近年、さまざまな新しいものが創作される中で、企業や個人の独自デザインを守ることが大切な課題となっています。商品の形や見た目(意匠)は創作者の大切な財産です。適切に保護されなければ、かんたんに真似されて利益を損なうかもしれません。
そこで本記事では、創作物を守るための「意匠法」とは何か、その目的や意匠権の取得方法、活用法について詳しく解説します。
意匠法とは?
世の中では、日々新しいものが創作されています。しかし、これら創作物のすべてには必ず創作者が存在します。創作者の大切な財産として創作物を保護法律が定められており、それが意匠法です。
たとえば、座っている椅子や手に持っているコップ、身につけている衣服までさまざまです。形ある物のほとんどに意匠権が発生していると認識しておくとよいでしょう。
意匠法の目的
意匠にあたるデザインの創作は、形ある物の美しい外観や、使い勝手の良さを追求する行為です。ただ、こうした創作物と類似したものを他者が真似て制作し、代わりに利益を得るような事態も想定されます。
そのような事態になれば、創作者本人の創作意欲も失われてしまい、産業の発展を阻害するかもしれません。こうした事態を防ぐためにも、創作者の権利を保護するための意匠法が存在しています。これは意匠法の第1条にも記載があります。
(目的)
第一条 この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。
(参考:e-Gov法令検索)
意匠法の要件
実際に意匠登録を受けるためには、出願された意匠が登録できるものであるか審査されます。この審査を通過できなければ、出願が却下されてしまうため、覚えておきましょう。以下の要件がおもな審査基準です。
工業上利用できる
その意匠がどの用途で用いられるのか、形状が視覚的に特定できて同一の物の量産が可能であるのかなど、工業上の利用が可能な意匠かを審査します。
新規性がある
意匠出願時点で、すでに同一のものや類似の意匠が存在しておらず、新規性があるものかを審査します。
創作非容易性がある
文字通り、創作がかんたんでないかを審査します。同業者が誰でも容易に創作できるものの場合は、たとえ新規であっても意匠登録を認められないケースが多いです。ほかが真似できない創作性にあふれた物であれば、意匠の対象としてふさわしいといえます。
意匠登録を受けるにふさわしいものである
公益的にみて、意匠登録を受けるのにふさわしくないものは登録を認められません。
また、他人の業務や作品などと混同するおそれがある意匠などは不登録事由として挙げられており、意匠登録が認められないケースが多いです。
意匠それぞれで出願する
意匠登録は、原則それぞれの意匠ごとで行わなければなりません。ただし、複数の物品からなる意匠の場合、一定の要件を満たすことで、一つの組物の意匠として認められるケースもあります。
複数の物品で構成される内装などを意匠として登録する場合も、要件を満たしていれば一つの意匠として認められます。
先願されておらず同一の意匠がない
新規性がない意匠登録は認められません。そのため、同一物や類似する意匠登録があった場合、先願の意匠登録が優先的に登録されます。同一人物が同日に意匠登録を実施した場合は、本意匠を一つ定めて、その他を関連意匠とみなして登録が可能です。
意匠出願から取得の流れ
意匠出願の登録から取得までの流れがあるため覚えておきましょう。一般的に、これら手続きをすべて終えるのには、半年から一年ほどの期間がかかります。取得を考えている場合は、手続きの流れを理解したうえで、早めに行動することをおすすめします。
先行意匠調査
意匠登録を出願するまえに、先願されている意匠がないかを調査します。前述のとおり、先願された意匠がある場合はそれと同一または類似する意匠登録は認められていません。そのため、意匠登録するにふさわしいかどうかを確認する必要があります。
先行意匠調査を行う場合にはインターネットを使うと便利です。独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報プラットフォームJ-PlatPatを活用すれば、現在登録されている意匠をかんたんに検索できます。
意匠登録出願
調査の結果、先行意匠がないと判断した場合は、意匠登録出願に入ります。手続きには願書や図面・見本などをまとめて提出する必要があるため、出願書類一式の作成は専門的な知識を持っている弁理士に依頼して進めるのが一般的です。
方式審査
意匠登録出願後は、その出願が法令で定める要件を満たしているかの審査に入ります。審査で不備があると判断された場合は出願内容の補正が命じられます。ここで適切な補正ができなければ手続きは却下されるため、慎重に補正を行いましょう。
実体審査
意匠登録を受けられない意匠ではないか、その実体が審査されます。審査において拒絶理由が認められると、拒絶理由通知書が出されます。出願者は補正などの対応で、拒絶の原因を解消できなければ次のステップに進めません。
登録査定
実体審査を終えて拒絶理由がないと判断されたら、登録査定に進みます。
意匠権設定登録
登録査定後、登録査定謄本が送達された日から30日以内に出願人が登録料を納付することで、意匠権設定登録が可能になります。期間内に登録料が納付されない場合は、意匠登録出願が却下されるため注意しましょう。
(参考:産業財産権関係料金一覧|特許庁)
意匠権の効力について
意匠の登録から取得を行うためには、効力の範囲を知っておく必要があります。ここでは、意匠権の効力が「及ぶ範囲」と「及ばない範囲」を解説します。
効力が及ぶ範囲
取得した意匠権は、意匠法第23条にもとづいて、同一もしくは類似する意匠を実施する権利が与えられます。
(意匠権の効力)
第二十三条 意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。ただし、その意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
(参考:e-Gov法令検索)
実施の定義は意匠によっても異なります。たとえば物品の場合は、「製造・使用」、建築物の場合は「建築・使用」、画像の場合は「作成・使用」など、それぞれ異なる定義があります。
効力が及ばない範囲
意匠法上、意匠権の効力が及ばない範囲も存在します。たとえば、個人的実施や家庭内での実施、試験や研究のために登録意匠を実施する場合、国内を通る船舶や航空機、意匠登録の出願時から国内にある物などは効力が及ばないとされています。
意匠権の活用方法
意匠権の取得後は、さまざまな目的で権利を活用できます。
ライセンス
意匠権の所有者は、他者に登録意匠を実施する権利、いわゆる実施権者のライセンスを与えることが可能です。ライセンス使用料を対価として得て、自身の利益にすることも可能です。与えるライセンスの種類はいくつかに分けられます。
専用実施権
意匠権所有者の意思で設定できるライセンス契約の範囲内で、独占的に登録意匠を実施できるのが専用実施権です。専用実施権は特許庁への登録により、意匠権所有者の実施を禁止することもできる権利です。
通常実施権
一方、意匠権所有者と実施権者の両方が実施のライセンスを持つ形の通常実施権と呼ばれる形態もあります。いずれのライセンス種類も、どの程度・どの範囲で実施を許容するのかが決まってくるため、慎重な判断が求められます。
自己利用
意匠権を持っていれば、自己利用も可能です。意匠を量産して利益を得るといった活動も実現可能です。意匠権を持っていれば、権利者自らがその意匠の実施については独占的な権利を有します。他者が無断で自身の登録意匠を実施する場合は、差止請求や損害賠償請求が可能です。
意匠権の侵害について
意匠権が設定されているにも関わらず、意匠権者に対して無断で実施すると意匠権の侵害になります。意匠権の侵害には直接侵害と間接侵害の2種類があるため覚えておきましょう。
直接侵害は、意匠権者以外の第三者が業として登録意匠や類似意匠を実施する行為を指します。間接侵害は、直接侵害には該当しないものの、直接侵害を誘発しうる可能性があるものが該当します。たとえば、意匠登録されている物品を譲渡目的で所有する行為などがこれにあたります。
意匠権を侵害された時の対処
自身が所有している意匠権を侵害された場合、いくつかの対処法があります。たとえば、民事上での対処の場合は、差止請求権や損害賠償請求権によって、侵害の停止や損害補填を求めることが可能です。また、自身の意匠権侵害に関わる物品が輸出入されている場合は、関税法上の手続きによって差し止めることもできます。
意匠権侵害は、民事上の損害賠償請求や、行政処分だけではなく、刑事罰の対象でもあるため、場合によっては刑事告訴も可能です。意匠権を侵害されたことによる被害状況や、経営への影響を把握したうえで、適切な対処を取りましょう。
意匠法に関するよくある質問
意匠登録が必要な理由は?
デザインを意匠登録すると、そのデザインを自分だけが使えるようになります。ほかの会社が真似した商品を作った場合、やめさせることもできます。これにより、自分の商品がほかと違うことをアピールでき、ブランドの価値も守れます。
意匠法と著作権法の違いは?
意匠法は、おもに商品や建物、画像など「使うもののデザイン」を守ります。特許庁に出願して登録が必要です。
一方、著作権法は絵や音楽、本など「芸術や文化の作品」を守ります。こちらは作った時点で自動的に権利が生まれます。守られる対象や手続き、期間などに違いがあります。
意匠法と商標法の違いは?
意匠法は、商品の見た目や形、色の組み合わせなど、工業製品のデザインを守る法律です。たとえば、スマートフォン本体やペットボトルの形など、商品の特徴的な形を守ります。
一方、商標法は、商品やサービスの名前、ロゴ、キャラクターなど「目印」となるものを守ります。
意匠権は創作者の財産を保護する大切な権利
意匠は創作者の大切な財産です。意匠権があることで創作者の財産が保護されて、自身の利益活動を滞りなく行えるようになります。もし意匠権が侵害された場合にも、差止請求または損害賠償請求などの対処が可能です。発見次第すぐに対処しましょう。
弁理士に依頼すればスムーズに進められるでしょう。出願時は先行意匠がないかを確認し、方式審査や実体審査で拒否されるような要件漏れがないかも確認することも大切です。
意匠権に関わる要件については、意匠法に定められているため、事前によく理解しておきましょう。
