、より良い老後を送ることができるでしょう。
一方で、なかなかうまくいかないこともあります。60歳からの働き方を考える際には、仕事のみならず、退職金や年金、失業保険についてもしっかり理解しておくことが大切です。
本記事でご紹介したポイントをおさえ、60歳からの働き方について自分なりの答えを見つけていただければ幸いです。