人手不足や物流2024年問題、デジタル化の遅れなど小売業界が抱える課題は少なくありません。そして契約業務の煩雑さも小売業界が直面する課題の一つです。
企業規模にもよるものの、数十から数百の業者と取引があり、それぞれで契約期間、決済時期などが異なるため、担当者には多大な負担がかかります。そこで求められるのが契約業務の負担軽減を実現する電子契約の導入です。
本記事では、小売業界の課題を解説したうえで、契約業務にかかる負担軽減に効果を発揮する電子契約のメリットをお伝えします。小売業で契約業務の効率化を検討している担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
小売業界が抱える課題
さまざまな課題を抱える小売業界、そのなかでも主なものとして挙げられるのは次の点です。
人手不足
少子高齢化の影響もあり、あらゆる業種で人手不足が慢性化しています。2024年5月、帝国データバンクが発表した「人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月)」によると小売業関連では「自動車・同部品小売(64.9%)」「家電・情報機器小売(60.4%)」が正社員の人手不足割合上位10業種に入っています。
正社員の人手不足割合(上位10業種)
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ランキング | 業種 | 2022年4月(%) | 2023年4月(%) | 2024年4月(%) |
---|
1 | 情報サービス | 64.6 | 74.2 | 71.7 |
2 | 旅館・ホテル | 52.4 | 75.5 | 71.1 |
3 | 建設 | 59.4 | 65.3 | 68.0 |
4 | 自動車・同部品小売 | 58.4 | 64.1 | 64.9 |
5 | 金融 | 43.6 | 57.4 | 64.2 |
6 | 運輸・倉庫 | 52.2 | 63.1 | 63.5 |
7 | メンテナンス・警備・検査 | 60.1 | 67.6 | 62.7 |
8 | 家電・情報機器小売 | 44.7 | 48.6 | 60.4 |
9 | 医療・福祉・保健衛生 | 43.4 | 58.3 | 57.7 |
10 | 飲食店 | 56.9 | 61.3 | 56. 5 |
出典:人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月)
また、非正社員でも「各種商品小売(60.8%)」「飲食料品小売(57.3%)」と人手不足が深刻化しています。
非正社員の人手不足割合(上位10業種)
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ランキング | 業種 | 2022年4月(%) | 2023年4月(%) | 2024年4月(%) |
---|
1 | 飲食店 | 77.3 | 85.2 | 74.8 |
2 | 旅館・ホテル | 56.1 | 78.0 | 63.8 |
3 | 各種商品小売 | 52.3 | 56.9 | 60.8 |
4 | 人材派遣・紹介 | 53.6 | 58.3 | 59.7 |
5 | メンテナンス・警備・検査 | 43.9 | 49.0 | 57.8 |
6 | 飲食料品小売 | 48.7 | 58.7 | 57.4 |
7 | 教育サービス | 41.7 | 38.7 | 47.2 |
8 | 金融 | 28.4 | 41.6 | 45.3 |
9 | 農・林・水産 | 43.3 | 49.5 | 42.1 |
10 | 飲食料品・飼料製造 | 39.3 | 39.6 | 40.7 |
出典:人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月)
小売業で人材不足が慢性化している理由として少子高齢化以外に挙げられるのが、ほかの業種に比べ賃金が低い傾向にある点です。2023年12月、転職情報サイトdodaが行った「平均年収ランキング」によると、小売業(小売/外食)は10業種のなかで最下位となっています。
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業種分類 | 平均年収 |
全体 | 男性 | 女性 |
金融 | 469万円 | 572万円 | 394万円 |
メーカー | 466万円 | 506万円 | 381万円 |
総合商社 | 464万円 | 525万円 | 374万円 |
IT/通信 | 446万円 | 478万円 | 393万円 |
建設/プラント/不動産 | 432万円 | 470万円 | 364万円 |
専門商社 | 424万円 | 468万円 | 361万円 |
インターネット/広告/メディア | 423万円 | 469万円 | 381万円 |
メディカル | 408万円 | 499万円 | 354万円 |
サービス | 377万円 | 419万円 | 335万円 |
小売/外食 | 359万円 | 400万円 | 317万円 |
出典:転職情報サイトdoda「平均年収ランキング」
また、小売業は土日や祝日も休みにならないケースが多く、賃金が低いうえに休みが取りにくいことが人材不足に少なからず影響しているといえるでしょう。
バックオフィス業務の複雑化
バックオフィス業務の多くでデジタル化が進まずアナログ業務が多いのも小売業の課題の一つです。2022年12月に株式会社エイトレッドが発表した「小売業のバックオフィス業務運用の実態を調査」によると、47.6%が「アナログ業務が多い」と回答しています。
出典:https://www.atled.jp/wfl/
また、同調査では、本社と店舗間の申請・承認(決裁)業務の4割以上が「月に100件以上」発生していると回答。外部との契約業務に加え、社内での決済業務が大量にありなおかつアナログでさばかなければならないのは大きな課題といえます。
出典:https://www.atled.jp/wfl/
物流2024年問題への対応
物流2024年問題とは、2024年4月よりトラックドライバーの労働時間に上限が設定されるものです。大企業では2019年4月、中小企業でも2020年4月より施行されていた時間外労働の上限規制が、ついに物流業界でも2024年4月から施行されます。小売業界にとって物流2024年問題がもたらす主な影響は次のとおりです。
物流コストの上昇
物流業界では時間外労働の上限規制に対応するため、2023年頃から運賃の値上げを行っています。
たとえばヤマト運輸では2023年4月から宅配便10%値上げ、さらに2024年4月にも値上げを行いました。佐川急便も2023年4月に約8%値上げ、そして2024年4月からさらに値上げを行っています。
物流コストの上昇は商品の仕入値に大きく影響するため、商品価格を上げざるを得なくなる可能性が大です。また、ECや配送サービスをしている場合、送料の値上げ、無料配送価格の改訂も必要になります。
仕入回数や納期の見直し
全日本トラック協会が2024年5月に発表した「経営分析報告書 令和4年度決算版」によると、2021年10月~2022年8月の経常損益率は0%です。車両が51台を超える中規模以上の事業者は1~2%台ですが、20台以下の小規模事業者は1~3%のマイナスで非常に厳しい状況となっています。
出典:全日本トラック協会「経営分析報告書 令和4年度決算版」
利益が少ないなかで物流2024年問題に対応するには、ドライバーの労働時間をこれまでよりも減らさなければなりません。その結果、これまでよりも店舗に商品が入ってくる回数は減少します。
そのため、在庫管理や商品納期の見直しも必要になるでしょう。また、飲食料品を扱う店舗では、生鮮食品を減らし冷凍食品を拡充するもしくは商品ラインナップ縮小の検討も必要になるかもしれません。これまで以上に慎重な需要予測や発注計画など担当者の負担が増大する可能性も高まります。
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デジタル化の遅れ
今、小売業界では、オンラインから実店舗へ誘導するO2O、顧客の消費行動に合わせオンラインと実店舗の行き来をしやすくするオムニチャネル、そしてオンラインと実店舗の区別なくどの場でも顧客に良質な体験を提供するOMOなどが求められています。
しかし、前出の「小売業のバックオフィス業務運用の実態を調査」でアナログ業務が多いというデータが示すように、小売業界において思ったほどデジタル化は進んでいません。その理由の一つはIT人材の不足です。
IT人材不足は小売業界に限った話しではなく、今後、とくにビッグデータやIoT、AIなどを扱う先端IT人材、情報セキュリティを扱う人材の不足はどの業界においても深刻な課題といえます。
デジタル化の推進には、ICT人材が不可欠であるが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査結果(2019年度)37によると、IT人材の量について、「大幅に不足している」又は「やや不足している」という回答の合計は、89.0%にも達している。
出典:総務省「令和3年版 情報通信白書|ICT人材の不足・偏在」
小売業界で求められる契約業務の効率化
小売業界での人材不足や物流コスト上昇といった課題を解決するには、現状多くの時間を割かれている業務の効率化が欠かせません。とくに必要なのが契約業務です。
前出の「小売業のバックオフィス業務運用の実態を調査」でもデジタル化されていない業務で、契約書管理は39.8%と2.5社に1社はアナログでの作業となっています。また、広義では契約業務に含まれる領収書管理も44.7%とほぼ半数に近い数字です。
これらの数字を見る限り、契約業務をデジタル化して効率化を進めることが、小売業界の課題解決に大きな効果を発揮するといえるでしょう。
出典:https://www.atled.jp/wfl/
小売業で必要な契約業務
小売業で必要な契約書は多岐に渡ります。そのなかでも主なものとして挙げられるのは次のとおりです。
雇用契約書
雇用契約書は、社員、アルバイト、パート、契約・派遣社員などを雇用する際に締結する契約書です。
主な契約内容は労働時間、給与、雇用条件などで社員以外は契約期間なども含まれます。
また雇用関連の契約では、法定労働時間を超えた労働や休日労働をさせる場合には36協定届も必要です。
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店舗賃貸借契約書
店舗賃貸借契約とは、新たに店舗を借りる際に締結する契約です。
店舗の場所を所有しているオーナーと自社の間で賃貸借の契約を行います。主な契約内容は店舗の表示、賃貸借期間と契約の更新、賃料、保証金、解約についてなどです。
仕入契約書
仕入販売を行う小売業者に必要なのが仕入契約書です。
商品を仕入れる取引先すべてと締結する必要があります。具体的な契約内容としては、仕入形態、価格・支払い条件、発注数量、納期、運賃負担の有無、トラブル時の対処法などです。
また、新たな取引先と契約する際には、自社の秘密情報を漏えい、不正利用させないための秘密保持契約(NDA)の締結も必要になります。
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物品売買契約書
物品売買契約書とは、販売する商品以外のものを購入する際に締結する契約書です。
主なものとしては商品をディスプレイする棚や照明、ポップ、装飾品などの店舗用品が該当します。
リース契約書
リース契約書とは、店舗で使う電話、コピー機、パソコン、業務用冷蔵・冷凍庫などをリースする際に締結する契約書です。
リース期間、保守・修理、更新、返還、契約違反などが主な契約項目となります。
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販売店契約書
販売店契約書とは、特定の店舗に自社の商品を卸して販売をしてもらう際に締結する契約書です。
すべて自社で店舗を展開するのに比べ迅速かつ低コストで市場に流通させられるメリットがあります。具体的な契約内容は、契約者、販売対象となる商品と地域、独占販売権や競合商品の取扱い、価格・支払い条件、商標の利用、契約解除についてなどです。
販売委託契約書
販売委託契約とは、店舗の一部で特定企業の商品を販売する際に交わす契約です。
家電量販店が特定の電機メーカーの商品を販売する、スーパーの一部で特定の食品メーカーの食材を販売するなどが該当します。通常の仕入契約と異なるのは、商品を自社で仕入れて販売するのではなく、店舗の場所を提供し、販売額に応じて手数料を受け取る点です。
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クレジット関連の契約
商品代金の支払い方法としてクレジットカードを利用する際に締結する契約です。クレジット払いを導入するには、大きく直接契約と決済代行会社経由契約の2つに分けられます。
直接契約とは、小売店がクレジットカード会社と直接契約するものです。特定のカードブランドのみと契約するのであればこの形式がよいでしょう。ただし、複数のカードブランドとの契約になると、手間がかかるうえ、それぞれの入金日が異なるデメリットがあります。
決済代行会社経由契約は、自社とクレジットカード会社の間に決済代行会社をはさむ形の契約です。個別にクレジットカード会社と契約を締結する手間が省けるうえ、一つのルールで複数のクレジットカード会社と契約できるメリットがあります。ただし、場合によっては決済手数料が高くなってしまうのがデメリットです。
ECサイトを運用する際の契約
ECサイトを運用する際にはさまざまな契約が必要になります。通信関連の契約以外に必要となる主な契約は次のとおりです。
Webモール出店契約書
楽天市場やYahoo!ショッピングなどのWebモールに出店する場合、それぞれの運営会社と出店契約を締結します。
ECサイト制作会社との業務委託契約書
Webモールを使わず、独自店舗を制作会社に依頼して制作してもらう際の契約です。制作だけ依頼して運用は自社で行うのか、運用も含めて依頼するかにより契約内容、料金も大きく変わるので事前に確認したうえで契約を行います。
また、モールではなく独自店舗を制作する場合、ショッピングカートを提供している会社、レンタルサーバー会社などとの契約も必要です。契約によっては制作会社が代理で契約してくれる場合もあるので必ず契約の際に確認しておきましょう。
そして、ECサイトを運営する際にもう一つ欠かせない契約が、商品の配送に必要な物流委託契約です。物流会社と運賃や支払い方法、支払い期限、契約期間などについて契約をします。さらに商品を倉庫から出荷する場合は倉庫の賃貸借契約も必要です。
広告運用契約書
広告運用契約とは、ECサイトの広告作成、運用を依頼する場合に締結する契約です。支払い形態は成果報酬か固定か、契約期間はどうするかなどを詳細に打合せしたうえで契約します。
また、アフィリエイト広告を行う場合は、アフィリエイトサービスプロバイダとの契約も必要です。
ECサイトに関しては、自社でどこまで行うかにより、契約する会社、契約内容が大きく変わります。そのため、事前に自社で何ができて何ができないかを明確にしておきましょう。
契約業務を電子化するメリット
ここまで小売店舗に必要な契約書の種類を紹介してきました。上述した以外にも実店舗であれば、電気や水道、ガス会社との契約も必要です。
これらすべての契約をアナログで行うのは担当者の負担が大きすぎます。そこでポイントとなるのが契約業務の電子化すなわち電子契約の導入です。電子契約の導入により、主に次のようなメリットを得られます。
更新漏れ、管理ミスによる損失の低減
アナログ作業では、更新時期を見逃してしまう、管理ミスで契約書を紛失してしまうなどが起こる可能性が少なくありません。しかし電子契約であれば、契約前にアラートを出すことが可能です。また、クラウド上で管理できるため、基本的に紛失することもないため、ヒューマンエラーによる損失リスクが低減します。
担当者の負担軽減
電子契約は書面による契約ではないため、収入印紙を貼付する必要がありません。契約書の印刷、郵送の手間やコスト低減も可能です。契約業務の大幅な効率化の実現により、担当者も本来の業務に集中できるようになり、生産性向上も期待できます。
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まとめ:電子契約の導入で小売業の契約業務効率化を実現させよう
小売業界は、仕入れ先、店舗の所有者、物流、決済会社など多様な業者との契約が必要です。さらにECを運営する場合は、レンタルサーバー事業者、Webサイト制作会社、モール運営会社、広告代理店など取引先はより多様化します。
これらすべての業者と書面による契約を行うのは大きな手間とコストを要するため、本来業務であるお客様とのコミュニケーションや接客にも集中できません。
そのため契約業務の効率化は喫緊の課題であり、ヒューマンエラーの削減、担当者の負担軽減、コスト削減などの実現を目指すのであれば、おすすめなのが電子契約の導入です。
書面での管理が不要になるうえ、発注業務や領収書の作成・管理もすべて電子契約で実現します。小売業界で契約業務の効率化や人材不足でお悩みの際は、ぜひ、電子契約導入を検討されてみてはいかがでしょう。