企業が利益を上げる方法は、売上を増やすことはもちろんですが、予算を抑えることも重要なポイントです。ただ原材料費や仕入原価などの変動費は、社会情勢や景気に大きく影響を受けるため、自社だけでコントロールすることはかんたんではありません。

そこで必要となるのが家賃や広告宣伝費など固定費の見直しです。

なかでも大きな節約となるのが、人件費です。

本記事では、利益向上に欠かせない要素の一つである人件費削減のメリットとデメリットをお伝えします。人件費を削減する際のポイントも解説しますのでぜひ、参考にしてください。

人件費の概要と内訳

人件費とは、一般的にその会社で働くすべての「人」にかかる費用です。

正社員だけではなく、契約社員や派遣社員、あるバイトやパートに支払う賃金や賞与、役員に支払う報酬もすべて人件費に含まれます。

また、賃金・賞与や報酬以外にも社会保険料の会社負担分を含む法定福利費、福利厚生費、退職金、人材研究費、採用費なども人件費です。基本的に会社で働く「人」に対して必要となるあらゆる費用は人件費に含まれると考えてよいでしょう。

人件費は経理上、水道光熱費や地代家賃、広告宣伝費などと同様に固定費として計上されます。固定費は会社の利益に関わらず一定にかかる費用のため、不景気で売上が減少していても増加時と同様に支払う必要のある費用です。

人件費削減を行うメリット

人件費を削減することで、企業はどのようなメリットが得られるのでしょう。ここでは、主なメリットについてお伝えします。

利益減少を抑えられるようになる

人件費を削減すれば、その分が利益となるため、利益減少を抑えられるようになります。人件費は固定費として計上されますから、恒常的な利益減少につながる効果も期待できるでしょう。これは、大きなメリットです。

また、人件費を削減すれば、それに伴い交通費や交際費、水道光熱費のほか、人材育成費の削減にもなり、キャッシュフローが増え、安定した経営が可能となります。

新規事業や既存事業の投資を行えるようになる

人件費の削減により予算に余裕ができれば、余った予算を新規事業創出や既存事業への投資に使えるようになり、事業の成長につなげられるでしょう。

金融機関からの融資を受けやすくなる

人件費削減により財務状況が改善されれば、金融機関からの融資も受けやすくなります。融資を活用することでさらなる成長の機会が増え、利益拡大にも大きな効果が期待できるようになるでしょう。

株価の上昇も期待できるようになる

人件費の削減が実現すれば、売上高に対する人件費の割合が下がり、営業利益アップにつながるため、投資家からの評価も向上します。結果として株式の購入が増え、株価上昇の可能性も高まるでしょう。

人件費を削減することで生じるデメリット

人件費削減はさまざまなメリットが得られるものの、デメリットも少なくありません。そのなかでも大きいのは次の点です。

生産性が低下してしまう可能性が高まる

人件費削減のなかでも、人員整理、いわゆるリストラを実行すると人手不足に陥り、生産性が低下してしまう可能性が高まります。

たとえばこれまで3人で回していた業務を2人回すようになった場合、業務スピードが落ちて生産性が低下し、結果として利益が下がるリスクもあるでしょう。

従業員の負担が増大し離職率が高まるリスクがある

生産性の低下と同時にデメリットとなるのが、従業員の負担増大です。業務に携わる人員が減少すれば、1人にかかる負担が増大し、場合によっては離職のリスクも高まるでしょう。

その結果、さらなる負担の増大、離職の増加といった悪循環が生み出される可能性もあります。

職場環境が悪化してしまう可能性も高まる

これまで自社に貢献してきた人材に対し退職を勧奨したり、早期退職者募集をしたりすれば従業員の間で不安が高まり、職場環境の悪化にもつながるかもしれません。

場合によっては退職してほしくない人材が早期退職してしまい、さらなる生産性低下を招いてしまう可能性も高まるでしょう。

会社の評判低下につながってしまう恐れが生じる

業績が低下し、人件費の削減策を行っていることは、取引先にも必ず伝わります。その結果、取引量を減らされてしまう恐れもあるでしょう。

人件費削減が成功し、利益増加が実現すれば問題ありませんが、うまくいかない場合は金融機関からの融資も受けられなくなるリスクがあります。

さらに、人員削減したことで「人を大切にしない企業」という印象を与えてしまった場合、会社の評判低下が事業拡大や人材獲得にも悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。

人件費削減に失敗しないためのポイント

人件費削減によるデメリットを解消しつつ、うまくメリットを得るためにはいくつかのポイントがあります。なかでも重要となるのは次の点です。

適正な人件費率を算出する

利益が減少している場合、まず人件費を削減できる状況かどうかを検討しなければなりません。人件費が適正であるにも関わらず人件費を削減をした場合、生産性の低下や従業員のモチベーション低下につながるリスクがあります。

人件費が適正かどうかを判断するには、売上や利益に対する人件費の割合を示す人件費率をチェックします。

人件費率を算出する方法は、売上高から見る「売上高人件費率」と売上の総利益から見る「売上総利益人件費率」の2つです。より適正な人件費率を見るには、売上原価を含まない売上総利益人件費率がよいでしょう。算出方法は次のとおりです。

人件費÷売上総利益×100＝売上総利益人件費率（％）

この計算式から自社の適正な人件費を算出し、本当に人件費削減が必要なのかを検討しましょう。

適正な人件費率は一般的には13%前後とされています。

ただ、この数字は企業規模や業種によっても大きく異なります。たとえば飲食・宿泊サービス業であれば35～40%、製造業であれば20%前後、建設業であれば20～30%前後、小売業であれば10～20%前後です。

おおまかに50%を超えていなければ人件費は適正だといえます。

人件費以外の固定費を削減できないか確認する

もし、人件費率が適正な場合は、地代家賃や水道光熱費など他の費用に無駄がないかを確認します。

また、Web会議システムを導入して出張や会議のリモート化を進めることで、交通費や出張宿泊費の削減も可能です。ほかにもOA機器のリース料や広告宣伝費などで削減できないかどうかを検討してみましょう。

人件費を削減する際はまず業務フローの見直しから

人件費を削減せざるをえない状況だとしても、いきなり人員整理をするのではなく、業務フローを見直し、残業代など改善できる点がないか確認しましょう。

あまり重要でない業務でも二重、三重のチェックを必須にしていないか、部署やチームによって人の偏りはないかなどを確認し、無駄があれば改善を行います。

必要最低限のチェック体制にしたり、適材適所を徹底したりすることで残業時間が削減され、人を減らさずとも人件費の削減が可能となるでしょう。

離職率低下策を検討する

と思われるかもしれません。

しかし実際には、離職率の低下は人件費削減にも高い効果が期待できます。

なぜなら、人件費の内訳には人材育成費や採用にかかるコストも含まれるためです。

既存の従業員が高いモチベーションで仕事に取り組めば、残業代削減や生産性向上はもちろん、新たに雇用をするための費用や新人育成の費用もかかりません。

離職率を高める施策として挙げられるものは、職場環境の見直しや適切な評価制度の確立、福利厚生の充実、テレワークや時短勤務といった柔軟な働き方の実現などがあります。

従業員の満足度を向上させることで離職率が低下し、結果として生産性向上をしつつ人件費削減が可能となるでしょう。

必要に応じてツールを導入する

残業代削減には、ツールの活用も欠かせません。確認業務や単純な入力作業、ワークフローなどはツールを導入して自動化させることで、大幅な業務時間の短縮が可能です。

ツールでも可能な業務はツールを活用し、手が空いた従業員を生産性の高い業務に配置すれば、残業代削減に加え生産性向上も実現できます。

アウトソーシングを活用する

すでに人材が不足していて、これ以上従業員の負担を増やせない場合は、アウトソーシングの活用がおすすめです。

経理や総務、かんたんなデータ入力、書類作成といった非コア業務をアウトソーシングに依頼することで、従業員の負担を増やすことなく業務時間の短縮を実現します。その結果、人件費の削減にもつながるでしょう。

また、アウトソーシングの活用は、人が行う業務ながら変動費として計上できるのも大きなポイントです。年間の予算に応じて調整をすることで、これまで以上に財務管理の柔軟性を高め、予算最適化を可能にします。

在籍出向の導入を検討する

人件費削減の手段として、在籍出向の導入もおすすめです。

在籍出向とは、出向元となる企業と出向先となる企業が契約を結び、自社の従業員を出向先企業に一定期間継続して勤務する働き方を指します。

在籍出向の大きな特徴としては、従業員が出向元との雇用関係を維持したまま、出向先企業で働く点があげられます。

出向元企業は人材を失うことなく人件費を削減でき、出向先企業は雇用に予算をかけることなく、人材不足を解消できる点が大きなメリットです。

在籍出向は、もともとはコロナ禍で一時的に事業縮小をせざるを得ない企業の人材を、人材不足に悩んでいる企業が受け入れることで出向元企業の雇用維持を図るための取り組みでした。

しかし、コロナ禍を経た現在でも雇用維持を目的として在籍出向を利用する企業は少なくありません。

産業雇用安定センターでは、企業間のマッチングを無料で行っているため、人件費削減の施策として検討してみることをおすすめします。

人件費削減の施策として注意すべきポイント

人件費削減が実現すれば、利益向上に大きな効果があります。しかし、細心の注意を払わないと高い確率で失敗に終わってしまうリスクもあることを理解しておきましょう。

人件費削減に失敗しないために注意すべきは、安易に賃金や賞与のカットを行わないことです。

人件費削減の施策として安易に賃金や賞与をカットすれば、一時的には人件費が削減されるものの、これまで以上に従業員負担が高まり必要な人材まで離職してしまうかもしれません。

そうなれば新たな人材雇用をするために削減した人件費以上の人件費がかかってしまうでしょう。

人件費を削減する際はまず無駄を省くこと、賃金や賞与をカットしなくても削減につながる施策を検討することが重要です。

人件費削減を成功させるには業務フローの見直しによる無駄の削減がポイント

人件費削減というと人員整理を真っ先に思い浮かべるかもしれません。しかし、人員整理は短期的には削減効果があるものの、長期的にはかえってコスト増になってしまうリスクがあります。

人員整理は他にできることをすべてした後の最終手段であり、まずは業務フローの見直しによる無駄の削減が欠かせません。

人件費削減を実施する上でもっとも注意しなくてはならないのは、いかに従業員のモチベーションを低下させないことです。

従業員のモチベーションが下がると、生産性の低下、離職率の増加などデメリットばかりが生まれてしまうでしょう。

ツールの導入やアウトソーシングの活用、在籍出向の検討など無駄を省くためのあらゆる施策を実施し、従業員のモチベーションを上げつつ人件費の削減を実現させましょう。