「役所での手続きに時間がかかりすぎる」「何度も同じ情報を書類に書かなければならない」。こうした経験はありませんか? このような課題を国全体で解決しようとする取り組みが「デジタル・ガバメント(デジガバ)」です。実はこの動き、行政の効率化だけでなく、皆さまのビジネスにおける契約業務や生産性にも大きく関わってきます。
本記事では、デジタル・ガバメントの基本から、私たちの生活や仕事がどう変わるのかまで、わかりやすく解説します。
デジタル・ガバメント(デジガバ)とは
デジタル・ガバメント(デジガバ)とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。
デジガバの概要
デジタル・ガバメント(デジガバ)とは、コンピューターやネットワークなどのデジタル技術を行政のさまざまな分野に活用し、あらゆる行政サービスをより簡単に利用できるようにした状態を指す言葉です。
日本では、行政におけるデジタル化は遅れています。しかし、継続的な経済発展を続け、社会で浮かび上がる問題を解決するためには行政もデジタル化に対応できる体制に変革しなければなりません。
そこで、日本政府は2017年5月に「デジタル・ガバメント推進方針」を発表し、積極的に行政のデジタル化を進める姿勢を明確にしました。
デジガバを推進する背景
日本では、従来からある紙の書類による手続きや管理が根強く残っており、欧米諸外国に比べ、行政のデジタル化・オンライン化は遅れをとっています。
しかし、デジタル化が遅れることで行政の生産性が低下すると十分な行政サービスを受けられなくなるだけでなく、国際競争力の低下を招く恐れがあります。なぜなら、デジタル化が進んでいなければ、あらゆる業務の効率が低下するからです。
また、日本では急速な少子高齢化が進んでおり、人口が減少しています。特に、地方では人口減少が加速すると予測されており、税収不足による財源の不足、人口減少による公務員の不足が進むと考えられます。
そのため、デジタル化を推進し、業務効率を高めなければ、地域によってはこれまでのような行政サービスを受けられなくなる恐れがあるのです。
デジガバの目的
デジガバ(デジタル・ガバメント)の目的は、行政サービスの手続きをデジタル化、オンライン化することだけではありません。政府は、行政サービスの利用者が、簡単に、すぐに利用できる、便利な行政サービスを提供することを目標としています。
そのため、誰でも利用できる行政サービスの仕組みや業務フローを作り、デジガバ(デジタル・ガバメント)を実現したうえで、未来社会の理想の姿「Society5.0」を目指すとしているのです。
「Society5.0」は、持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せを実現できる社会であるとしています。
日本におけるデジタル・ガバメント推進の動き
デジタル・ガバメントの実現に向け、日本ではさまざまな取り組みが行われています。
日本におけるデジガバ実現のための取り組みの歴史
日本では、2001年に5年以内に世界最先端のIT国家を目指すとした「e-japan戦略」を策定し、行政内部の電子化やネットワークインフラの整備などが開始されました。
その後、デジタル化・オンライン化を目指すさまざまな取り組みが推進され、2017年には「デジタル・ガバメント推進方針」が策定されました。続いて、2018年1月には「デジタル・ガバメント実行計画」を策定、2019年12月にはデジタル手続法が施行され、デジタル・ガバメントの実現に向けた動きが急速に進められています。
2020年12月には改訂版「デジタル・ガバメント実行計画」が閣議決定され、自治体が重点的に取り組むべき事項を示した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」も公表されています。
(参考:デジタルで支える暮らしと経済|総務省)
デジタル・ガバメント実行計画とは
デジタル・ガバメント実行計画は、デジタル・ガバメント推進方針を具体化するための計画であり、次の社会を実現するための実行計画として示されたものです。
- 必要なサービスが、時間と場所を問わず、最適な形で受けられる社会
- 官民を問わず、データやサービスが有機的に連携し、新たなイノベーションを創発する社会
デジタル・ガバメント実行計画は2020年に改定されましたが、2021年12月に廃止になり、現在では「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が公表されています(毎年改定)。
デジタル社会の実現に向けた重点計画とは
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、2021年9月に設立されたデジタル庁によって公表された、デジタル社会の実現に向け、政府や各府省庁が取り組む施策を明記した計画です。
デジタル社会で目指す6つの姿
デジタル社会の実現に向けた重点計画では、デジタル社会が目指す姿として次の6つを目標に掲げています。
- デジタル化による成長戦略
社会全体の生産性・デジタル競争力を底上げし、成長していく持続可能な社会を目指す。 - 医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化
データ連携基盤の構築等を進め、安全・安心が確保された社会の実現を目指す。 - デジタル化による地域の活性化
地域の魅力が向上し、持続可能性が確保された社会の実現を目指す。 - 誰一人取り残されないデジタル社会
誰もが日常的にデジタル化の恩恵を享受できるデジタル社会の実現を目指す。 - デジタル人材の育成・確保
デジタル人材が育成・確保されるデジタル社会を実現する。 - DFFTの推進をはじめとする国際戦略
国境を越えた信頼性ある自由なデータ流通ができる社会の実現を目指す。
デジタル社会の実現に向けた重点計画は毎年改定されています。2025年は6月13日に閣議決定されデジタル庁のホームページ上で公表されています。

国の行政手続きオンライン化の3原則
また、重点計画の中では、国の行政手続きのオンライン化における3原則を示しています。
これは、デジタル・ガバメント実行計画の中でも示されていたデジタル化3原則と呼ばれる方針に準じたものであり、行政手続きのデジタル化の原則とも言える方針です。
- デジタル第一原則(デジタルファースト)
個々の手続きをする際や何らかのサービスを受ける際、用紙に記入するといった手続きをなくし、すべてデジタルのみで完結させるというものです。
例:これまで紙とハンコが必要だった補助金の申請が、PCやスマートフォンで完結するようになります。 - 届出一度きり原則(ワンスオンリー)
一度提出した情報は、何度も提出する必要がないようにするという方針です。
例:法人設立時に法務局へ提出した会社情報を、税務署や年金事務所へ再度提出する必要がなくなります。 - 手続一か所原則(コネクテッド・ワンストップ)
行政のみならず、民間サービスを含む手続きが必要な場合、民間を含めたサービスを受ける場合であっても手続きをワンストップで実現するという方針です。
例:引越しの際、「マイナポータル」を使えば、転出届の提出から電気・ガス・水道などの住所変更手続きまで一度に行えます。
サービス設計12箇条と業務改革
デジタル・ガバメント実行計画では、デジタル化の推進にあたり、利用者の利便性を高める行政サービスの設計が必要であるとし、次のサービス設計12箇条を明示しました。
- 利用者のニーズから出発する
- 事実を詳細に把握する
- エンドツーエンドで考える
- 全ての関係者に気を配る
- サービスはシンプルにする
- デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
- 利用者の日常体験に溶け込む
- 自分で作りすぎない
- オープンにサービスを作る
- 何度も繰り返す
- 一遍にやらず、一貫してやる
- .情報システムではなく、サービスを作る
デジタル社会の実現に向けた重点計画においても、このサービス設計12箇条に基づき、業務改革に取り組むと明言しています。
また「一遍にやらず、一貫してやる」に示されるよう、社会の課題に合わせながら、ときには柔軟に対応し、理想の実現を目指し続けるべきだという考えを読み取ることができるでしょう。
デジタル社会の実現に向けた重点課題
デジタル社会の実現に向け、重点計画では取り組むべき課題として次の4つを掲げています。
- 人口減少及び労働力の不足
人口減少と都市部への人口集中により労働力不足が進行すると、公共サービスの維持が難しくなります。デジタル化により、行政手続きの無駄を見直し、効率化を進めることが重要だとしています。 - 産業全体の競争力の低下
デジタル化の進行は、生産性の向上につながるほか、新たなビジネスの創出につながる可能性もあり、デジタル化によって競争力の低下を阻止することも重要な課題です。 - 災害やサイバー攻撃などの脅威
自然災害や環境負荷の増大、感染症の流行などに対してもデジタル技術を活用した課題解決が必要です。また、デジタル社会を持続させるためにはサイバー攻撃に対する対処能力も高めなければなりません。 - 「デジタル化」に対する不安やためらい
高齢者などはデジタルツールの利用に消極的な傾向にあり、デジタル化に適応できない、またはデジタル化を好ましく思わないというケースが発生しています。デジタル・ガバメントやデジタル社会を目指すうえでは、社会のこのような状況も念頭に置く必要があるとしています。
重点課題に対応するために
上にご紹介したデジタル社会を目指すうえでの重点課題に取り組むためには、まずは、デジタル産業基盤の強化を進めなければなりません。また、デジタル化のメリットを実感できる分野を増やし、デジタル化が当たり前となる取り組みを進める必要があるとしています。
デジタル・ガバメントの実現に向けては、国だけが行政手続きのオンライン化を進めても利便性が高まるわけではありません。また、人口減少が続く中、地方自治体が独自にシステム開発をし、独自のシステムを運用するとなると、公共サービスのデジタル化は難しくなります。
そのため、国と地方自治体が共通のシステムを開発・利用することが重要であり、国と地方のデジタル共通基盤の整備と運用に取り組むとしています。
デジタル・ガバメント推進標準ガイドラインとは
デジタル・ガバメントの推進に向け、政府ではデジタル・ガバメントを実行するために必要なガイドラインを策定しています。「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」とは、政府情報システムの整備や管理に必要な手順や各組織の役割などについてのルールを定めたものです。
デジタル社会推進標準ガイドライン群への変更
デジタル・ガバメント推進標準ガイドラインは、デジタル・ガバメント実行計画に基づき策定されたガイドラインです。しかし、デジタル庁の設立に伴い、政府内部のデジタル化だけでなく、社会全体のデジタル化の推進を目指す方向になったことから、デジタル社会推進標準ガイドラインに名称が変更されています。
デジタル・ガバメント推進標準ガイドラインは自治体にも関係
デジタル庁では、デジタル社会の実現のためには、共通したルールの下で関係者が共同することが重要だとしています。また、デジタル・ガバメント実行計画では、情報システムは個別に整備するものでなく、地方自治体との共同利用を推進していくべきと示しています。
したがって、自治体でもデジタル社会推進標準ガイドラインの活用が必要になってくるのです。
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デジタル・ガバメントは理想のデジタル社会の実現に必要
デジタル・ガバメント(デジガバ)とは、デジタル技術を活用して行政サービスの効率を高め、より簡単に行政サービスを提供できる体制を目指す政府による取り組みです。
デジガバの目的は、単に行政内のオンライン化・デジタル化を進めることではありません。少子高齢化による人口減少が進む未来に向け、理想のデジタル社会を実現するためには、社会全体のデジタル化を進める必要があります。
デジタル・ガバメントの推進に関わる国や地方自治体だけでなく、社会全体が共通のルールに則り、それぞれの取り組みを実践していくことが重要です。
このように政府が主導する「脱ハンコ」や「手続きのオンライン化」の流れは、民間企業にとっても無関係ではありません。行政とのやり取りだけでなく、企業間の契約も電子化することで、社会全体の動きに対応し、ビジネスの生産性を飛躍的に向上させることができます。
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