公序良俗とは?概要と事例、企業として違反にならないための対策を簡単に解説

社会の一般的な秩序や道徳観念を意味し、民法では契約の有効性を判断する重要な基準である公序良俗(こうじょりょうぞく)は、企業経営においても欠かせない重要な要素の一つです。
しかし、その解釈は時代や状況によって変化するため、経営者や法務担当者にとっては常に注意を払うべき概念といえるでしょう。本記事では、公序良俗の法的意義や具体例、違反した場合の影響などをお伝えしますので企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
公序良俗とは
公序良俗の公序とは「公の秩序」の略語、良俗とは「善良の風俗」の略語で、公序良俗は両方の略語を組みあわせた言葉です。民法第九十条においても「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定められています。
(公序良俗)
(引用:民法|e-Gov法令検索)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
公の秩序での「公」とは国家もしくは社会を指すことから、混乱のない統制された国家、社会、そして善良の風俗とは、社会の一般的な道徳観念という意味です。ただし、それぞれに明確な区別があるわけではありません。公序良俗という一つの単語は、社会的な妥当性、社会のなかで生きていく上で欠かせない常識的なルール、観念などを指します。
また、公序良俗は「公共の福祉に適合しなければならない(民法1条1項)」「権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実の行わなければならない(民法1条2項)」「権利の濫用は、これを許さない(民法1条3項)」などと並び、民法の一般条項の一つで、全法律体系を支配する理念を表しています。
第一編 総則
(引用:民法|e-Gov法令検索)
第一章 通則
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
企業経営における公序良俗の位置付け
企業経営においても、公序良俗は法的なリスクを回避する意味で非常に重要です。法令遵守はもちろん、コンプライアンスの徹底が求められる今、企業の社会的信頼向上に欠かせません。
しかし現在は、男女平等の価値観が浸透し、性別による区別は公序良俗に反する行為と判断されます。常に社会の動きを見つつ、公序良俗に対する意識を刷新していくことが企業経営においても求められているのです。
民法における公序良俗の位置付け
公序良俗は民法においても法律行為に含まれるものです。具体的には、双方合意の契約であっても、その契約内容が公序良俗に反するものであれば、無効になるといったケースが挙げられます。
公序良俗に反する契約の事例
公序良俗に反する契約には、さまざまな状況においての事例が存在します。ここでは、状況別に公序良俗に反する事例を見てみましょう。
企業内外における公序良俗に反する事例
企業内や取引先、顧客との契約においても、公序良俗に反するケースは少なくありません。
性別や人種、年齢などによる差別的な契約
性別や人種、年齢などを理由とした採用、昇進、解雇は、日本国憲法第14条「法の下の平等」の趣旨に反するため、公序良俗違反になりえます。
また、従業員に対して「退職後10年間は自社と同業種もしくは競合する業務に従事してはならない」といった契約を結んだ場合も高い確率で無効です。同様に、店舗運営を行う企業で「退職後、自社の店舗がある場所から半径50km以内で競合となる店舗を開店してはならない」などの契約も無効になる可能性が高いといえます。
競業避止義務契約の期間は、おおむね退職後1年間以内とするのが一般的です。事業内容にもよるものの、5年、10年など長期の競業避止義務期間は無効とされてしまう可能性が高いといえるでしょう。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
(引用:日本国憲法|衆議院)
企業と従業員間の契約に関する事例はほかにもあります。たとえば、ホストクラブやキャバクラなどで従業員に客の飲み代のツケを支払わせる契約、証券会社で客の損失を補填させる契約などです。これらの契約は公序良俗に反する行為として無効になる可能性が高いでしょう。
取引や契約における不正行為に関する事例
下請業者に対し、不当に低い価格で買い叩く行為や一方的に不利な条件を押し付ける行為は、優越的地位の濫用として公序良俗違反となる可能性が大きいです。
具体的には、取引先にだけ契約を解除した場合、売上の50%を違約金として支払うといった行為や10年以上同条件で商品、サービスの提供を義務付けるといった契約が挙げられます。
企業と顧客間の契約における公序良俗に反する事例
企業と顧客との契約では、企業が自社商品を購入した顧客に対し、重要な情報を故意に伝えなかった場合、事実と異なる情報を伝えて契約をした場合なども公序良俗に反すると判断されるリスクがあります。
企業と顧客との契約として、よくある事例として挙げられるのがネズミ講です。確実に毎月20%のリターンが見込める投資商品があると謳って入会金50万円で会員を募り、その会員が新たな会員を勧誘すると紹介料を払うといった形で会員を増やすことがねずみ講の手法となります。
投資以外にも健康食品、高級羽毛布団などを販売し、紹介料目当てに別の人を勧誘したものの、肝心の商品が偽物で価値のない商品であったケースもあります。こうした事例も、公序良俗違反で無効です。
ネズミ講はその仕組み自体が公序良俗に反する行為であるため、販売している商品に価値があるかどうかは関係ありません。ネズミ講で利益を得られるのは、基本的に運営側と初期に会員になったものだけです。下に行けば行くほど利益を得られない仕組みが道徳観念に反するとして、公序良俗違反と判断されます。
ネズミ講以外では、顧客に対し法外な金利でお金を貸し付ける、不当に高額な違約金を定めた契約を交わすといった高利貸しや悪徳商法も、公序良俗違反となる事例の一つです。
企業倫理やコンプライアンスに反する行為の事例
インサイダー取引や談合など会社ぐるみで行う犯罪行為に関わる契約は、当然ながら公序良俗に反する行為であり、契約は無効となります。
また、過去に企業の指示によって不正行為を行った社員に対し、その不正行為をおおやけにしないことへの対価として金銭を支払う契約も、公序良俗に反する行為です。
家庭内や個人的な法律行為での公序良俗に反する事例
企業間や従業員、顧客との間で行われる契約以外でも、公序良俗に反する行為はさまざまな事例があります。そのなかでもおもな事例を見てみましょう。
婚姻秩序や性の道徳の面で公序良俗に反する事例
結婚しているにもかかわらず、配偶者以外の男性もしくは女性と性的関係を持つ契約をする愛人契約は公序良俗に反する行為なので無効です。また、対価を得る目的で性交する行為の契約、いわゆる売春も愛人契約同様、公序良俗に反する契約として無効になります。
ほかにも、愛人関係にある男女のどちらかが相手との関係維持を目的として金品の贈与を行う、もしくは亡くなった際に遺贈するといった行為も公序良俗違反です。
遺贈したお金が愛人に渡るかどうかは別としても、状況によっては公序良俗違反にはならない場合もあると考えましょう。
賭博に関する行為で公序良俗に反する事例
友人同士で自宅や特定の場所に集まり、ポーカーや麻雀、花札などを頻繁かつ高額を賭けて行った場合、社会的秩序を乱す行為として公序良俗違反になる可能性があります。
同様に、プロ野球やJリーグ、相撲などの勝ち負けにお金を賭ける行為も公序良俗違反となる可能性が高いです。
犯罪に関わる行為で公序良俗に反する事例
個人間で金銭貸借契約を結んだ場合、法外な利息を設定すると公序良俗違反となる場合があります。個人間での金銭貸借契約であっても、年109.5%を超える利息での貸し付けは、出資法により罰則の対象です。
また、貸したお金を返してもらうために暴力や脅迫まがいの行為をすることも犯罪行為であり、社会秩序や道徳観念に反するとして公序良俗違反になりかねません。最近よく聞くケースとして、オレオレ詐欺や架空請求、還付金等詐欺といった振込詐欺の受け子として働く契約も犯罪行為であり、公序良俗違反として無効となります。
(参考:「振り込め詐欺」にはどのようなものがあるでしょうか・・・???|金融庁)
逆に犯罪を起こさないことを約束する対価として、金銭の支払いを行うことも公序良俗に反する行為として無効です。たとえば、特定地域の犯罪を防ぐ目的で反社会的勢力に警備を依頼する行為が挙げられます。
(高金利の処罰)
(引用:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律|e-Gov法令検索)
第五条 金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3 前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
公序良俗に反した場合のおもな法的効果
前項で挙げたような公序良俗に反する行為があった場合、基本的には契約した内容は無効です。つまり、契約内容は元から法的な効力はなかったこととなります。
たとえば、重要な情報を故意に伝えなかった、または事実と異なる情報を伝えたことで成立した契約などが該当します。契約が無効になった場合、商品、受けたサービスに支払った金額はすべて返還請求が可能です。
金銭貸借契約で法外な金利を支払った場合も契約は無効となるため、法定金利を超えて支払った分については、返還請求が可能です。そして損害を与えた側は、民法709条により、損害を受けた相手に賠償責任を負う可能性があります。
(不法行為による損害賠償)
(引用:民法|e-Gov法令検索)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
契約の一部のみが無効になるケース
公序良俗に反する行為だったとしても、必ずしもすべての契約が無効になるわけではありません。
たとえば、賃貸契約で家主の要求があればただちに明け渡すといった特約は基本的に不当契約です。そのため、賃貸契約のこの部分のみが無効となり、残りの部分は有効となる「一部無効の法理」と判断される可能性があります。
法的効果以外の影響
企業が公序良俗に反する行為を行った場合、法的効果が発生する以外にも社会的信用の失墜リスクが高まります。
取引先から取引を中止されてしまったり、セミナーや展示会参加を断られたりするリスクが高まり、採用人事にも大きな影響が及びます。最終的には顧客離れが進み、経営的にも大きな損失を生みかねません。
公序良俗の適用における注意点
企業として、公序良俗に反しないためにはいくつか注意すべき点があります。ここでは、その中でもおもな注意点を確認しましょう。
健全な労働環境の整備
企業として公序良俗違反を避けるには、自社の従業員に対して健全かつ適正な労働環境の整備が欠かせません。労働基準法を把握し、過度な残業の強制、賃金未払い、社内でのハラスメント放置などを避け、従業員が快適な働ける環境を構築することが重要です。
ほかにも、性別や年齢、国籍、障害の有無などで差別的な採用、待遇をしないことも必要になります。企業側が社会的規範に則った行動を取るという意識が従業員にも浸透すれば、企業として公序良俗に反する行為が生まれるリスクも低減されるでしょう。
従業員に対するコンプライアンス研修の徹底
企業が健全な労働環境を整備することで、公序良俗違反防止に努めるのと同時に、従業員に対する研修の徹底も必須です。公序良俗について従業員に理解を深め、法令遵守はもちろん、法律で明確に禁止されていなくても、社会一般の道徳観念や倫理観から逸脱するような行動を慎むよう指導します。
取引先や顧客との適正な取引の維持
取引先や顧客に対し、常に適正な取引を行っているか、優越的な立場で相対していないかを確認する必要があります。取引先に対し著しく不利な内容の契約をしていないか、過度な要求を含めた契約を迫っていないよう注意しなければなりません。
新たな取引先と契約する際には、取引先が反社会的勢力との関係がないかを確認するための仕組みづくりも重要です。自社が直接的に関わっていないとしても、取引先が関係している場合、自社の信用失墜につながるリスクが高まります。契約前の確認を徹底し、不正行為や犯罪組織とつながりがないかを確認してください。
顧客に対しては、商品やサービスを実態以上によく見せる、根拠のない表現で顧客に誤解を与える広告を出すなどの行為をしていないかは、しっかりと確認しましょう。
常に最新の社会情勢を意識して公序良俗違反を防止しよう
公序良俗とは、社会の一般的な秩序や道徳観念を意味するものです。しかし、明確な範囲が定められているわけではないため、違反しているのか、そうでないのかを判断するのはかんたんではありません。
基本的には、法律の遵守や社会情勢に照らしあわせた問題がない行動・行為を心がければ公序良俗違反につながることはないでしょう。
もちろん、社会秩序や道徳観念は人により考え、意識が異なるケースも珍しくはありません。特に企業においては、社内規範として明確なルールを策定し、定期的に研修を実施することで従業員に周知していくことが求められます。