近年、働き方改革や社会保障制度の見直しに伴い、派遣社員の福利厚生も充実しつつあります。なかでも、厚生年金への加入は、将来の生活設計において重要な要素の一つです。しかし、派遣社員の場合、正社員とは異なる加入条件や注意点が存在します。
本記事では、派遣社員が厚生年金に加入できるのか、その条件や加入方法、知っておきたいポイントなどを詳しく解説します。
目次
派遣社員でも条件を満たせば厚生年金に加入可能
厚生年金保険・健康保険においては、適用事業所で使用される人はすべて被保険者(加入条件を満たしている人)です。正社員や法人の代表者、役員などは全員被保険者ですが、パートやアルバイトであっても、条件を満たせば加入できます。なお、派遣社員の加入条件は以下の通りです。
- 派遣元の会社が適用事業所
- 1週間の所定労働時間と1カ月の所定労働日数が、同じ事業所内で同様の業務に従事している通常の労働者の3/4以上
また、通常の労働者の1週間の所定労働時間や1月の所定労働日数が3/4未満でも、以下の条件をすべて満たせば厚生年金の対象者となります。
- 週の労働時間が20時間以上であること
- 雇用契約が2カ月を超える、もしくは2カ月を超える見込みがある
- 月額賃金が8.8万円以上であること。
- 学生でないこと
- 会社の従業員数が51人以上
参考:日本年金機構「厚生年金保険・健康保険制度のご案内」
適用事業所とは
厚生年金の適用事業所とは、厚生年金保険に加入する義務のある事業所を指します。厚生年金保険法に基づき、以下の条件を満たす事業所は、原則として適用事業所となり、事業主は従業員を厚生年金保険に加入させなければなりません。
- 法人事業所
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株式会社、有限会社、医療法人など、すべての法人事業所が対象となります。事業主のみの事業所であっても、適用事業所となります。
- 個人事業所
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常時5人以上の従業員を使用する個人事業所が対象となります。農林水産業、サービス業の一部(旅館、飲食店、理容店など)は、原則として対象外となります。
上記以外の事業所でも、従業員の半数以上が厚生年金の適用事業所になることに同意しており、事業主が申請した、厚生労働大臣の認可を受ければ、適用事業所になることが可能です。
参考:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
派遣社員は派遣会社の社会保険に加入する
派遣社員の社会保険料(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)は、原則として派遣会社と派遣社員が共同で支払います。これを労使折半といいます。派遣社員は派遣先企業とではなく、派遣会社との間に雇用関係が成立しており、労働基準法上の使用者の責任が派遣会社にあるため、派遣会社の社会保険に加入することになるのです。
被保険者に該当しない人が被保険者になる条件
厚生年金の対象にならない人でも、一定期間を超えて雇用される場合は、被保険者となる場合があります。表でまとめると以下の通りです。
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被保険者に該当しない人 | 被保険者となる場合 |
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日雇いの人 | 1カ月を超えて引き続き使用されるようになった場合は、その日から被保険者 |
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2カ月以内の期間を定めて使用される人 | 当初の雇用期間が2カ月以内でも、当該期間を超えることが見込まれると、契約当初から被保険者 |
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所在地が一定しない事業所に使用される人 | いかなる場合も被保険者には該当しない |
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季節的業務(4カ月以内)に使用される人 | 継続して4カ月を超える予定の場合は、当初から被保険者 |
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臨時的事業の事業所(6カ月以内)に使用される人 | 継続して6カ月を超える予定の場合は、当初から被保険 |
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出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
厚生年金保険と国民年金の違い
日本の公的年金制度は、2階建て構造になっています。1階部分にあたる国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民皆年金制度です。2階部分にあたる厚生年金保険は、会社員や公務員などの労働者が加入する年金制度です。厚生年金保険と国民年金は、以下のような点で大きく異なります。
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項目 | 厚生年金 | 国民年金 |
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加入対象 | 会社員、公務員など、一定の条件を満たす労働者 | 20歳以上60歳未満のすべての人 |
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加入条件 | 雇用契約期間、労働時間、労働日数などの条件を満たす | 原則として加入条件なし |
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保険料 | 厚生年金の保険料は収入に対して定率(額は収入に応じて変わる) | 原則として全員が同じで定額 |
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受給額 | 納付した保険料の額と加入期間に応じて算定 | 納付した保険料の月数に応じて算定 |
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受給開始年齢 | 65歳(繰り上げ・繰り下げ受給可) | 65歳(繰り上げ・繰り下げ受給可) |
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出典:厚生労働省『日本の公的年金は「2階建て」』
厚生年金は、働いていた際の給料と加入期間に応じて給付額が決定されます。また、現役時代に納付している保険料には国民年金保険料も含まれています。そのため、国民年金分と厚生年金分の両方を受け取ることが可能です。
扶養内で働くのと厚生年金に加入するのはどちらが得?
扶養内で働く場合と、扶養から外れて厚生年金に加入する場合はどちらがいくら得になるのでしょうか。個人の状況や長期的な視点によって異なります。以下、それぞれの特徴を詳しく説明します。
扶養内で働く場合のメリットとデメリット
- 保険料の負担が軽くなる
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扶養内で仕事をする場合、第3号被保険者となり、扶養者である配偶者が加入している厚生年金または共済組合全体で保険料を負担しているため、個別で納付する必要はありません。
- 手取りが増える
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厚生年金保険料を給与から天引きされることがなくなるため、手取りが増えます。
- 税制上の優遇を受けられる
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配偶者の扶養に入ることで、配偶者が配偶者控除や配偶者特別控除を受けることができます。これにより、世帯全体の税負担が軽減されます。
- 将来の年金受給額が減る
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厚生年金保険に加入していないため、将来の年金受給額が減ります。
- 収入の制限がある
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社会保険の扶養内で働くためには、年間収入が106万円(または130万円)未満である必要があります。収入が増えると扶養から外れ、自分で社会保険料を支払う必要があります。
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扶養から外れ厚生年金に加入するメリットとデメリット
- 将来の年金受給額が増える
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厚生年金保険に加入することで、将来の年金受給額が増えます。
- 健康保険や雇用保険の充実した給付を受けることができる
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社会保険に加入することで、健康保険や雇用保険の充実した給付を受けることが可能です。
- 保険料の負担が増える
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厚生年金保険料を支払う必要があり、手取りが減ります。なお、厚生年金保険料は収入によって変動します。
- 扶養手当がなくなる
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企業によっては、社会保険の扶養に入れている人を対象に、扶養手当が支給される場合があります。扶養から外れて厚生年金保険に加入すると、結果的に扶養手当の支給を受けられなくなります。
結局、どちらが得か?
最適な選択は、個々の状況や将来の見通しによって異なります。扶養内で働ければ、各種税控除が受けられたり、社会保険料の負担は軽減したりしますが、働き方に制限がかかる点はデメリットです。一方、扶養から外れて働くことで、個人の税や社会保険料の負担は増えますが、年収の壁を気にせず比較的自由な働き方が可能になり、さらに厚生年金に加入することで、将来に向けた備えが増すメリットがあります。
どちらが良いのかは家族構成やライフスタイルにもよるでしょう。総合的に判断するためには、将来の年金受給額のシミュレーションや、税理士や社会保険労務士など専門家に相談することをおすすめします。
まとめ:派遣社員でも厚生年金に加入できる
派遣社員でも厚生年金に加入することで、将来の年金受給額をアップすることができます。加入すれば保険料の支払いが必要となりますが、老後の生活をより安心なものにすることができます。
加入を検討する際には、本記事を参考にメリット・デメリットを理解した上で、ご自身の状況に合わせて判断することが大切です。一方、社会保険の加入対象範囲が拡大されたことなどにより、派遣会社の社会保険料負担は増えています。これらの負担を少しでも減らすため、コスト削減や業務効率化を検討してみてはいかがでしょうか。
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